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夏空を颯爽と飛ぶ白い鳥 コアジサシ

 夏の野鳥をイメージすると、一つの姿が思い浮かびます。青空に真っ白な野鳥が爽快に飛ぶ。この姿そのものなのが、コアジサシです。
 私にとってコアジサシは、夏の野鳥そのもの。毎年、群れになって海辺に現れ、青空を背景に飛翔しています。

青空を背景に飛翔するコアジサシ(2024/5/26)

 コアジサシは、オーストラリアやニュージーランド、パプアニューギニアなどで越冬し、春になると繁殖のために日本に帰ってきます。そして、秋になると旅立ちます。
 コアジサシの主食は、小魚です。よって、魚を捕らえやすいように、海辺や河口に群れで現れ、地面が剥き出しになった砂浜や河原などに集団繁殖地を作ります。

 コアジサシは、体長約24cm。頭部と嘴から眼を通って頭部につながる部分が黒色。額は白色。背・翼は薄い灰色、喉から胸・腹は白色。嘴は黄色。脚は橙色です。

コアジサシ(2024/5/26)

 また、コアジサシが上空を飛翔すると尾の先端がツバメのように細く尖って見えます。

コアジサシの尾の先端は尖っている(2024/6/15)

 一方、地面に降りてくると身体の割に脚が短く、地面を歩くのは得意ではないようです。

コアジサシの脚は身体の割に短い(2024/5/26)

 コアジサシを感じで表すと「小鯵刺」。
 「小」は、コアジサシより大きい体長35cmのアジサシに対して、小さいアジサシということです。
 「鯵」は魚のアジ。魚類が主食で、水の中に飛び込んで捕まえる姿が、細長い嘴でアジに刺すよう水面飛び込むことから「鯵刺」と名付けられたようです。
 海辺に行くと、コアジサシが水中に飛び込んで、魚を捕らえるシーンに出会うことが出来ます。

 コアジサシは、絶滅危惧種に指定されています。理由は、繁殖地になる砂浜や砂地が減少しているからです。そのためコアジサシが好む繁殖環境をビルの屋上や人工島につくったり、草を刈ってコアジサシが営巣できる環境を作る活動が行われているようです。

 関西では、4月ぐらいから姿を見ることができます。
 私がコアジサシを観察するのは、日本に戻ってきて暫く滞在する海辺と繁殖地の砂浜です。

 4月中旬ぐらいになると海辺に群れで現れ、防波堤や岩場、海に浮かぶブイの上に並んでとまる姿や一斉に飛び立ち「キリッ、キリッ」と鳴きながら上空を旋回して飛び回る姿が見られます。

干潮でできた砂地に集まるコアジサシ(2023/4/29)
海辺の岩場に現れたコアジサシ(2024/5/5)
海辺の岩場に現れたコアジサシ(2024/5/5)
海辺の岩場に現れたコアジサシ(2024/5/5)
集団で飛ぶコアジサシ(2024/4/30)

 また、魚を捕まえるために、海に飛び込む姿も見られます。満潮時期など海岸近くまで潮が満ちるとすぐ近くで海に飛び込んでくれることもあります。

水への飛び込み体勢に入ったコアジサシ(2016/5/7)
水への飛び込み体勢に入ったコアジサシ(2016/5/7)

 5月中旬ぐらいになると繁殖場所に移動し、海辺では見られなくなります。繁殖地では、オスがメスにアピールして、捕まえてきた魚を渡して、ペアになっていきます。

食べ物を渡すコアジサシ(2024/5/26)
食べ物を渡したいが無視されるコアジサシ(2024/5/26)

 コアジサシは、砂浜や河原の地面に浅いくぼみを作って抱卵します。他の野鳥が、巣材を集めて巣を作るのに対して、コアジサシは地面のくぼみにクッションになる巣材をいっさい置かず、地面に直接、卵を産みます。コアジサシの卵が、白っぽい灰色に、黒っぽい色の斑点があり、砂浜や砂地では石ころのように見えて、すぐに見分けがつかないので、巣材を使わず、直接、地面に産んだ方がいいと判断して、巣材を使わないのだと思います。

コアジサシの卵(2023/6/18)

 実際、数メートル離れた場所で抱卵しているコアジサシが、一時的に巣を離れても、卵が砂地と同化して、卵を確認することはできないというのが実感です。

 繁殖が始まる頃になると、例年、コアジサシが営巣する浜辺の公園の砂浜に観察に出かけます。この場所では、コアジサシが営巣を始めると公園の管理者が、ロープを張って保護しています。ただ、ロープが張ってあるからと言っても、コアジサシはお構いなくロープの外でも営巣し始めます。そうなるとロープの範囲が拡大したり、飛地ができます。
 こうして保護されていることから、コアジサシが孵化する可能性も高く、コアジサシを観察する立場からも孵化した雛鳥や雛鳥に小魚を渡す親鳥の姿を観察できるこの上ない環境です。

抱卵中のコアジサシ(2024/5/26)
抱卵中のコアジサシ(2024/06/15)

 こんないい環境であっても、梅雨の大雨で雛鳥が流されたりして、成長しないとことが何年か続き、2年間程現れなかったのですが、ここ数年は、元気な雛鳥の姿を見せてくれています。気づいたのですが、営巣開始時期が以前より2週間程早くなっているような気がします。大雨は、例年、6月の終わりから7月の始め。この時期には、雛鳥が十分に成長しているようにするために開始が早くなったのだと思っています。

 コアジサシは、1回に2〜3個の卵を産みます。約3週間の抱卵期間を経て孵化し、雛鳥は数日で歩き出します。この時期には、よちよち歩きの雛鳥や親から小魚をもらって食べている姿を観察できます。

親鳥から食べ物をもらう雛鳥(2024/6/15)
親鳥から食べ物をもらう雛鳥(2024/6/15)
親鳥と雛鳥(2024/6/15)
親鳥と雛鳥(2024/6/15)
親鳥と雛鳥(2024/6/15)
雛鳥(2024/6/15)
雛鳥(2024/6/15)
雛鳥(2024/6/15)
少し成長したコアジサシ(2019/7/28)
少し成長したコアジサシ(2019/7/28)

 巣を作る野鳥の場合は、雛鳥が飛べるようになるまで、巣の中で成長させてから巣立ちさせますが、コアジサシの場合は、孵化しても飛べるようになるまで、時間がかかります。成長するまでの間、親鳥は雛鳥を必死になって守るようです。
 先日、夕方、営巣地に訪れたときには、雛鳥を身体の下に隠して、翼を拡げて守っている姿を確認しました。親鳥の子供に対する思いを感じたシーンでした。

覆い被さって雛鳥を守る親鳥(2024/6/19)

 そのうち飛翔できるようになると、砂浜から離れて、成鳥と同じように防波堤や海上に浮かぶブイにとまるようになります。それでも、暫くは親鳥から食べ物をもらっています。

コアジサシの若鳥(2018/8/4)
コアジサシの若鳥(2018/8/4)
コアジサシの若鳥(2018/8/4)
コアジサシの若鳥(2018/8/4)

 8月ぐらいになると、各地て繁殖していたコアジサシが、集結します。観察に行く砂浜の近くは、魚が多く獲れることもあり、砂浜近くの防波堤に多くのコアジサシが集まってきます。そして、8月末から9月にかけて、南に向けて、旅立つていきます。
 こんな感じで、コアジサシを観察しています。

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