あの人は今(ふつおた供養)


文田さん根建さん、釈由⚪︎子さんこんばんは。
 先日、仕事から帰ってきてなんとなくテレビをつけると、テレビの右上に「あの人は今!?平成時代を支えたレジェンドの現在を追う!」というテロップが表示されていました。なんとテレビ番組『あの人は今』の復活特番がやっていたのです。懐かしいなーと思いましたが、同時に、僕は強い違和感に襲われました。映像では、しがない中年男性のドアップが映し出されており、「いやー、私もあの頃はよくメディアで取り上げられていたんですがねぇ…」と哀愁たっぷりに語っていましたが、僕は全くその人に見覚えがないのです。平成生まれ平成育ちの僕が「平成時代を支えたレジェンド」と紹介される彼にピンと来ないはずなどありません。おじさんの正体が分からずに不気味に思っている間にも、おじさんのインタビューは淡々と続きます。
 「まーね。テレビっていうのは流行がコロコロ変わりますから…私も使い捨てだったのかなぁと思うと…悲しいよねぇ…」俯きながら、おじさんはそう語りました。この人は誰なんだ…こんな華がない芸能人でいたっけ…と考えをめぐらせていると、今までアップになっていたカメラが一気に引きの映像になり、そこで驚くべき真実に気づきます。おじさんが座っていたのは、シルバニアファミリーのおうちの一室だったのです。そうです、彼は、平成時代多くの芸能人がひっきりなしに目撃を主張していた、心が綺麗な人が見えるとされる「小さいおじさん」だったのです。
 自分が想定していたよりやや小さすぎた「小さいおじさん」はさらに話を続けます。「いやーね、たくさんいるんですよ。確実に実力があるのに分かりやすい特徴がない人って。本当はそういう人たちこそ評価されるべきなんだけど、いかんせんテレビは大味(おおあじ)で派手な人を好む。だから才能がある人たちに少しでも活躍してもらいたいなーって思って、駆け出しのアイドルや役者を見つけては、その人たちの視界に入るように近くを走ったりしてたんですよ。最初の方はテレビマンも喜ぶから、みんな嬉々としてオーディションで私のことを不思議なエピソードとして話した。その結果業界人が面白がったからテレビに出られたんです。だけどテレビマンから次第に飽きられたのか、自然に私を見たと話す人がいなくなっていったんです。」そういうと悲しげに俯きました。
 頑張る芸能人が陽の目を浴びるよう、小さい体で奮闘していたという彼に感情移入し、僕は涙が止まらなくなりました。同時に、当時小さいおじさんエピソードを聞いては、「あんなのキャラ無しタレントがテレビに出るためのパチだろう。なんだよ、こぞって小さいおじさんがいるとか抜かしやがって。マジ終わってるわ。」と悪態をついていた自分を恥じました。
 その後おじさんは「まっ、ずーっと株で儲けているからいいんですけどね。テレビに頼らなくてもお金には困っていないんで。あの活動は経済的余裕ゆえにしていた気晴らしにすぎない。金持ちの遊びってやつ?」と半笑いで言い放ちました。突然の冷徹な発言に驚いたため、映像をよく見ると、おじさんの住むシルバニアハウスは大規模なもので、庭には立派なBMWのミニチュアがとまっていました。そしておじさんの手首には、小さな小さなロレックスの腕時計が巻かれていました。 
 しがないサラリーマンの僕は、小さいおじさんがあまりにもいい暮らしをしていることにイラッとし、すぐにテレビの電源を消して寝ました。
 文田さん根建さん、以前小さいおじさんを見たと頻繁に話していた釈由⚪︎子さんは、好きだった番組とかありますか?

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?