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私はエッセイが書けない。

夜中に何個もあげるの頭悪くてほんまごめん
今回、一緒に無能な催眠術師を作ってくれたいこまちゃんが、最後のコントを作るにあたって、いこまちゃんの中の「無能な催眠術」を書いてくれました。
こちらは無料で公開します。
ここまで読んだあなた、絶対に読んでください。
では、どうぞ。

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私はエッセイを書くのが苦手だ。

文章は得意な方だと自分でも思う。セオリーを無視した変なミスはしないし、読みにくいと思わせることは滅多にない。外に文章を出すときはそれなりにこだわりをもって言葉を綴るし、それを楽しいと心から思う。

しかしどうしても、エッセイが書けない。
「自分の話」を文章に綴ることができない。
人と話すときは自分の話ばかりの私だけれど、自分の生い立ち、考えてきたこと、今考えていることを言葉にすることがどうしても苦手で、いささか困っている。

原因ははっきりしている。己のプライドの高さ故だ。

昔から「負けている自分」が大嫌いだった。
「このピアノ教室だと●●ちゃんの次に上手ね」という先生の一言は私を練習に駆り立てたし、吹奏楽部に入ってからは自分が学年で一番うまくないと許せなかった。
誰のせいでもない。とにかく見下されるのが嫌だった。

音楽が好きなのか、評価されている自分が好きなのか。考えるべきことに蓋をしたまま、周りの状況は私をおいてどんどん変わっていく。
家に帰らない父親、プレゼントをくれた不倫相手とその娘。長引く離婚調停の最中にあった運動会では、友人の家族に混ざってお昼を食べた。
明らかに塞ぎ込む弟を尻目に、希望を託すように私にいい子であるように望む母。
私はその期待に応えようと、身の程以上の立場を求め続けた。

副部長、副委員長、生徒会書記と増えていく“二番手”の肩書き。
決して一番を選ばないのは、表に立ってボロがでるのが恐かったから。
周りから私に向けられる言葉が「かわいそう」から「えらいね」に変わるように、常に人と違うことを任される存在であり続けた。

きちんとやれている?愛されている?
私は、みんなに必要とされている?
私がやりたいと思うことの側には、いつでも承認欲求が落ちていた。

幸い周りに恵まれて、一度も鼻を折られることなく順調に自尊心を育ててしまった。
「あなたがいれば大丈夫。」
「任せておけば安心。」
その言葉は、私の弱い心を守る殻になって、嫌なことが目に入らないように隠してくれていた。

いつでも私を守るのは、「誰かの評価」。
だからこそ、自分のこれまでを明確に語ることは避けてきた。
不幸せではないけど、恵まれてはいない。
誇れる人生でなくても、私を形成した全てだから。
言葉にして、誰かに見せて、「大したことない」と直接突きつけられでもしたら、その場に立っていられない気がしていた。
文字の羅列を愛し、救われ傷つけられてきたからこそ、私自身のことを綴った文章は、弱さを全て日の目に晒してしまうことを、私は良く知っている。

浅はかな考え、頭の悪さ。
先送り癖、逃げ癖、打たれ弱い心。
苦手なこと、要領の悪さ。それを隠し続ける傲慢さ。
幸せでも不幸でもない、なんでもない人生。
怠惰で利己的な性格、面白くない発想。

すべて隠したい、誰にもバレたくない。
本当のことを書くと全てバレてしまうから、私は私自身のことを、どうしても言葉にすることができない。

何でもできる、何にでもなれる、有能で、頭がよくて面白い人間であり続けたい。
文章がうまくなくてはならない。
賢くなくてはならない。
仕事ができて、頼られる存在でなければならない。
絶対に、負けてはいけない。
誰に言われたわけでもない、だれかに傷つけられてもいない。
これは私が私自身に、長い年月を超えてかけ続けている“催眠”だ。

本当は、自分の言葉で残しておきたいことがたくさんある。
このあいだ読んだ本のこと、さっき観たネタの感想、面白かったライブの話。
音楽が好きだったこと。
本当は、もっと本気で音楽と向き合うべきだったと後悔していること。
反面教師にしてきた両親のこと、家庭環境から目を背けるために学校でのコミュニティに依存してきたこと。こんなに自分は自分と割り切っていても、残念ながら両親の嫌いな部分が私にも色濃く受け継がれていること。
本当はちょっとポンコツなのに、仕事ができないと価値がないと思っていること。そしてそれはきっと、逃げ続けてきた私の人生に原因があること。

お笑いが本当に好きなこと。
「チームクボのお手伝いをしてくれませんか?」と声をかけてくれたあの日から、良くも悪くも人生が一変してしまったこと。
もっとクボと、チームクボとやりたいことがたくさんあること、これで食えたら幸せだなって思うこと。

抽象的な言葉でぼかさずに、テクニックで隠さずに。
ありのままを書いて、魅力的だと思ってもらえたらどれだけいいだろう。

あの夜、小説が私を救ったように。
あの日、あの言葉が彼女に響いたように。

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