自創作についてまとめてみることにした(2)『蟲sが走る』

 次に解説するのは

『蟲sが走る』

 登場人物は「金藤亜紀」「綿口埜」「竹野虎里」。
 男子高校生のドタバタハートフル日常コメディみたいにできたらいいけど、はたしてそんな陽な小説が作者に書けるのか。いや、書けない。だから設定だけでもこうして消化したい。
 それぞれ抱える問題がある男子高校生たちが、どうやってその問題と向き合っていくのか、解決するのか、できるのか、葛藤してほしい。葛藤させるのは自分なのだけど。

「金藤亜紀」
 2年生男子。茶髪。色弱で、一人での行動は少々危険。
 人に頼ることが苦手で、一度手を貸してくれたことのある同級生に人通りの多い街に置き去りにされるという嫌がらせを受けてから人との関りを徹底的に絶ってきた。
 色弱だろうが構わず執拗に絡んでくる「虎里」と、気負わせない気遣いをする「埜」に心を開くのに半年ほどかけたが、段々と人前で笑ったり、自ら人の手を借りたりするようになる。
 決して家が放任的なわけではない。特に姉はことあるごとに亜紀を心配し、むしろその構いたがりな姉の存在があったからこそ、亜紀は人の手を借りることに煩わしさがあったのかもしれない。

「綿口埜」
 3年生男子。黒髪超短髪。ただただ視力が悪いため眼鏡。背が高い。
 面倒見がよく、暴走しがちな「虎里」を嗜めたり塞ぎがちになる「亜紀」の手を引いたりする。一人だけ学年が上だが、二人に対して先輩だからと威張ることもせず、説教くさいこともせず、ただ友人として隣にいようと努めている。
 「虎里」は時折「兄がいたらこんな感じなのかな」と口にすることが多いが、実際に「埜」は兄である。
 『永久思考の囚人たち』の登場人物である「蓬莱」とは義兄弟であり、時系列的にはこの『蟲sが走る』は『永久思考の囚人たち』の何年も前の話になるため、この時「蓬莱」はまだ小学生くらい。
 父親に弟ともども冷たく扱われており、自室に引きこもって出てこない弟と兄弟らしいコミュニケーションが取れないため、弟にしてあげたかったことがこうして友人に向けられているように思える。
 作中では触れるつもりはないが、高校卒業後は一人暮らしを始め、家との関係を絶つ。しかし弟とは連絡を取り合い、自身の友人の話を聞かせて外に出る勇気を与え続ける。

「竹野虎里」
 2年男子。黒髪金メッシュ。小学生が体だけ成長したような性格。馬鹿だが阿呆ではない。
 誰とでも仲良くできるコミュ力おばけ。滅多なことでは怒らない。
 誰もが遠巻きにする「亜紀」に積極的に声をかけ続けたのは、「自分が亜紀と同じ立場だったら心細いから」。
 交友関係をやたら広げるのには理由がある。
 中学時代、弟のように自分を可愛がってくれていた先輩が突然病気により入院することになり、毎週欠かさず見舞いに行っていたが、これまた突然、病院から姿を消してしまう。どれだけ関係者に行方を尋ねてもはぐらかされてしまい、先輩と同室だった人も同様に突然いなくなってしまう。受けた恩を返せず、別れの言葉すらいえなかった後悔から、置いて行かれることを極端に怖がり、友達がいなくなる寂しさを感じないために、その寂しさが霞むほどに友人を増やしている。
 この先輩が『データ上の空論』の「朱兎」の元となった人間「朱莉」であり、同室であったのは同じく『データ上の空論』の「ハクム」の元となった人間「諒」である。

 この『蟲sが走る』も、『永久思考の囚人たち』と同様に管理されている世界ではあるものの、同時並行の物語の方へ主要人物たちの意識が割かれているために『天上日誌』や『無題』の影響力が大きく反映されない。
 簡単にいえば、唯一平和な物語である。多分ね。


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