見出し画像

爪を彩る

ネイルポリッシュが苦手だった。
私はとても不器用で大雑把で面倒臭がりで、自分の爪にネイルポリッシュを塗るのが本当に苦手だった。

ベタベタになってムラになって、いつも何度も何時間も掛けて塗り直すのが億劫でネイルサロンでプロにお金を払ってジェルネイルをしてもらうようになった。
足の指だけは自分で塗った。
ヘタクソでもあまり目立たないから。


5月の末に手の映る撮影が決まり、少し前からネイルを辞めていた。
少し寂しい気もしたけれどすぐに慣れた。

でも、やっぱり指先にも彩りが欲しい。
気まぐれにコンビニで安いネイルポリッシュを買って塗ってみた。
ネイルポリッシュは除光液ですぐに拭き取れるからいいだろうと。

夜中に塗り始めたものだからもしかしたら朝までかかるかな、何年ぶりかも分からないけれど、どうせ上手く塗れないだろう。

鼻から決めつけていたのに、思っていた以上に綺麗に塗れた。
少しはみ出したけれど一度も塗り直さなかったし失敗して除光液に頼る事も無かった。


塗り終わった爪を見て、ちゃんと塗れた事に改めて気付いて、自分がとても丁寧に塗り作業をしていた事にも気付いた。

以前に比べてネイルポリッシュの質やハケの質が向上していたのかもしれない。
しかしそれとは別に自分の技術が知らないうちに向上していたのも事実だった。


ネタにするつもりだった。
「絵描きでアクセサリーも作ってるのにネイル不器用過ぎてウケる」

ぐちゃぐちゃな爪の写真と一緒に自虐の文章をSNSにアップするつもりだったのに、ネタにならない。


様々な経験をして人は成長するらしい。
コンビニの安いネイルポリッシュが教えてくれた。
何が何処に繋がるのか分からなくても何かをしていれば人の何かも変わる。

私の人間としての意識のレベルも、会話能力も、生き方も笑い方も立ち方も喋り方も気の使い方も人を想う気持ちも。


自分の爪を見て少し笑ってほんの少し泣きそうになって、誰にともなく「ありがとう」と心の中で呟いた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?