ニーズカードを使って非暴力コミュニケーション(共感コミュニケーション)を体験する~キリスト者入門編①~

はじめに

「ニーズカードを使って、NVC(Nonviolent Communication)を全然知らないキリスト者に90分のNVC講座をするんだけど、どうしたらいい?」と問われて、「じゃあ、簡単なエッセイを2~3本、書くからヒントにしてよ」と言って、書き始めたら、エッセイというよりもキリスト者に対しての導入・超入門みたいな文章になりました。お読みいただいて、何らかのお役に立てば幸いです。

※ニーズカードとは以下のPDFの2ページ目にあるようなリストに基づき、そこに記載されているようなニーズの単語がカード1枚ごとに1単語書かれているカードのことです。ニーズは感情が揺れ動く原因となる大切にしたいこと、必要なことであり、このニーズを満たしたいというだけでは対立になるとは考えないものです。対立が起こるのはニースを満たす手段であって、ニーズそのものを満たしたいことは対立を生まない普遍的なものとしてセレクトされている単語です。

敵(かたき)イメージを解消する

 以前、教会で納骨堂を建てる際、墓地の管理事務所ともめたことがありました。規則はあってなきがごとし。管理事務所が気に入るような墓でないといくら図面が完成しようと墓石店の施工に入る許可は出さないから施工は無理だぞ!という態度をとられました。わたしは「敵を愛し、自分を迫害する者のために祈りなさい」(マタイ5:44)と語った主イエスの言葉を思い出し、「神さま、あの敵のために祈ります」と祈り続けるのですが、苦しくて仕方がありませんでした。ある日、「そうか、あの人を敵と思うから苦しいんだ」と気づきました。敵と思うまま愛するのは苦しいです。敵のようであっても一人の人間として愛する、というのが、主イエスのおっしゃったことの真意だと思うようになりました。敵と思うことをやめて、一人の隣人として愛し、祈るようになってから、とても心晴れやかに祈れるようになったことは忘れられない思い出となりました。その後、墓地の建設は神様の不思議な導きで最善のものを建てることができました。
 非暴力コミュニケーション(Nonviolent Communication:以下、NVCと記載します)は共感コミュニケーションとも呼ばれます。人によっては非暴力と聞くと社会運動に関することで、自分とは無関係な遠いものと思う方もあるかもしれません。呼び方はどちらであれ、その中で大切にしていることの一つは「敵(かたき)イメージを解消する」ということです。
 カップルでも、親子でも、地域のつながりでも、職場でも、面倒なのは相手が敵に見えてしまって「敵(かたき)イメージ」が解消されないことです。国家間でも仮想敵国と呼ぶなど、「敵イメージ」が解消されないからこそ、緊張が高まります。
 人は何かしらニーズを満たそうとして行動します。どんなに良いことをする人であっても、どんなに迷惑をかける人であったとしても、その人なりにどうしても満たしたいニーズがあって行動します。たとえば、Aさんが「悪口を言う」のは「さびしい」からであり、Aさんにとって「つながり」がとても大事だとします。NVCではこの「つながり」をニーズと呼び、「さびしい」を感情と言います。ニーズと感情は対立を生みません。つながりが欲しくてさびしいだけでは問題ではありません。しかし、それをどう満たすかという手段になると、Aさんの場合は、「悪口を言う」のですから、これは衝突を起こします。
 Aさんを「悪口を言う人」として見れば、敵として見てしまうかもしれません。しかし、Aさんを「つながり」が必要で「さびしい」人として見れば、敵イメージは解消されやすいでしょう。
 いくら祈っても、赦せない人がいるかもしれません。敵イメージがぬぐえない人がいるかもしれません。自動車や印刷機が宣教の助けになるように、NVCは、隣人を赦し、和解するためのツールとして用いることができるとわたしは思っています。このたびのエンパシー・サークルを通して、その手ごたえを体験していただければと願っています。

ニーズカードの使い方…エンパシー・サークルを実施する準備をする

 4~5名ずつで輪になって、ニーズカードをサークル状に置くことか
ら始めてほしいと思います。ニーズカードにどんな言葉があるか、しば
らく味わってみてもよいでしょう。(並べ方は以下の写真を参照のこと。カードのデータも以下のリンク先からアクセスできます。)


ニーズを大切にして和解する

 実際に、双方のニーズを大切にすることで和解が生まれたわたしの体験談をお話したいと思います。(クリスチャン新聞福音版2018年8月号に書いたものでありますが…)
 「兄に居場所が知られてしまった」と声を震わせながらタケさんが話しかけてきました。タケさんはわたしがここ数年生活支援をしている人で、困ったことがあればわたしに相談してきます。タケさんは家庭内の暴力を恐れて家を飛び出して30年間、家族との関わりを絶っていました。電話することも恐れるタケさんに替わってわたしが電話し、タケさんが会いたくないと思っている旨を伝えると「あんた何者や!家族が会いたい、ゆうとるのに、家族でもない他人が会わせまいとするとはどういうことや!」と怒鳴りつけられます。まずはこのお兄さんの話を電話口でしっかり聞いて受け止めることにしました。しばらく話を聞いた後「そこまでして会いたいほど、タケさんとのつながりを大切にしたいんですね」と告げると「そうや」とようやくわかってくれたという安堵の返事。それから「タケさんは実家にいた頃、暴力を受け続けて、その時の印象が強いためお兄さんに会いたくないと言っています。お兄さんのつながりを求める気持ちをわたしは大切にしたいのですが、タケさんが安全を実感できることを同じくらい大切にしたいのですがいかがでしょう?」とわたしが伝えると「そうですか。わかりました。」と答えてくださいました。
 その後、数回に渡って、わたしが間に立ちつつ、タケさんとお兄さんが会うことが続きました。タケさんはお兄さんのつながりたい気持ちを大切にし、お兄さんはタケさんが安全を実感できることを大切にしていこうとする中、二人の距離は少しずつ近くなり、わたしが関与する必要はなくなり、今では二人で食事をする間柄となりました。


ニーズを大切にすることで敵イメージが解消される

 こういうケースで、タケさんに対しても、お兄さんに対しても、「聖書が言うように、あなたは間違っているのだから、こうしなさい」と言って、好転する場合もあるでしょうが、委縮させるばかりだったり、事態がひどくなったりすることもあるでしょう。
 わたしはタケさんにとって大事な「安全」とお兄さんにとって大事な「つながり」を同じくらい大切にすることを提案することで関係修復をはかりました。タケさんにとって、お兄さんは暴力をふるう敵にしか見えていませんでしたが、「つながり」を求めている一人の人間であり、自分の「安全」を尊重しようとしていることが、会うことを繰り返す中で明確化されて、結果として「敵イメージ」が氷解していきました。また、このようにお互いのニーズを同じくらい大切にすることは、「隣人を自分のように愛しなさい」という最も大切な戒めを具体的に実践していくものでもあります。

ニーズカードを使って、ニーズを知る

 相手のニーズがなんであるのか、ニーズカードを使ってエンパシー・サークル(ルールはのちほど読み合せます)をする中で、相手のニーズを推測することはひとつのトレーニングになります。また自分自身、感情が揺れ動いているのに、自分のニーズがなんなのか、自分が何を必要としているのか、よくわからないこともあります。しかし、こうして自分のニーズを探ることができれば、もやもやした気持ちが去って行き、自分が何を必要としているのか、明確になってきます。

NVCのメガネ

 NVCのニーズの概念がキリスト教会でいつも必要かは、わたしにはわかりません。しかし、先のタケさんのケースのように、あるときにはNVCのメガネをかけて対処したほうが、適切に和解が生まれることがあります。遠くを見る時には遠くを見る用のメガネがあり、近くを見るときには近くを見る用のメガネがあるように、NVCのメガネをかけて、自分のニーズを明確化したり、相手のニーズを推察したりすることが、かえってつながりをよくし、相手を愛することがスムーズになることがあります。NVCはあくまでメガネであって、かけるか、かけないか、はたまた、いつかけるかは自由なものとしてご理解ください。

ふりかえりのヒント

1.聖書を用いて、相手を正しい/間違っていると告げることで解決できたのはどんなときでしたか?かえって事態を収拾することが困難で悪化したのはどんなときでしたか?
2.あなたを最近ささやかに困らせた人は、どんなニーズを満たすために行動していたと思いますか?(「ささやかに」と書いたのは「大いに困らせた人」だとふりかえるのが困難かもしれないからです) その人のニーズを推察する以前と推察した後で、自分の気持ちにどのような変化が出てきたでしょうか?

※このあと、エンパシーサークルの実施へと続き、最後のまとめの文章となりますが、それはまた次の記事にて記載します。次の記事は↓のリンクをクリックください。


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