まずかった食事

僕は秋田県出身でその秋田の中でもかなり僻地に住んでいた。チャリンコでダムに行けるくらい。ダムの水が溜まり放流すると町から放送が流れる。あまり気にしてなかったが今思うと家がダムに近いことはかなりの僻地だ。徒歩圏内でできる買い物はコカコーラの自動販売機ひとつだけ。
そんな家なので日常の楽しみに食事が大きなウエイトを占めていた。実際ご飯は美味しい。我が家は農家ではないが、田んぼがあるので米を作っている。これもあまり気にしていなかったが、そんな趣味みたいに米を作る家庭はまずない。米を本業以外で作るかね???それと幼少期には鶏を30羽ほど飼っていた。なんで??????
あきたこまちは美味しい。味噌汁はめちゃくちゃしょっぱい。当時は慣れていたが、大学生の頃久々に実家の味噌汁を飲んだら『脳にくる』ほどしょっぱかった。焼き鮭もしょっぱい。もはや鮭風味の塩で、これもご飯を進めさせるもんだと思い食べてたが実はそうではないらしい。鮭にも味はあるのだ。我が家の食卓のヒエラルキーはご飯が頂点であり、おかずはサブに甘んじていた。
こう書くとおかずがまずいと思うけどそんなことはない。田舎特有の「なんだか美味しい」食べ物がたくさんあった。そういう意味では食事面では恵まれていると当時から思っていた。
これを前提にこれから『まずかった食事』の話をします。

こんな片田舎でも弱点はある。それは肉が弱いことだ。野菜や米は自分たちで作れても、動物を創造することはできない。スーパーは町にひとつなので必然的に肉のクオリティは決まってくる。そんなポテンシャルの低い肉のポテンシャルを最大に引き出そうとする焼肉が苦手だった。
肉を買ってきた親のテンションがなんとなく高い。たくさん食べさせようとしてくる。スポーツ少年食べ盛りボーイの僕のために。まだ愛に気がついてなかったんだね。焦げる前に肉を処理していくゲーム性もあって食事に集中できなかった。
そんな中で一番まずかったご飯はすきやき。すきやきがまずいわけないのに。その時の肉は茶色がかっていた。焼いてもない、下味をつけてない。すっぴんで茶色。顔色大丈夫?と言わんばかりのお肉はすきやきの下地も生卵も突き破るくらいまずかった。逆にここまでしないと口に入れられない。でも育ち盛りの男の子にはたくさん食べて欲しいとたくさん用意してる。育ち盛りの前に僕も一人の人間だ。

地元のすたみな太郎的な焼肉料理食べ放題のお店もまずかった。小さい頃から通ってる分、どんどんクオリティの低さに気づいていくのがつらかった。途中から見て見ぬふりをした。ライチを珍しいだけで頬張って薄いカルピスで流し込んだ。中学の卓球部の打ち上げを最後にそこには行ってない。
高校の夏休み、女子バスケ部が集団で高校から電車で20分かけその店に行くところに出くわした。彼女たちは部活終わりの昼にあの店で豪遊する。仲間たちと食べる食事は楽しいだろうな、どんな質の生肉であっても。どんどん薄暗くなっていく店内も輝く彼女たちにはちょうど良いかもしれない。振り向くと蜃気楼立ちこめ、彼女たちの話す横顔が揺れていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?