自創作についてまとめてみることにした(5)『ARMADILLO』

 『ARMADILLO』は、作者が高校生の時にふと思いついた「せや、小学校の時の同級生たちをモデルに小説書いたら面白いんじゃね?」というトチ狂った発想が元になっている。
 が、実在する人物や団体とは全く関係がないことを留意して頂きたい。

『ARMADILLO』

 毒親である母親によって、中学校卒業の1カ月前から不登校に、1週間前に突然転校を決められてしまった「若葉空」。
 彼の親へ苦言を呈するわけでもない学校に苛立ちを覚える「鴇羽茜」を筆頭とした派閥と、波風を立たせず卒業したいその他の派閥とで一クラスしかない学年が分断されてしまう。
 「鴇羽茜」は長年共に過ごしてきた友人を失ったことと、仲間だと思っていた同級生たちに裏切られたことが大きな傷となって心に残ることになる。
 18歳の年に、突如として「鴇羽茜」の元に「若葉空」が危篤状態であるという情報が入り込む。(「鴇羽茜」の家が「鴇羽製薬」という大企業であるから魔法の言葉「コネ」でどうにかしたい)
 ようやく居場所が掴めた「若葉空」が植物状態となってしまったことに、辛うじて保っていた理性の糸が切れてしまった「鴇羽茜」は、ここに「人の意識を電子世界で生き続けさせる」ことを思いつく。
 幼馴染の「織部紺」は長らく「鴇羽茜」の側で彼女の様子を観察してきた。それは「若葉空」が消えた日も、彼女が事故によって両足を失った日も、電子世界へ人の脳を繋ぐ実験への協力を仰がれた時も。
 ただ純粋に「鴇羽茜」のことが好きだった「織部紺」は2つ返事で了承し、二人で研究に没頭する日々が続く。
 完成した電子世界は、「若葉空」の脳を使ったものだった。

 ようやくそれが形になったのは何年後のことか。
 その日は彼女たちの同窓会であった。
 遅れて会場に到着した「鴇羽茜」とその車椅子を押していた「織部紺」が見たのは、地獄絵図であった。
 燃え盛るビルは同窓会が行われる予定であった場所で、周囲には絶望を告げる報道陣が押し寄せている。
 「鴇羽茜」は長年の夢であった全員での再会を果たすためという目標を切り替え、ただ全員の意識を生きながらえさせるために同級生全員の脳を自身が開発した電子世界と接続する。
茜「全員を助けたい」
 何も知らない同級生たちは必至にその世界-ARMADILLO-から脱出するべく奔走し、その場に留まることを選んだ数人を残して外へ繋がる扉から飛び出していく。
 電子世界の外は、機械の力を借りなければ焼け切れてしまう脳しかないというのに。
紺「全員助けたいなんて綺麗事なんだってば」

 結果はどうであれ一時的にでも焼死寸前だった人々の命を繋いだ「鴇羽茜」の研究は一部の界隈では評判が高く、これに目をつけた者の一人が『無題』のハイタカである。
 電子世界に移した後、現実世界での記憶を消してしまえば新たな人生として電子世界での生活を受け入れるのではないかと提案した「ハイタカ」に、全てを諦めてただ研究を続けるだけの「鴇羽茜」は笑顔で頷く。
 あれほど大事にしていた「若葉空」の脳も、今の彼女にとっては実験道具の一つにすぎず、繋がれる機械は増えていき、もうそれが一人の人間の脳であるとは誰も思わない。
 『データ上の空論』の「巌衣」の思考回路の元はこの『ARMADILLO』の「織部紺」であるため、恐らく「巌衣」は自分たちの住む電子世界の大元が人間の脳であることに気が付いているだろう。

 この『ARMADILLO』はいわば過去編のような扱い。外伝みたいな扱いだけれど、最近になって作った様々な自創作世界に大きな影響を与えていることは確か。


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