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2月のこと2・国事

2024年2月の国のこと。
大部になったので国事と国々事とで記事を分ける。

【能登震災】

能登震災の経過から見ていこう。

2月1日時点で死者240人、安否不明15人。これでおおむね数字は確定と言えるか。先月みたとおり、交通と通信、そして教育はかなりの程度復旧。そのため漸次的な報道よりも検証ベースの記事が多かった印象。

家屋の倒壊被害の甚大さと広範さゆえに、仮設住宅の用意と、災害ごみの撤去に時間がかかる。これは一か月やそこらで変わるものでない。1日時点で、住宅損壊は4.8万、1.4万人が避難している状態。3日から応急仮設住宅への入居が始まったが、かなりの漸次。三月までに県内に1300戸が用意されるとのことだが、世帯数に追い付かないか。「みなし仮設住宅」なるものも1194戸あるが、入居が決まっているのは県外含め500世帯未満。

 珠州市では二月上旬に鉢ヶ崎海水浴場に、17日に狼煙港に災害ごみ仮置き場が設置された。今状況がどうこうという進展はないように思われる。

 年度末が近い。被災者税負担の軽減が、1月28日に前倒しで決定され、2月の確定申告で減税、還付がなされる。これは阪神淡路大震災(95.1.17発生)とおなじ運び。高齢者世帯を対象に住宅の再建費用が300万円ずつ配られる。支援ではあっても補償ではない程度。

 家屋被害と同じくらい大きく取り上げられるのは、地域医療の脆弱性の問題。災害発生後一、二週間の稼働を想定されている災害派遣医療チームDMATが一か月の異例長期稼働を余儀なくされた経緯からだ。電源や水、そして医療道具の不足や不行き届きから、それらを携帯できるDMATに仕事が集中せざるをえなかった。

 要介護高齢者の他地域への搬送がかつてないほど大規模であるのもその表れであると言える。一千人が富山、福井、愛知など他府県を中心に搬送された。県内の病院の過密ゆえだ。東日本大震災では、宮城岩手福島の「三県あわせて1500人」だった。

廃墟化する地方

 状況追跡はこれくらいにして、一般的な問題へと移ろう。このインフラ脆弱性は地方について一般的に妥当すると考えるべきだ。前回記事では家屋被害を空き家増と、公共道路、橋、トンネルなどの老朽化の側面から大きくみたが、今回は別方向から。

人口、東京一極集中の問題だ。2023年の人口移動報告によると東京および東京圏への転入超過は加速的に増加している。東京へは前年比3万強増で6.8万人、東京圏へは2.7万増で12.65万人。

地方から人がいなくなれば当然加速度的に金は出ていき、インフラは上に見たように傷んでいく一方。成長産業の撤退はもちろんのこと、限界的な場所ではスーパーや公共交通機関などもやっていけなくなる。その意味でコンビニ的、ガソリンスタンド的なポットへの依存が大きくなる。セブンイレブンとイトーヨーカドーは提携して29日、「SIPストア」なる店を千葉県松戸市に開店した。コンビニだった店舗を少し大きくして、商品数を二倍にし、生鮮品や焼き立てパンなども用意する。〈スーパーのコンビニ化=コンビニのスーパー化〉。地方は、市役所とガソリンスタンド、スーパー=コンビニなど、その形態をほとんど生存そのものへ、きわめて簡素にしていき、かろうじてその剰余としてショッピングセンターが張り巡らされていくのだろうか。

他方、人が集まれば集まるほど東京もまた一発の災害にたいして弱くなる。一斉に東京圏からでなければ電源・燃料・食料にアクセスできなくなったとき、そこではどんな圧力が生じてしまうか。二重に問題が大きくなっていると言える。

サザエさん一家社会から「おひとりさま」社会へ

さて、この地方-都市の「地」の〈土地は移動しない〉の問題とともにあり続けるのは「血」の問題。すなわち世帯、家族の問題。前回記事では京アニ放火殺人の背景として「社会的孤立の常態化」を取り上げ、その背景に家族的包摂がマクロには終了していることをみた。〈性的幸福-出産&子育て-社会への関係づけ〉といった複数の機能を家族に期待することは誤謬もあきらかであるという問題。サザエさん一家と野原しんのすけ一家を合わせても全体の二割以下。

この問題を出生数/率および婚姻数低下のデータをみるところからもう一度考える。2017年二100万を、2022年に80万を切った年間の日本の出生数は、2023年、75.8万だった。8年連続の減少で過去最少。前年度比で4.1万減で、人口問題研究所の予測よりもはるかに減少の進行が速い。2022年4月の予想では2030年までは減少は緩やかであるとしていて、76万を切るのは2035年(!)のはずだった。出生数も婚姻数も減少率は5%で数年推移している。

さあ、こうした「超少子化」のみちを突き進むのは隣国韓国も同じであり、日本と韓国との類似から考えられることは多いであろうと思われる。韓国の23年の合計特殊出生率は0.72。前年度は0.78で0.06ポイント低下。OECD加盟国32か国で1を切っているのはずっと韓国だけで、少子化のダントツトップを走る。これは前項の大都市の過密問題とも結びついている。ソウルだけだと0.55、釜山だけだと0.66と極端に低い。

記事によると、日本とは比較にならぬほどの学歴・競争社会が一つの要因であるという。ソウル一極集中のなかで起きているのは教育熱のエスカレーション。これを除くと、少子化の条件は似ている。住宅高騰、晩婚化、長時間労働。〈コンビニのスーパー化〉は都市におけるこうした変化にも対応した趨勢であると言えそう。〈都市過密・共働き増加・単独世帯率上昇〉はコンビニ的な便益向上を促す。

OECD内において極端に自殺率が高いのもこの二か国。超少子化と高自殺率。IMF介入のようなわかりやすい危機を通過せずある意味で底に頭を打ちつけるタイミングがこれからであるという意味で、日本の場合にはこれからよりこうした問題が噴出するのではないか。

「おひとりさま」社会での子どもの所在

これにたいして具体的な動きがみられるのは「子ども・子育て支援金」の話題か。「子ども・子育て支援法等改正案」の骨子が2日に政府から与党へ提出され16日に閣議決定のち国会へと渡っている。27年度に8千億、28年度に1兆円の段階を踏んで28年度までに3.6兆円の予算を組む狙いで、うち一兆円を「支援金」から出す。これを全世代で負担するというのだが、その内訳があいまい。「粗い試算で一人当たり500円弱だが、社会保障費との兼ね合いで『実質0円』である」とは与党の主張だが、もう少し真面目にやりだしてからでないと具体的なことはわからないがどうせ膨らむのだろう。後期高齢者(75歳以上)が全体の8%を負担する、との枠組みで、それだと月、一人当たり253円、生産年齢人口層は、中小企業社員は638円、大企業社員は851円になるというが日本総研の試算。

「共同親権」を可能にする民法改正の動きも大きい。1月30日法制審議会にて要綱案がまとめられており、今国会にて関連法案が提出されるか。未成年の子がいる夫婦の離婚件数は年間10万件で、親の離婚を経験する人は約20万人と言われ、現在その9割で母が親権をもつといわれる。戦後これまで二度の改正があり、「子どもの利益を最優先する」との文言が組み込まれてきた。欧米では1990年代から共同親権が導入されてきた流れがあり、2019年、国連・子どもの権利委員会から日本へ法改正を要求があった。

子どもの包摂のかたちを変える制度変更としては、「日本版DBS」へ向けた法案骨子も示されている。仕事で子供に接する人の性犯罪歴を確認するよう事業者に求めるための法整備で、こども家庭庁が動いている。学校や保健所では確認のみならず研修も盛り込まれ、拘禁刑を実際に受けたものに対しては20年の照会に不十分でないかとの議論が起こる。3/5までに自民党が提言をまとめあげるか。

共同親権、DBSの枠組みは、子どもの養育や安全保護のかたちを、より実際的に柔軟に、しかし厳格に行うための整備であると言える。社会的孤立の常態化は全体的な相互不信を促進させる。そのときもっとも被害を受けやすいのは子どもであるというわけだ。

さらには教育の形も変化する。

日本学生支援機構は新年度から、家族滞在かつ小中高すべてを日本で卒業した外国籍の子を奨学金の対象に加えた。この条件は、就職内定が取れたら「日本定住者」となることができる層と一致している。

「年内入試」による大学入学者割合が半数を超えたことも大きな変化。2023年度の大学入学者62.4万人のうち50.7%が総合型選抜と学校推薦型選抜を利用した。私立大学の多くは少子化を背景に、早い段階で入学者を確保しておきたいという事情が大きいと言われる。従来の学力試験は多数とは言えなくなったという意味では「受験勉強」はこれからレアになっていく。しかし推薦入試での「体験」評価はかえって格差を生むか。

人手不足/労働条件改善

街の廃墟化は具体的には、(インフラ老朽化/都市過密+地方過疎)といった事態を、「おひとりさま社会」化は(家族的包摂の解体/社会的孤立の常態化(⇒無差別テロの発生や自殺率上昇)/不信を前提したシステム改変/超少子化)といった事態を意味することをみてきて、その交差点がたとえば〈スーパーのコンビニ化=コンビニのスーパー化〉としてあらわれることを見てきた。前者と後者とは相即し、かつ、互いに影響を与え合うわけだが、その関係にもう一つ、人手不足と労働条件の改善の問題を加えてトライアングルとして見るべきではないだろうか。

今年の春闘は5%の賃上げという点において連合と経団連の「共闘」が強調された。「ここが正念場」とか「物価が下がり続けるデフレの脱却」とのメッセージを反復する。実際歴史的なベースアップであるとの触れ込みで、自動車業界、鉄鋼・重工大手などで強気の賃上げ要求が通る。しかし、実質賃金は前年度比2.5%減の現状は動かすことはできないわけで、ある種のパフォーマンスであると言おうとおもえば言えてしまう。あるいは、焼け石に水という言い方もあるか。(このあたり詳しい動きはよくわからない)。

これまでの春闘について。1955年に炭坑や鉄道など八つの産業別組織がまとまって交渉したのが始まり。労組全体で経営側に圧力をかける「横並び」スタイルは日本独自。しかしストは激減傾向にあり、1974年の5197件をピークとして減少の一途をたどり2022年は22件。そごう西武の池袋本店ストが去年8月にあったことは大きな話題となった。

大企業の賃上げはともかくとして、全体雇用の7割を占める中小企業や、慢性的な人手不足に陥るエッセンシャルワーカーの賃上げや労働条件改善に注目する必要があるだろう。      

特に物流を支えるトラック運転手。残業時間の上限規制によって大規模な人手不足が予想されてきた今年について「2024年問題」と呼ばれてきた。関係閣僚会議は30年度に向けた関係閣僚会議で、トラック運転手の賃金10%引き上げを目指す意向を16日に示した。特に、待遇の上りづらい付帯作業の未払いに罰則を設けつつ標準平均8%引き上げを掲げる。しかしこれは強制ではなく、実際企業の動力因となるかはあいまい。

介護報酬について改定があり、来年から1.59%の増額が決まっている。しかし訪問介護の基本報酬は引き下げられることになっており、「ウィメンズアクションネットワーク」や「高齢社会をよくする女性の会」など2400の団体が2月1日に緊急声明を発表している。

さらに、公共工事の賃金基準であるところの「設計労務単価」も引き上げも16日に決まっており、それは平均5.9%。引き上げは12年連続で人手不足の解消へつながるか。

【派閥解体、裏金問題追求動向】

相変わらず動向だけは派手に伝わってくる。

岸田首相の「派閥解散」の宣言と呼びかけを受けて、30日にガネーシャの会、1日に清和政策研究会が休止。二月後半は「政治倫理審査会」の開催にかんする協議が浮上してくる。野党が衆議院議員51人の出席と審査会の完全公開を要求し、それに与党が反発して難航。28日に予定されたものの一度延期を挟んで、28日に首相自らが出席を表明することでやっと安倍派四人衆も出席の意向を固める。30日に首相と二階派の武田氏、1日に安倍派4人の審議へと入る。

統一教会問題を追及していたはずの盛山文科相が、21年の衆院選で統一教会から選挙支援を受けていたという嫌疑が浮上して、「記憶にございません」を連発していたのが8日から2月中旬にかけて。

こうした動向から掘り出してこれる問題はそれほど多くないように感じるのは先月の記事で述べたのと同様。ただ、これに対応して、「政権交代を担える野党はいないのか」「なぜ野党はこの機会を利用して政権を取る方向に向かえないか」といった論調の記事が増えている印象。野党第一党の立憲民主党の失速や、野党共闘のビジョンのしぼみへの懸念が繰り返し強調された。〈自民公明の政権復帰から12年。立憲民主は維新にもその勢いを負け、21年衆院選に置けるような大胆な共闘路線を取るには足並みがそろっていない〉というような。実際、泉現代表の任期が今年の9月で、去年4月に掲げられた「ミッション型内閣」の構想は、窮地の策、つまり屏風絵であるというのはほんとうらしい。これに共産党は協力的であるものの、国民民主や維新は、政策での相違点を抱えたままでの共闘に否定的である。

軍拡的傾向


台湾有事を想定した実働や制度整備もいそがしい。

辺野古基地移転を官房長官=林芳正を「負担軽減大臣」にして進める中、1月30日には「先頭」諸島住民の避難の図上訓練が行われた。海上で危機が起こった場合には、九州および山口へと6日間で12万人を避難させる。国家保護法のもと武力攻撃予測事態とされる事態のシュミュレーションである。なお、沖縄全域が要避難地域に指定されている。

また「基地公害」の問題もある。

普天間基地では有機フッ素化合物(PFAS)が目標値を超えて検出されてきたために、こうした害が普天間基地でも起きてしまうことは必至。川や浄水場調査が公表されて2016年の1月に問題化したもので、水質分析、吸着する活性炭の取り換えに県がこれまで32億円を費やしてきた。今後十年で80億が必要との見通しで、そのため10月からは沖縄の水道料金が3割も値上げされている。東京横田基地や神奈川県横須賀基地でもここ二年ほどで問題化している。

 さて、イギリスおよびイタリアとの次期戦闘機の共同開発、そしてその第三国への輸出解禁をめぐって自民と公明が協議していることが大きなトピックとしてある。公明党が解禁を渋って2月末の決着はならず、三月へと持ち越されている。公明党は第三国への輸出はできないとの認識を2022年頃から堅持。現行の「防衛装備移転三原則」運営方針について、23年の7月段階では第三国への輸出解禁の方針でいったん一致したが、のち硬直化した。去年12月には部品の輸出解禁のみで一致して提言がまとめられたのだが、完成品の輸出については自公の政調会長の二度の会談を経てもまとまらず。

経済安保としてのセキュリティ関連法の整備

 こうした動向と関連して、情報および情報技術の面での安全保障に関する法整備にも動きがみられる。「セキュリティクリアランス」(適正評価)制度導入の法案がそれ。サイバーやAI関連の応報を重要経済安全情報に指定し、これを扱う民間人について、情報漏洩を防ぐために調査すること、および懲罰を設けられるようにする法案だ。2014年に特定秘密保護法に導入されたもので、軍事技術のみならず経済安保方面についても拡大適応する狙いが図られている。27日に閣議決定がなされ国会へ提出された。

 さらに、生成AIの基盤モデルの開発者を対象として、安全性確保のための「報告」「行動規範順守」の義務付けを用意する新法の案もある。素案が出たのが16日。これを順守せずに事件や事故が発生した場合には政府が立ち入ることができるとの規定のもので、今年中の法案提出が目指されている。

 軍事分野と経済分野との境目にこだわらない、シームレスな安保法の運用。隣国の中国において2015年から掲げられている「軍民融合」といった、軍事運用の動向に対応するかたちだ。先月記事において、戦争局面における経済制裁や、途切れることのない経済摩擦が単なる経済的な次元のみにおいて片付けられないということを述べたが、これは逆方向からも言える。危機は、ほとんどサイバーやAIなど情報的な方面からやってくる。あるいはある方向から見るならば、情報は軍事的な問題でしかないのだ。

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