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小説 星、そして雪と月と花/冬季公演2023より

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冬季公演2023『散りてなお夢見星』のスピンオフ前日譚『小説 星、そして雪と月と花』全5話をまとめています。
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2023年11月の記事一覧

『小説版 星、そして雪と月と花』終章、そして序章 / 冬季公演2023『散りてなお夢見星』前日譚

     彼女とは大学に入ってから知り合った。  学内唯一の音楽サークルであるロック研究会での新歓。先輩たちのノリについて行けずに、二人で居酒屋を抜け出した。それは夜の十一時頃だった。夜も更けてというにはまだ早い時間。それでも多くの店が閉まった商店街は夜の姿に変わっていた。  アルコールも入っていないのに、ふらふらとしながら商店街を二人で歩く。肩まで伸ばされた彼女の黒髪から良い匂いがしていた。顔立ちも綺麗だったせいか、会話もなく歩いているだけなのにドギマギする。 何か

『小説版 星、そして雪と月と花』第3話 雪月花時最憶君 / 冬季公演2023『散りてなお夢見星』前日譚

「菜月ちゃん……ごほっ」  雪美と花香の所在を問おうとするが、上手く口が動かない。 「…………ごめんね。蛍」 「ごめんねって、どういうこと? ごほっごほっ。雪美ちゃんに、花香ちゃんは? さっきまで、ごほっ、一緒に、いたよね」  どうにか口にするも、菜月は自分の涙を拭うだけで求めていた答えを返してくれなかった。 「やっぱり、ちゃんと会えていたんだね。……大丈夫。すぐにまた会えるよ」  やっぱりってどういうこと? すぐにっていつ?  そう思ったが、もう蛍の頭は働いて

『小説版 星、そして雪と月と花』第2話 猪鹿蝶 / 冬季公演2023『散りてなお夢見星』前日譚

「蛍ー! 元気してたかー!」 「蛍ちゃん! 久しぶり!」 手を振りながら現れる、ポニーテールとボブの二人の女の子。それは別の避難所で暮らす、蛍と菜月の親友たちだった。 「え、二人ともどうしてここに? まさか避難所を抜け出してきたの?」  驚きを隠せない蛍に、ボブの女の子、宮島花香が答える。 「まあ、そんな感じ?」  ポニーテールの女の子、天橋雪美も花香を補足するように説明した。 「ほら、新聞屋さんって汚染ガスの中、避難所と避難所を行き来するだろ? ちょっとお願い

『小説版 星、そして雪と月と花』第1話 夢幻泡影 / 冬季公演2023『散りてなお夢見星』前日譚

 日本の某所。ミンタカ避難所。森に囲まれた静かな避難所だ。  その中央の広場に簡易的な配給所が建てられている。テントの下にはたくさんの段ボール箱。そこにはミンタカ区のシンボルマークが刻まれている。  赤く光る星。「輝く美しい世界を取り戻す」という人類の悲願が込められているらしい。星の名を冠するこの避難所に相応しいと所長がデザインしたのだ。  その所長と配給所職員がテントの下にいた。どちらも星のシンボルマークが付いた腕章をしている。メガネを掛けた若い男性。彼が所長・大伴律

『小説版 星、そして雪と月と花』序章 / 冬季公演2023『散りてなお夢見星』前日譚

  ある日、世界が終わる音がした。  ありふれた日常を緊急速報の通知音が壊し始めた。 『ただいま、速報が入ってきました。謎のガスが西から急速に流れてきているとのことです。只今画面に表示されている対象地域の方は今すぐ東の方へ避難を始めてください。対象地域は−−』  その謎のガスはすぐに人類の生活圏を侵食し始めた。 『このピンク色のガスに包まれた、変わり果てた地上をご覧ください。行方不明者の総数は未だにわかっていません。逃げ遅れた人たちはまだこのガスの下にいるのでしょうか