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レセコン・電子カルテ業界の取り巻く状況と今後について(2024年8月時点)


レセコンや電子カルテを取り巻く状況は、直近3〜4年において、それ以前の業界状況から大きく変わりつつあると感じます。マイナ保険証や電子処方箋、電子カルテ情報拠有サービスといった行政関連の動きの加えて、クラウド製品の台頭、コロナによる医療提供体制の変遷など、など業界にとっては大きなインパクトのある出来事が続きました。

元々この業界はビジネスとしてのハードルが高く、新規参入が多くありません。そのせいもあり、保守的で旧態依然とした思考が横行していると身をもって実感してます。しかしこの数年の流れを鑑みると、従来のやり方が通用しなくなり既存のビジネスはいずれ立ち行かなくなるだろう、この先5〜10年で業界構図が一変するだろうと漠然と感じてました。

この漠然とした予想について、もう少し具体的に考えるために直近で起こった業界に影響を与える出来事について整理しました。


診療報酬改定2024と医療機関経営について

2024年施行の診療報酬改訂において具体的な方向性として下記の4つが示されてます。

①現下の雇用情勢も踏まえた人材確保・働き方等の推進

②ポスト2025を見据えた地域包括ケアシステムの深化・推進や医療DXを含めた医療機能の分化・強化、連携の推進

③安心・安全で質の高い医療の推進

④効率化・適正化を通じた医療保険制度の安定性・持続可能性の向上

https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000188411_00045.html

細かい部分は抜きにして大枠で捉えると「このままでは医療保障制度の存続が危ないから、医療DXや医療機関間の連携をより効率的に、システム化・データ化しながら、医療従事者の働き方も持続可能にできるように改善していこう」という趣旨であると私なりに解釈してます。この流れについては、これまでも示されてきているものであると思いますが、今回の改定では行政の意向が明確になり、医療機関に求める条件がより具体的に、より厳格化されているに思えます。

例えば医療DX推進体制整備加算は、オンライン資格確認システムの他に現在義務化ではない電子処方箋や電子カルテ情報共有サービスを導入する前提の算定項目です。また、生活習慣病(糖尿病、脂質異常症、高血圧症)が特定疾患療養管理料から外された件についても、明らかに生活習慣病管理料算定へ移行が促されており、生活習慣病に関して国が統合的に管理・データ収集しようとする意図が見受けらます。

これらは一部の変更点にすぎませんので、診療報酬改訂については改めてアウトプットする機会を作りたいと考えてますが、総じて国の求める「医療DX化」や「地域のなかで求められる機能」等を満たしていないとこれまでと同等の点数を取ることが難しくるような設計をされてます。この流れについて行けない医療機関の経営は厳しくなるものと予想しています。


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クラウド製品の台頭

完全クラウド型の電子カルテ製品がこの数年で一気に市場に広がりました。エムスリーデジカルやメドレーのような振興ベンダーがクラウド製品で勢力を拡大している一方、老舗ベンダーは苦戦を強いられています。

クラウド型製品を販売しているベンダーが市場の中で優位になっている背景としては、次の点が挙げられます。

  • 価格
    クラウド型製品はオンプレミス型と比較して価格的が抑えられる傾向にあります。電子カルテの導入にかかる費用として、大きく分けて3つあります。

    ①ハードウェア

    オンプレミス型製品の場合、基本的にはPCやプリンタ等のハードウェアはベンダーが提供しているケースが多いです。一方でクラウド製品はハードウェアは、医療機関側が家電量販店やオンラインショップで購入したPCでも導入可能なものが多く、この時点でかなりの価格差が発生します。また、オンプレミス型製品の場合、複数台運用をする場合は別途高価なサーバー機を購入する必要があります。

    ②ソフトウェア
    これについては各社のビジネスモデルによって異なるので一概には言えませんが、オンプレミス型製品の場合はソフトウェアのライセンス費用を含めて販売します。一方でクラウド型製品の場合は、ソフトウェアはライセンスとして販売せず、月額の利用料金として販売するケースが多いです。
    ライセンスとして販売する場合は、初期費用ももちろん発生しますが数年後に入れ替える・ソフトのアップグレードをする場合においても、それなり(数十万円程度)の費用が発生します。

    ③人件費
    これも各社のビジネスモデルによって異なりますが、これまでの電子カルテベンダーにおいてはシステム導入におけるサポートが手厚いのが常識でした。訪問して複数回講習をする。稼働のタイミングで終日立ち会うなど、過剰のサービスが横行してましたが、この常識も振興ベンダーの登場で崩れつつあります。講習はオンラインや動画、サポートは電話やチャットなど、人件費を書けないビジネスモデルやサービスを提供し始めており、サポートが不要な医療機関にとっては従来のオンプレ型ベンダーとは比較にならないほどの低価格が実現されています。

  • 「クラウド」への抵抗感の薄れ
    個人情報を多分に含む医療においては、クラウドでデータを預けるという行為自体に抵抗があるケースが少なくありませんが、この意識が昨今は薄れてきていると考えます。現代において多くのサービスにおいて、クラウドやインターネットを介した利用が一般的になっており、医療の分野でもようやくクラウドに対する意識的なハードルが下がりつつあります。

  • 電子カルテへの求めるものの変化
    元々の電子カルテ・レセコン業界において、ベンダー間の差別化要素として大きなウエイトを占めていたのが、電子カルテ自体の機能性とサポートです。各ベンダーは診療科目による機能やクリニックごとのカスタマイズ性、そして自社のサポート体制をアピールしてきました。

    一方で、エムスリーデジカルやメドレーといった振興ベンダーは上記の既存ベンダーのアピールとは、全く異なる土俵で勝負しているように感じます。具体的には、クラウド製品のコスト面、手軽に導入できる、OS問わずiPadや自宅PCでも導入可能な点などクラウド製品ならではのライトさもさることながら、本来電子カルテベンダーが取り扱ってこなかった「Web予約・Web問診・オンライン決済・オンライン診療」等を電子カルテとパッケージで提供しています。これについては、次章の「コロナによる医療提供体制の変遷」でも書きたいと思いますが、医療機関側が医療システムに求めるニーズも変わりつつあり、クラウド製品とマッチして見事にはまっている様に感じます。

    時代に取り残された既存ベンダーにとっては、これまで顧客が本当に求めていると考えていた「ニーズ」を根本から改めて考えさせられる出来事です。そもそも、オンプレミス型製品においては市場は飽和しており、機能的な差別化は難しい状況でした。

コロナによる医療提供体制の変遷

コロナ禍において、私たちの生活スタイルが大きく変化したように、医療提供体制にも大きな変革がもたらされました。

たとえば、外来受診を避け、在宅診療や電話診療、さらにはオンライン診療を希望する患者が急増しました。また、患者が院内での滞在時間をできるだけ短縮するため、Web予約やWeb問診、オンライン決済の導入が急速に進みました。これらのサービスの導入は、患者の利便性を向上させるだけでなく、感染リスクを最小限に抑えるという点でも重要な役割を果たしています。一般社会でも、オンライン会議や研修が一般的になり、患者のデジタル慣れが急速に進んでいます。これに伴い、患者側からのオンラインサービスへの期待も高まりつつあります。

こうした変化の中で、電子カルテベンダーにも影響が及んでいます。従来、Web予約や問診、オンライン決済、オンライン診療などは、電子カルテベンダーが直接提供するのではなく、別のシステムベンダーと連携して導入されることが一般的でした。しかし、コスト削減やシステム間の連携の利便性を追求する中で、クラウド型の電子カルテベンダーがこれらの機能を自社開発し、一貫して提供するケースが増えています。このようなベンダーは、迅速な対応と柔軟なサービス提供が可能であるため、コロナ禍の影響でさらに優位性を高めています。

結果として、電子カルテ市場においても競争が激化し、従来の枠組みを超えた新しい形態のサービス提供が求められる時代へと移行しています。今後も医療提供体制の変化に柔軟に対応できるかが、電子カルテベンダーの競争力を左右する鍵となるでしょう。


医療DX化・標準型電子カルテについて

医療DXがレセコン・電子カルテ業界にもたらす影響について考えたいと思います。これらについては、2024年8月時点でも未確定な部分が多くあり、詳細に調べる必要がありそうですが、「規格の統一化やシステム化、クラウド型システムの流通により提供価格の低下や新規ベンダー参入が起こりやすくなり、競争が激化する」と予想してます。

診療報酬改定DX

診療報酬の仕組みは非常に複雑です。これらをサポートするレセコンベンダーは中々に負担を強いられます。2年に1度の診療報酬のたびにシステム開発する必要があります。また、細かい解釈の違いによりプログラム修正を適宜する必要がありますし、医療機関へのサポート業務も多くとてもコストがかかるビジネスです。このことが新規参入がなかなかできない要因であると考えています。
この診療報酬改定にかかわる非効率性や負担を減らそうとするのが「診療報酬改定DX」です。これまでは、厚労省から発表された診療報酬を算定するためのシステム・ソフトウェアの開発は各ベンダーに委ねられていました。それらの共通モジュールを国で一本化すると言う施策です。これにより各ベンダーの開発工数や負担が大幅に削減し、これまでは参入ができなかった新興企業が参入してくる可能性があります。

標準型電子カルテと電子カルテ情報共有サービスについて

標準型電子カルテが現実的にどこまで普及するかどうかについて、ベンダー目線では懐疑的であり、より詳細を調べる必要がありますが、少なくとも「電子カルテ情報の規格統一化」「クラウド型で安価なシステムの流通」という点においては大きな影響がもたらされると考えています。

これまで電子カルテの情報は、ベンダーやシステムによって異なり、システムを変えるとデータが移行できないという部分がベンダー同士の代謝を鈍化させる要因であり、大きな問題でもありました。

電子カルテ情報共有サービスにより、情報として統一されるものとしては現状、3文書6情報(3文章:診療情報提供書・退院時サマリ・健診結果報告書 6情報:傷病名・アレルギー・感染症・薬剤禁忌・検査・処方)に限るものと発表されてますが、長年問題視されていた医療情報の不均一性にテコ入れが入った序章に過ぎないと考えてます。今後はカルテ情報の構造化が進み、ベンダー間でデータ構造が異なるからデータ移行できないと言う問題も無くなるだろうと予想してます。

また、現在開発中の標準型電子カルテは、より多くのクリニックへ電子カルテを普及することが目的であることを鑑み、比較的安価になる可能性が高いと予想されます。この点は現在のオンプレミス型主流のベンダーが価格競争に巻き込まれると考えれます。


結論

製品やサービスの低価格化が進む中で

医療機関の経営悪化が進む中で、製品やサービスの低価格化が進むと考えられます。特に、クラウド型製品の普及により、従来のオンプレミス型システムが持っていた優位性が大きく揺らいでます。
既存のベンダーは電子カルテをハードウェア含め販売することができました。しかしながら、クラウド製品の普及により、この販売モデルは淘汰されると考えられます。これにより売り上げ単価は従来の三分の一以下になるケースも少なくないでしょう。また、保守切れに乗じたハードウェア入れ替えによる売上も見込めなくなります。クラウド製品が市場で優位性を高める中、従来のビジネスモデルを根本から見直す必要が出てくるでしょう。これらの事象は医療DXや診療報酬改定DXの影響によって出現するであろう新規参入ベンダーの登場によっても一層加速されるでしょう。

この状況に対応するためには、従来の労働集約的で非効率な営業手法を一新し、スマートで効率的な営業手法やマーケティング手法を取り入れる必要があります。その他、インフォメーションセンター対応に生成AIを導入したチャットボットを活用したり、現地での講習をオンライン講座に切り替えるなど、人件費を抑えつつ高回転でサービスを提供できる体制の構築が求められています。さらに、電子カルテ以外の付加価値を提供し、売上単価の増大が可能かどうかも重要なポイントとなります。


クラウド製品の台頭の影響

従来のオンプレミス型システムに依存していたベンダーにとって、クラウドへの移行は避けて通れない課題となっていますが、この移行には既存の開発基盤や技術からの脱却が必要です。また、クラウド製品は、システムの安定稼働が重要であり、一度システム障害が発生すると影響範囲は計り知れません。こうしたリスク管理について、従来のオンプレミス型ベンダーは十分なノウハウを持っておらず、全国的なシステム障害が発生した場合、現代においてその悪評はまた叩くまに全国に広がるリスクも孕んでいます。


既存のサービスの変革と付加価値の提供について

クラウド製品への移行に加え、電子カルテ以外の付加価値を提供できるかどうかが、ベンダーの競争力を左右します。予約・問診システムやオンライン診療、決済など、電子カルテと連携する付加価値サービスの提供が求められています。これにより、医療機関にとってより便利で包括的なサービスを提供することが可能となります。


これらの変化に対応できないオンプレミス型ベンダーは、厳しい経営環境に直面することになります。今後5~10年で、業界内での統廃合が進むことが予想され、適応力のある企業だけが生き残る時代が到来するでしょう。

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