045 不要不急と go to eat の狭間で

とても珍しい苗字のカップルが来店されました。しかも、見るからに、男性は同業者。いなせ、って言葉がピッタリのタイプ。

こういう時、ちょっと緊張しますね。って話は前にも書いた気がするので、飛ばします。

「ご予約をいただいて、楽しみにしていたんですよ」

「どうしてですか?」

「だって、相当珍しい苗字でしょう」

「ああ。全国でも●人くらいしか、いないそうです」

「うらやましい。ボクなんて、上から数えて1桁。ごくありふれた苗字で、名刺交換するのが超つまらなくて」

「でも、誰も読めないのも困りますよ。一番困ったのは、新しく店を出す時、ご利益のあることで有名な神社でお祓いしてもらったんですが、最後に苗字の漢字が読めなったみたいで、ごにょごにょと適当にごまかされてしまいました。あれでは、ご利益なんて、まるで期待できませんね」

なーる。いいことばかりでは、ないらしい。

「でも、鼻毛さんよりは、いいかな。子どもの時、相当いじめられたでしょうから」

「ええー、そんな苗字があるんですか?」

「珍名あるあるだったら、何時間でも喋れますよ」

ははは。鼻毛さんではなかったとしても、いろいろあったんでしょうね。

「結婚するとき、世帯数の少ないほうの苗字を名乗ること、っていう法律でも作ったらいいのにと、考えたことがあるんですが。。。珍しい名前って、それだけで日本遺産ですよね」とボク。

「いやです」と、こちらはパートナーのほうから、速攻で反対されました。

「彼女のほうは、ごくありふれた苗字だったんですよ。よく、こんな苗字に嫁いできてくれました」

「そういえば、あなたの姪っ子が結婚するから、また一人減ってしまうんじゃない?」

「ええー、やっぱり、法律作りましょうよ」

同業者ですから、当然のこと、話題は昨今の客足についてになります。

「go to キャンペーンで、これまでいらっしゃったことのない方がお見えになるようになっていますが、全体から見たら、まだまだです」

「うちは、まだまだどころか、さっぱりです。外国人旅行客もいなくなったし、イベントも半分くらいしか復活できていません」

彼は店内に貼りだされた九条Tokyoのイベント・スケジュールを見て、同情してくれました。

「それは、大変ですね。でも、 go to eat キャンペーンで初めて来られる方のほとんどは、二度と来てくれないでしょうねぇ」

「ボクも、そんなふうに思うことがあります」と答えたのは、先日、夜のバルタイムというのに、ご飯だけ食べて帰って行かれた一見さんがいらっしゃったからです。支払いは既にポイントであらかた済ませていて、不足分だけ現金払いでした。

話題となっている鳥貴族騒動ほどではありませんが、彼の口座には差し引きで少しお釣りが残ることになります。間抜けな制度を作った国側の問題ですから、それはそれでいいのですが、その間、ボクと客の間にほとんど会話はありません。話しかけても、つれない返事しか返ってきませんでした。

キャンペーンの千円稼ぎでしょうか。加えて、彼にはポイントがつきます。一方、こちらは、グルメサイトから送客手数料を請求されます。

翌日、グルメサイトに電話すると、席だけ予約をやめて、コース予約のみにすればいいのでは、とツレナイ返事が。

「いや、うちの場合、50くらいある旬菜メニューから迷って迷って選んでもらうのが、楽しみの一つになっているんだよね」

「それでは、仕方ないですね」と、さらにツレナイ回答。

なーにぃー、仕方ないって。。。いや、くだらない怒りの矛先はグルメサイトだけではないし、そもそも愚痴を聞いてほしくて電話したわけではありません。何か、ルールを作ったらという提案だったのですが。

「そういいながら、今夜は go to キャンペーンを使って、これまで行ったことのない店に行ってみようと二人で出かけてきました。おかげで、いい店に巡りあいましたから、悪口ばかり言ってはいけませんが」

彼はそう言って、マスターの一番のおすすめのワインを、1本ボトルでください、だって。困ったー。

だって、そうでしょう? 一番のおすすめといったら、前回も書いたリタファームの「ナイアガラ」に決まっているでしょうが。でも、1組の客にボトル1本も出していいのー?

うーん。5秒ほど悩みました。ボクにしては、長い!

「一番のおすすめといったら、これしかありませんね」

そう、ちょうど昨日、小樽から6本届いたばかり。ちょっと気が大きくなっていた、いや心が「丸く」なっていたボクは、キリっと冷えたボトルを目の前に差し出しました。

昨日、1本1本のボトルに名前をつけようかと思ったくらい。ギリギリのところで、思いとどまって良かったぁ~。そんなことしていたら、名前を呼びながら、泣きながら出していたかもしれません。。。

鼻孔いっぱいにナイアガラそのものの香りを楽しんだ後、彼はそっと一口飲んで、「うーん、これはうまいです」と言ってくれました。よかったぁー。グラスに注いで1杯ずつ出しただけだったのですが、これで安心して、ボトルごと手渡せます。さようならー。。。

でも、みなさん、安心してください。まだ、あと7本残っています。

「我々は不要不急の職業だと定義されたわけですが、どう思いますか?」

結構、理屈屋みたいです。好きだなぁ、こういう人。

「18年もやってきたのですが、我々のやっていることは、不要不急だって」

18年。それは凄い。表彰状ものです。リーマンも、3.11も、今回のコロナ騒動も乗り越えて、多くのファンに支持されてきたわけですね。戦後最長とかいいながら、たかが8年弱の官邸づとめや、2度の都知事選に受かった程度と比べられてもねぇ。

不要不急って、広辞苑によると「どうしても必要というわけでもなく、急いでする必要もないこと」だそうです。だから、外出は自粛させられ、学校も休校に? 

なんだ、学校って不要だったんだ。。。

いや、この場合、不要×不急ってことでしょうか。どうしても、と、急ぎの両方が同時に成立していないものとして、外食や旅行、普段の仕事、学校(教育)があるってこと?

先日発表されたコロナ民間臨調の調査報告では、元総理の一斉休校要請と、都知事のロックダウンへの言及が混乱を招いたとされています。つまり、それこそ「不要不急」だったってこと?

これも前に書きましたが、スウェーデン方式との比較検討、東アジアではなぜ死者数(陽性者数も?)が少ないのかといった検証は、医療の専門家の研究を待たないといけませんが、どうも行き当たりばったりの対応だったり、スタンドプレーだったのは否めません。

あるいは、オリンピックねだり? 唯一のレガシーって、オリンピック開催時の総理、都知事しか思いつかなかったってこと?

一時の権力者の話より、ロングセラー、つまり長く×大勢に支持されているお店の話に戻ります。

彼の店は1つの建物に、フロアを分けて2業態の店を運営しているそうです。

「だから、まだ助かっていますが、そうしていなかったら、難しかったでしょうね。たまたま1軒の建物が建て壊しになって、当時はいい物件が見つからず、同じ建物の中で営業することにしたんです」

いや、たまたま、ではなく、存続を求める固定客がいたからこそ、知恵を働かせて、何とかやりくりしたんでしょう。18年の歴史があるわけですから。

不要不急って言葉、誰が思いついたんでしょうね。共感力をまったく持ち合わせていない、「不養不窮」を地で行く政治家や官僚の口にしそうな言葉かもしれません。

家でご飯を作らない人も多いし、休校やリモート出勤、もともと一人住まいなどの理由で会話や交流がなくなってしまった人も多いのでは。不急ではないかもしれないけど、不要ではないものって何か、今回のコロナ騒動でハッキリわかった人も多いのでは。

それは、人によって違うと思うんです。誰かがそれを決めるとしたら、相当な共感力のある人でないと。今回の日本学術会議の任命拒否問題でもハッキリわかりますね。自分の気に入らない、自分と意見が違うものは税金の対象にはならないって、思い上がりも甚だしい。それに、こんなことをしていたら、政権が変わるたびにルールがコロコロ変わってばかりになってしまう。持続するには、共感力こそが求められます。

あっ、いけない。話を戻しましょう。

「野菜とかにこだわっているようですが、どうしてます? 野菜は冷凍できないでしょう」

「ですね。食品ロスも出したくないし。。。お客さんが少なくなった分、発注を減らしています。ご注文いただいても、今日はそれはありません、ってことも」

「そうなりますよね。本当に、いつまで続くんでしょうねぇ」

それは、コロナ騒動のことなのか、ボクの店のことなのか、聞きそびれましたが、悩みの深い不要不急業種だこと。でも、ここで、こうして店を開けていると、奇跡としか思えないような方がいらっしゃったり、お話を聞く機会に恵まれます。

それでも、われわれは不要不急?

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