見出し画像

不器用な愛情

先日、1年越しに友人と電話をした。彼女は2歳3ヶ月の娘を持つお母さん。ワタシよりも早く母になり、娘との日々を穏やかに楽しんでいる。彼女が娘をお産した当時、母親としての自覚がなかなか持てずに悩んだと言う。当時、電話をした時に「意思疎通ができないから犬猫を育ててる気分だし、犬の方がコミュニケーションが取れる」と言っていた。いい意味で変わっている女性だったので、面白い感想を述べるな〜くらいにしか思わなかった。しかし、いざ自分が子供を産み育てる立場になってみると、あの時彼女が述べた台詞が身に沁みる。

腹が減っている、おむつが汚れている、上手く眠れない、といった時には不機嫌な顔をして泣き顔で改善を要求してくるものの、自分のニーズが満たされるとスッと眠ってしまう赤子。まだ幼いこともあり、寝る時間のほうが長いのでワタシ自身の時間が大いに用意される。あの時彼女が感じていたのと同じように、ワタシも『まるで猫みたいだな』と冷静に感じさせられたり。猫の方が自分の要求を己で解決できるとさえ思ってしまう。

犬猫を育てているような感覚だった彼女は、母親としての自覚に悩んだと言う。我が子は可愛いものの、飼い犬と同レベルの愛情しか持てず、本当にちゃんと母親になれるのだろうか?と自問自答した。また、飼い犬と子どもを天秤にかけた時、双方ともに同一であったと話してくれた。そしてワタシも、同じように感じることが度々ある。

猫のような赤子に対し、決して愛情が欠けているわけではない。長い年月の中、苦しい時を経てやっと出会えた我が子だからこそ可愛くないわけがないはず。とはいえ、彼女(赤子)とはじめて顔を合わせてから1ヶ月弱しか経過していない。知り合って1ヶ月の関係といえば、互いを知ろうとしている段階だろう。ましてや相手は言葉を話せないから、こちらも四苦八苦することが多い。分かったような顔をして、実は何も理解できていないんじゃないか?と勘ぐってしまうことさえあるよ。そんな関係性の中で、母親としての立派な自覚を持てるか?と問われると即答でYESと答えられる自信はない。何度も言うように、我が子が可愛いことに変わりはないし、少しずつであるが母親としての役割が板に付いてきたと感じる節もある。

ただ、どれだけ可愛い我が子であっても、これ以上無理はできないというラインがある。『可愛くて仕方がないし、貴女のためなら何でもできる』なんて言えるほどの自信はまだないんだ。こうした構え方で愛情たっぷりに育児をしている人を見ると、自分の身の振り方に不信感を抱いて項垂れることがある。

そんな話を冒頭で登場した友人に話したところ、彼女も同じように感じていると打ち明けてくれた。そして、娘が2歳を超えた頃から最近になってやっと飼い犬よりも我が子のほうが愛おしいと思えるようになったと。だから、母親としての自覚がないのでは?と悩む必要はないから大丈夫だよ、と優しく声をかけてくれて安心した。

子どものために何かを必死にやり遂げることだけが愛情表現なのでは?と、どこかで思い込んでた。赤子が泣けばいつだって優しく抱き上げながら笑顔で対応し、どんな時も側にいて子の様子を目に留めることができる姿勢こそが母親の鏡。
実際のところは、赤子のニーズを作業の如くこなしてスッと眠った後には自分の時間を楽しんでいる。一人で寝付けずに泣き喚いた時も抱き上げることなく、おくるみに包んでから優しく撫でるようにトントンして眠りに入るのを待つ。物語に出てくる優しい母親像とは一点、子のニーズに応えるロボットのように感じる時さえあって。ただ、この流れがワタシにとって無理なく育児をスムーズに遂行できる形であることは確かなのだ。でも、何処かでもっと無理をするべきなんじゃないか?もっと愛情を注ぐべきなんじゃないか?猫のように感じてしまうのは可笑しいのか?など、思う節もあった。だからこそ、ワタシの想像する母親像を卒なくこなしている人を目に留めれば、自覚の足らない自分を酷く強調されているようで目を覆いたくなってしまう。
そんな時、同じような気持ちで育児をしている友人の話を聞いたとき、スッと心が少し軽くなったように思った。

育児に対する姿勢や愛情の形は、きっと十人十色だろう。何度も繰り返すが、ワタシだって赤子に愛情がないわけじゃないんだ。夜中にふと、娘の顔を見つけては愛おしくて涙が溢れてしまう時もあり。とてつもなく可愛くて、尊くて、言葉では表現しきれないほど愛おしいの。けれども、現実は母親として初心者マークの「し」の字にも及ばず、赤子が成長するのと同じようにワタシも親として一緒に成長を遂げている段階で。お腹から飛び出してきた我が子を目にした途端、臨機応変に母親へ様変わりできるほどワタシは器用じゃなかった。
でも、これからきっと少しずつ、今以上に自覚も芽生えて赤子への向き合い方も変化していくでしょう。だから何も悩む必要はなくて、いまワタシが思うがままの付き合い方でやっていけたら

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?