『ワンダーランド』全曲解説

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~『ワンダーランド』発売・配信に寄せて~

金子TKO:
ユニット再始動の1年の締めくくりに、良い音源を出せて良かったです。尊敬する細野晴臣さんというミュージシャンがどこかで「僕の歌は唱歌とかああいう物に近い」と書いてましたが、我々の音楽も「赤とんぼ」とか「荒城の月」みたいな唱歌のように長く人から愛されるものになればいいなあ、というのが個人的な野望です。皆さんよろしくお願いします。

滋野有紀子:
雲に名前初の音源『ワンダーランド』が完成しました。雲に名前は2015年に発足したので、4年目にして初の音源ということになります。バンド「ノニウス」として活動していた2年間が含まれるので、雲に名前の活動は実質2年、そして現在のアコギ、エレキ(そしてそれをチェンジする)体制になってからは1年。『ワンダーランド』は新体制1年目の集大成の音源となりました。まずは、手探りで新体制での活動を始めたにもかかわらず、1年目を終える前にちゃんとしたCDを作るところまで来れたことを嬉しく思います。それから、ミックス・マスタリング・ジャケットデザインをそうの砂粒くんにお願いし、自分たちの力だけではなく人と一緒に作品を作れたことも嬉しく思います。さらに、配信という場所問わず誰もがアクセスしやすい形で作品を発表できたことが嬉しいです。

1.ワンダーランド

金子TKO(作詞作曲、アコースティックギター、歌、シェイカー):
子供の頃、家に父親の買った「サイモン&ガーファンクル」のDVDがあり、その1曲めのポール・サイモン氏のギターを弾く指の動きが好きでした。 

曲の最初から出てくる、人差し指と中指でテロテロやる動き。ポール・サイモンほど細かくはないけど、イントロ等で同じ指の動きを使ってます。

歌詞は、シリアの内戦で爆撃を受けている女の子の「私は今夜死ぬかもしれない」というツイッターのつぶやきを見たのがきっかけで書きました。

こちらがその女の子のつぶやきを見れるのなら、その子もこちらのつぶやきを目にする機会があるかも知れない。俺の歌を聴いてもらえる時があるのかも知れない。純粋な可能性として。

そうしたら俺の歌を彼女達はどういう風に聴くのだろうか?自分達には関係の無い安全地帯から平和ボケが歌っていると思われるだろうか?それともホームページを辿って歌詞をなぞって翻訳ボタンを押してくれるだろうか?

歌が世界中に開かれていればいいと思う。「通じる」かどうかではなく、「開かれている」ことが大事だ。目の前のあなたにも、地球の裏のあなたにも、人間でも、人間じゃなくても。

滋野有紀子(エレキギター、歌):
本当はワンダーランドが一曲目の予定ではなかったのですが、そうのくんが描いてくれたカッコよくファンシーなジャケットを見て「これは明るく始まりたい」と思い曲順を変えました。

明るい曲調ですが歌詞のテーマは重く、TKOらしい(私の曲にはない)多面性を感じる曲です。はじけるような生命力に溢れた夏の子供たちに、その生命の謳歌を阻むような暗い影が忍び寄ります。

私はエレキギターと歌(”ヘイヘイ”など)をやりました。エレキギターのフレーズはほぼTKOが作ったものです。私はこの曲で初めてまともにリードギター(主に単音でメロディを弾くギター)をやることになり、日々苦戦しましたが今では楽しく弾けるようになりました。歌とギターの掛け合いが楽しい曲です。

TKO作の曲ですが、タイトル「ワンダーランド」は私がつけました(タイトルつけるのが好きなのでタイトルだけ命名することも多いです)。

2.Cry for the moon(クライ・フォー・ザ・ムーン)

金子TKO(作詞作曲、アコースティックギター、歌):
怒ったり悲しんだり、というのはそれ自体はネガティヴな感情かも知れないけど「自分が何を求めているか」という事を知るには重要なものさしだと思う。
怒るべき時に怒らない、悲しむべき時に悲しめなかったら、結局自分が自分でなくてもいい、という事になってしまいはしませんか? 

滋野有紀子(エレキギター、コーラス):
初めにおことわりすると(何度か書いていますが)、オリジナルタイトルは英語表記の「Cry for the moon」ですが、各種ストリーミング・サブスクリプション配信では「クライ・フォー・ザ・ムーン」とカタカナ表記になっています。なぜかというと、配信の手続きで「Cry for the moon」を提出したところ、「同一アルバム内に複数言語のタイトルが混ざっているとNG」ということで申請を受理してもらえなかったからです。少し調べたところ最近Apple musicの規約が変わりそのようになったとか…。(配信仲介業者によってはできるところもあるのかも…?) しかし日本には厳しいシステムだなと思います(英語圏以外はみんな同じような境遇なのかも)。日本語においてはもはや漢字・ひらがな・カタカナ・アルファベットは並列した存在で、アルファベットだけが他言語だという認識はあまりないのではと思います。

この曲も作詞作曲はTKOで、タイトル命名は私です。「Cry for the moon」は高校生のころ電子辞書でたまたま見つけて気に入っていた英熟語です。成績が悪かったので高校時代の勉強はなかなかつらいものでしたが、姉のおさがりの電子辞書をピコピコ使いこなして色々な言葉や歴史人物(高校の勉強には関係ないやつ)を調べるのはすごく楽しかったです。比較的「ありがち」なタイトルをつけるのが好きで、それはなぜかというとたとえば「Cry for the moon」という"テーマ"なら私たちはこう!という、中身を勝負に出したい気持ちが強いからだと思います。タイトルは”テーマ”、”お題”のように考えています。

この曲には「空に月が綺麗 今日も月が綺麗」というフレーズがたくさん出てきます。夏目漱石が「I Love You」を「月が綺麗ですね」と訳したという噂がありますが、私はあれはキザな感じがし過ぎてあまり好きじゃありません。「月が綺麗ですね」というくらいなら、私は「このうどんおいしいですね」とか「あの建物変な形ですね」とかいうふうに訳したいです。

3.オールドファッション

金子TKO(エレキギター、コーラス):
今回唯一の滋野作詞作曲。タイトルの「オールドファッション」は「昔ながらの」とか「おなじみの」みたいな意味の言葉だと思うのですが(ドーナツの名前でもありますが)、雲に名前はメンバー2人とも流行を追いかけるのが得意ではなく、今のところコツコツとギターを弾きながら曲を作り、ライブの演奏でもバックに音源を流したりもせず2人だけで、オールドファッションなスタイルでやっています。

時間も季節も気が付いたら意味も無く進んでいってしまって、自分の好きな事や続けている事が色褪せて見える事があるかも知れません。でも、今まで過ごしてきた時間に価値があるか無いか、という事は時代や他人が決める事ではなく、自分で決める事です。

この曲の出だしの歌詞には、「未来」という単語が入っていますが、自分は実はそれは過去の時間を肯定する為の言葉なのだ、という風に解釈しています。

「夢のような未来は今ここ」と自分で声に出したその時から、過去の時間に価値が生まれていくのだと思います。そして過去と今が繋がって、今の連続が未来になっていくのです。

滋野有紀子(作詞作曲、アコースティックギター、歌、コーラス):
昔のことを曲にしたことはなかったのですが、この曲は地元で過ごしていた10代の頃のことを思い出しながら書きました。大人になるにつれて子供の頃の記憶は不思議と濃厚になり、自分の中で大きなウエイトを占めるようになってきたように思います。年々、1年間という時間の(体感の)長さがどんどん短くなっていることが手に取るようにわかります。そして、自分が思っていたよりもはるかに、子供時代という時間は人生において長く重たいものだったのだとわかるようになりました。

これは学校(今通っている大学)で教授に教わったことですが、「時間」というのは、キリスト教世界(欧米)では横一直線のグラフのように捉えられるようです。<過去―現在―未来>。ちょうど歴史の年表と同じですね。それは、イエスキリストが西暦0年に生まれて、未来のいつかに復活する…というキリスト教の考え方から来る捉え方のようです。今の私たちも、どちらかというと時間をこの一直線方式で捉えているように思います。しかし、かつてアジア世界では時間は一直線ではなく、「循環するもの」だと考えられていたといいます。朝、昼、夜と太陽が回り、また朝になりそれを繰り返す。春、夏、秋、冬と季節が回り、またそれを繰り返す。時間は「円」状に循環している…という捉え方です。私は初めて教授にその話を聞いたとき、とても驚き感動しました。時間を循環しているものと捉えると、朝目が覚めたら「昨日と同じ朝」に戻ってきている、と考えられます。つまり、今日の朝は10年前の朝とも同じ朝ということです。自分が勝手に「過ぎ去ってしまった」と思っていた過去の時間は、本当は戻れる(というか戻っている)し、やり直せるものなんじゃないかと思ったのです。それは今までに考えたことのない、画期的な概念で、自分の感覚を大きく変えました。

この曲では「宛先不明のまま郵便ポストに投げ続けようマイソング」と歌いましたが、最近の私は宛名を書いちゃおうというくらいの勢いがあります。『ワンダーランド』がたくさんの人の家に届きますように。

聴く方法はこちらから



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