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不思議の国の豊41/#火遊びが好き 3

前回はここまで、そして

#火遊びが好き 3

寒い日だった。

スクールバスから降りて、上日の地から

有宮橋を渡り、

右に行く広いなだらかな道と、左に上る急な坂道の近道がある。

学校に行くときはほぼ近道だが、

帰りは右に行った方が緩く上がれる。

途中に分かれ道があり、左に行く道とまっすぐ進む道がある。

影仙頭の下の方の人はまっすぐ行く道を行くがこれは人数が少ない。

左に上がる道は有宮橋の上を少し過ぎたところで、

また二手に分かれる。

影仙頭の上の方の人はこちらだが、

ほとんどは右に分かれた道を選ぶ。

先程の近道はここから真下の方に延びている。

影仙頭を水平に横切る林道から上の人は

左にまっすぐ進んでもそれほど遠回りではない。

その日はその分かれ道で、僕の同級生たちの

誰が言い出したか、

「今日は本当に寒い。焚火にでも当たりたいねぇ・・」

といった。

僕は、「ほんなら焚火をしょうか?」

と言ってしまった。

僕はいつもマッチ数本と、マッチ箱の擦りつけの部分を

別々のポケットに入れていた。

あれほど、火遊びはしないと言って謝ったのに、

マッチは離せなかった。

僕たちはまっすぐ進んで10メートルほどのところで

杉の枯れ枝を見つけた。

杉は火が付きやすい。

山に這い上がって、ちょっと大きめの枝を持ってきたものもあった。

これで焚火を始めた。

温かかった。

手袋をしている女の子はそれを脱いで、

みんなで手を火に向けたり、

その温まった手で、

手や足やほほを擦って。

「温いねえ」

と喜び合った。

冬の炎は見えにくい。

火が点いた枯葉が飛んだのを、

僕たちは注意深く見ていて、

それは誰かがすかさず踏み消していた。

しかし、それが十分でなかったようだ。

ふと気が付くと、

茅の枯葉に点いた火が

突然山の斜面を這いあがり始めた。

僕たちは慌てた。

焚火のすぐ上は檜の斜面だから、

落ちている枯れ枝は少ないからいいが、

その上には大きな杉の林がある。

ここに火が届けば、

この影仙頭の真ん中にある小山は丸焼けになる。

そのてっぺんにある金毘羅山のお堂も焼け落ちるだろう。

山火事だ。

そうなれは、影仙頭全部が火事になるかもしれない。

とにかく上に行く火を止めなければならない。

僕や男の子たちが中心になって、

とにかく火より早く上に行き、

片っ端から火消しをしなければならない。

燃えそうなものは片っ端から

炎の走りそうな場所から無なくさなければならない。

他の女の子たちは、焚火をバラバラにして、

足で踏んだりしながら、火を消した。

ひとしば騒然としていたが、

僕たちは炎との競争に勝って、

火は沈下した。

火事になる前に止められて、僕たちはほっとした。

みんな「火事に成らんでよかったねー」

と、心底思った。

みんなは誰ともなしに

焚火で使った燃えさしは地面に穴を掘って埋めた。

僕はその時やっと、自分の意思として、

「火遊びのやり方には十分すぎる準備がいる」

と心に刻んだ。

みんなは、誰もがそれぞれ口には出さなかったが

「このことはだれっちゃーに言わん!!」

と誓っていた。



僕は学校の行き帰りに、

そこを通るたび

大人の腕ほどの大きさの檜の根元に

表面の一部の皮が焼け焦げているのを見ることになった。

それ以降、これを見つけた大人がいたのか、

見つけても、どういう意味なのか解る大人がいたがのか

僕は知らない。

この檜は僕が中学校を卒業し、

幹の太さが大人の太ももを超えるぐらいまで

ずっと消えなかった。

けれども、檜は、そんなことは気にしないかのように

他の檜と同様に順調に育っていった。

以下次号




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