君と出会ってⅥ
11:30
集合時間の30分前。
お店の前で集合は恥ずかしいからと近くの公園で集合することになっていた。
少し早く来すぎたかもしれないな
そう考えながら周囲を一度見渡すと、僕が立っていた噴水から少し離れた木陰にあるベンチに写真の彼女はポツンと座って本を読んでいた。
○:あの…
さ:は、はいっ…!?
○:さくさん…ですか?
さ:あ、えっと…は、はい…
○○…さん…ですよね…?
○:○○です
よろしくお願いします
さ:よ、よろしくお願いします…
自己紹介だけでも彼女は緊張した様子で俯き気味に話していた。
○:早いですね
さ:い、いえ…その…遅れないようにしなきゃって思ってたらこの時間に…
○:そうだったんですね
すみません、待たせちゃって
さ:そ、そんな!
全然待ってないので!
き、気にしないでください…
○:ありがとうございます
とりあえず、行きましょうか
さ:は、はい…
カランカラン
店:いらっしゃいませ〜
一名で…
○:今日は二名で。
店:申し訳ございません!
すぐにご案内します
―
店に入ってからも彼女はずっと俯いたままだった。
○:さくさん、何にしますか?
さ:えっ…⁉︎
えーっと…
○:いつもは何食べてるんですか?
さ:カ、カレー…
○:じゃあ、カレーにしましょっか
僕もカレー食べたかったので
さ:は、はい…
――
○:さっきは何を読んでたんですか?
さ:ミステリーを…
○:確か、かなえさんミステリー作家でしたよね?
さ:は、はい!
実は今読んでるのもかなえさんの作品で…
○:へぇ
さ:あ、あの…
○:?
さ:こ、これ…
約束してた本です…
○:ありがとうございます
さ:い、いえ…
○:ちゃんと読んで返しますね
さ:は、はい…
―――
さ:今日はありがとうございました
○:こちらこそ、ありがとうございました
さ:あ、あの…楽しかったです…
きっとお世辞みたいなものだ。
残念ながら決して盛り上がったわけじゃない。
むしろ、さくさんはずっと緊張気味でそれをほぐすことができなかったし、きっともう会うのはこれきりになってしまうとさえ思う。
○:それじゃ…
さ:あのっ…!
○:?
さ:も、もしよかったらなんですけど…その…私と…付き合ってみませんか…?
○:え?
さ:い、嫌だったらいいんです…!
けど、また本を返してもらうときに会ったら、きっとそれきりになっちゃうじゃないかって思ったらこうしてずっと会える理由を作らなきゃって…
○:理由…
さ:それと…私、知りたいんです。
○:知りたい?
さ:私、一度も人と付き合ったことがなくて…
だから、付き合って、幸せになって。
人を好きになるってことを知りたいんです。
今日、○○さんとならいいかなって思ったから…
○:…。
さ:ダメ…ですよね…
ごめんなさい…無理言って…
まさか告白されるなんて思ってもみなかった僕は動揺を隠せなかった。
全く手応えがなくてきっと幻滅されちゃったんじゃないかと思っていたのに。
でも、さくさんはまだよく知らない僕でいいと言ってくれた。
それが素直に嬉しかった。
でも、本当にこれでいいのだろうか。
お互いのことまだよく知らないまま付き合うだなんてそんなこと僕にできるのだろうか。
きっと器用なあいつなら二つ返事で答えていたと思う。
でも、僕は…
「ごめんなさい」
さ:…。
○:さくさんとは付き合えません。
さ:そうですよね…。
ごめ…
○:会うのに具体的な理由なんていらないと思います
僕は彼女が謝ろうとしたのを遮った。
さ:え…?
○:会いたいから会う。
それでいいんじゃないでしょうか。
さ:…。
○:たとえそれが好きな人でなくても、気になってる人でも。
さ:…。
彼女はしばらく黙り込んだ後、ゆっくりと顔を上げた。
さ:私、急ぎすぎていたのかもしれません。
「○○さん、また会いたいです。会ってくれますか?」
僕はそのとき初めて彼女の笑顔を見た―