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伊能忠敬体験記

みなさんご機嫌いかがですか?日々何かを測量していますか??
そんな測量大好きな皆さんに朗報です()

今年は高校だけじゃなく、中高一貫校ということもあって中学校の社会の授業も少しばかり担当しております。先日、江戸時代の文化について授業をしていて、伊能忠敬による日本地図作成の話が出てきたわけでございます。

何を隠そうわたくし、学生時代は考古学に勤しんでおりまして、その中でも図面の作成と測量に関してはなぜかものすごく拘って修行をした経験があるのです。

すごくクラシカルかつアナログな測量から、トータルステーションを用いたデジタルな測量まで、色々とやりましたねぇ・・当時から「江戸時代に全国測量はヤバいやろ」と伊能さんのことはリスペクトしていましたが、そんな日々が思ってもいない形で実を結ぶこととなったわけです。


授業中にふとした思いつきから、生徒たちに「伊能忠敬が実際にやった測量と全く同じとはいかないけど、同じようなやり方で追体験してみるか」と投げかけてみたわけです。流石に道具の自作とかも必要だと思っていたので少し準備期間を設けて、試行錯誤の末に誕生したのが「伊能忠敬くん3号」です。

伊能忠敬くん3号(1号・2号は存在しません)

自宅の納屋から使っていない洗濯物を干すための突っ張り棒?を盗み出し、ホームセンターで塩ビの板(3mm)を探し回り、分度器と方位磁石を追い求め、超精度で組み上げたのがこれ、伊能忠敬くん3号です。

使い方はいたってシンプル。
①最初の基準点に設置して磁北を合わせる
②そこから測点の方向に角度を計測する
③基準点(伊能くんを設置している測点)から次の測点の距離を測定する

の繰り返しです。測点を進みながら角度と距離を計測していく方法は基本的に「導線法」と呼ばれており、伊能忠敬も用いた手法となります。本来は測点ごとに磁北との角度を計測しますが、今回は安物の方位磁石が不安すぎたので、磁北計測は最初の基準点だけにして、後は元来た測点の方向からの角度を継いでいく形式にしました。

お気づきの人もいるかも知れませんが、この方法だと角度の計測で失敗すると大変なことになります。どれくらい大変なことになるかはこの後わかります笑。

【いざ測量】
まず、何を測量するのが1時間の授業として収まりがよく、かつ「やった」という実感が湧きやすいのかを見極めるため、学校及びその周辺施設をジロジロ見ながら徘徊するという不審者ムーブから始めました。

最初は学校施設(校舎配置とか)を測量してみようかと思いましたが、こいつら直線的すぎて何も面白くない。次から校舎はガウディさんに設計してもらってください()

我が校、正門を出てすぐに公園があるんですが、そこを伊能くん片手に徘徊していると、ブロックで縁取りされた道を発見しました。しかも、サイズ的にも程よい上にいい感じにS字にうねっている。これだということで後輩に手伝ってもらいながら測量実験を開始しました。

基本的には先程書いた通りの手法ですが、測量経験者としてのアドバンテージもあるので測点は最低限に抑えつつ、方向の決定については誤差が生まれにくいようにかつての経験を思い出しつつ、ささっと測量を済ませて作図をしてみました。それがこちら。

わっきーバージョン(縮尺=1/100)

うん、悪くない。縮尺も100分の1であれば、生徒たちが作図するときにも楽なので、本当にちょうどいい大きさでしたね(4.2メートルと計測したら作図上は4.2センチで良いのだ)。

と、陰ながらの努力はひた隠し、測量体験当日を迎えました。1時間を測量に充て、翌日の1時間で作図をする、という流れ、実際の作業の方法などを生徒たちに説明し、現地にて作業をしてもらいながら補助をするという感じで取り組みました。

最初は戸惑っていた生徒たちも、やって行くうちに「なるほどなるほど」という感じに要領を得ていったようで、折り返し地点を過ぎる頃にはずいぶん慣れた感じでサクサクっと測量をしていましたね(まぁこれが落とし穴だったということにこの時誰も気づいていないんですが・・・)。

そして2クラス連続で授業だったんですが、どちらもスムーズに1時間で測量を終えることができ、翌日の作図へと向かうわけでございます。

作図では小学生の時以来久しぶりに手に取った巨大分度器を使って、ホワイトボード(黒板ではないのである)にて作図説明を実施。生徒一人一人に各クラスでの計測データを配布、合わせて作図用紙も配布し、みんなで作図作業に突入しました。

しばらくすると、どちらのクラスでも「あれ!?」という声が上がりました。様子を見に行くと、どうやら計測データにミスがあったようでした(基本的には角度の計測ミスですね)。とはいえ、ミスすることも大切ということでそのまま作図してみましょうという形で進行。出来上がった図を見てみんなで爆笑。

生徒たちのミスもあるかもしれないと思い、授業の後で自分で作図してみましたが、生徒たちが見せてくれたものとほぼ一致していましたね・・・。
それがこちら。

2年A組は末広がりでございます
2年B組は芸術的でございます

これ、先ほど言った、対岸に折り返した後すぐの辺りでどちらのクラスも角度を計測ミスしている感じなんですよね・・・両クラスのちょうど中間だと良かったような気がしますが、こういう偶然もまた趣深いですね笑。

生徒たちの感想としては「難しかった」というものが多かったです。たった1時間、たったこれだけのものを計測して作図するだけでもこんなに大変なんだね、と言うことは、伊能忠敬が全国を計測して地図を作成したことの大変さが少しでも想像できたかな?という感じで授業は終わりました。

【終わりに】
本当は、もっと色んなテーマでもっと体験的な学びに触れさせてあげたいと思っていますが、オレのような適当な人間ですら学校での業務にはそんなに余裕はないのが現場の現状でもあります。

学校の先生って(オレは除いておこう)、きちんとした環境で取り組んでもらったらものすごい力を発揮する人、たくさんいると思うんですよね。そんな風になっていったらいいのにな、とはいつも思っています。

オレは楽しそうなことに飛びついてるだけなので、そんな高尚なものでは一切ございませんが、「学ぶ喜び」は人生のテーマとして探究しながら歩いています。

今回も、そんな思いで伊能さんと少しだけ歩いてみました。

歩幅は69センチで。

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