「胡蝶の手紙」感想(※本筋に言及します)

前回の掘り出せ!推しメディアのつづきです。

「いわゆるネタバレを含む感想」部分のみです。
元々、事前注意文を添えて前回記事の最後尾につける予定でしたが、直近で見に行く方の不快につながらないよう別にさせていただきました。


本編感想



「戦争や経過を知らない・興味の薄い世代」として描かれた主人公・みかが台湾人たちとの交流のなかで少しずつ「長い年月」を実感していく、振り返りをひとつのテーマにしたお話でした。当事者である「老人の回顧」などでは昔からあるテーマですが、宮島咲良さんの明るさを投影したような主人公・みかの目線で、けっして重すぎることなく、軽すぎることなく、その長い年月が育んだドラマにふれていきます。

前回記事のキャストへの感想でも述べたように、阿澄佳奈さんと宮島咲良さんの「元気なタッグ」で成立する物語ですが、ふたりは決して馬鹿なわけでも愚かなわけでも、にぶいわけでもありません。むしろ「聡い子」たちです。愚鈍という性質、どうしても「もの知らずな若い者」として描くときに担われやすい部分なので、切り離してくれていて、けして説教臭くなく見ることができます

他の方の感想でもみかけましたが、台湾語が度々登場します。タカハシシンノスケさん、ChiCOさんの台湾語、その流暢さに感動します。
場合によっては訳されずに話が進む場合もあります。(それがひっかかって気になるような造りにはなっていません。)物販で購入した上演台本では、その部分がどのような気持ちで読むものなのかを演者に示すように日本語訳も書かれていました。

※主人公・みかが親友・ヤートンと再会するのが台湾桃園国際空港というのも英語のアナウンスで示されています。

ネタバレなしの方でも書きましたが、今作は朗読劇という表現ですが全体的に沈黙や声にならない声で示されるコミュニケーションが度々あり、言語情報以上に演者が示そうとしている情報量はかなり多く詰まっていました。
前田玲奈さんの演技は特にそうした要素を強く持っていて、演技が稚拙な場合には作品全体の評価を著しく下げる部分で、本当に達者な演技で締めてくれてありがとう、といった部分です。

このハイコンテクスト(言語外表現)の性質は、「台湾」をテーマにしていることもあり、戦後教育の経過など、全ての観客が全ての文脈を受け取るのは少し(もしくは、かなり)難しいかなとも感じましたが、「全部分からなくても良いよ」。「それぞれに分かる部分だけで」。きっとそれでも伝えたいことは伝わって、面白いと思ってくれると思うから
……という脚本や演者の方々の、ある種の自信がみえた作品です。事実、そうだと思います。具体的にはビンロウの薬効や台湾の歴史などについても「分からなくて難しかったな」という感想にはならないよう細心の配慮がされています。

「当時、台湾で日本語教育を受けた年齢層」が現代90歳以上となって、ますます当事者と触れる機会が減っていくことは間違いありません。こうした物語に落としこまれることで、反省ばかりでなく「歴史の良い側面」も今後に受け継いでいくのは大切なことですね。

もうひとつのテーマである「(胡)蝶」は元々、「胡蝶の夢」などでも用いられるように夢と現、幻想と現実などの境界が曖昧なことを示す符号でもあり、「胡蝶をテーマにした作品は幻想文学の色合いが強い」印象を持つ人も一部いると思いますが、今回そのあたりの要素はかなり薄いです。

アサギマダラに代表される海渡り(迷い蝶)などの性質から日本と台湾を結びつけるファクターとなっており、時代を問わない(当時から現代にもつづく)普遍的なものとして描かれています。(※作中で迷い蝶の種類は明言されません。)

また、演者のみなさん、実年齢と大きく離れた役どころを担当されています。(おそらく「2014年から活動を開始しているChiCoさん」が演じる「ファン・ウツ(17歳)」が最も乖離幅の少ない関係性です。)
アニメと声優の関係のなかでは当然のことですが、実際には外見も加わる演劇の要素も強い今作では、役への擦り合わせ方へで独特の工夫をそれぞれしていました。

特に95歳の超高齢を演じたタカハシシンノスケさんと前田玲奈さんは相当に演技の選択が難しかったのだろうなと感じる部分が沢山ありました。タカハシシンノスケさんはアフタートークにて「95歳にしては元気すぎる(演技)」というような振り返りもされていて、ケアマネジャー経験のある自分からみても「そうかも」と思う部分もありますが、実際に「95歳相当に元気のない演技」では文脈を結ぶのが難しい物語でもありました。今作においては「95歳」という設定も動かしようのないもので、落としどころとしては良かったんじゃないかと感じています。

今作の感想で、繰り返し「淡い青春」というような表現をするようにつとめています。「恋愛」がテーマではないなか「往年の恋慕」が話の軸に据えられる、というバランスの取り方が難しそうな物語・脚本でしたが、前田玲奈さんの「姉」らしくもあり「淑やかな老婆」としての演技でそのバランスを最後に取り切った、というような印象です。

作中で歌われる「お使いは自転車に乗って」(表記:「お使ひは自転車に乗つて」)を主題歌にした映画「ハナ子さん」は、主人公の人物像でいえば、後年の「サザエさん」につながるような明るく元気な女性像が描かれたようで、そこだけ切り抜けば宮島咲良さんや演じるところの主人公・みかにも通じる部分を感じます。

ただ作品自体の戦意高揚性には触れないように、その特徴を持つ主題歌だけを引用したのは、凄く良い手法であったように思います。(劇中では作品のタイトルも言いません。)

ことさらに反戦性もなく、当時から今を生きる(生きた)2人の年月を優しく示してくれました

終始、こうした細やかな配慮やバランス感覚を強く感じる、本当に「現代的な作品」でした。誰にでもお勧めしやすい作品です。


こちらの感想記事はネタバレを含むということで千秋楽開演後に公開させていただいていますが、舞台や演劇の感動は実際に参加することでしか得られない要素が沢山あります。
そうした熱量を汲み取りやすくするための文章、と受け取っていただければ幸いです。

次回以降の公演があればぜひ舞台で演者たちの息遣いを感じてみてください。

#スーパーミヤジマンヒーローズ
#胡蝶の手紙


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?