ブタオ先生との思いで②
第2回目は、現在、沖縄で医師として活躍している長野 宏昭さんからいただいたブタオ先生との思い出です。
奥さんとのエピソードも微笑ましいお話です。
私が初めてブタオ先生お会いしたのは、私が岡大オケに入団した20歳の時でした。あの時からあっという間に20年の歳月が流れました。
ブタオ先生とは自分の人生ちょうど半分にあたる20年間もの長きにわたって交流させて頂いていると思うと、本当に貴重で他では得がたいご縁であります。
ブタオ先生との関係は私の人生の中で貴重な財産となっております。
ブタオ先生との思い出は数知れず、断片的ですが今でもとても鮮明に蘇ってきます。
現役時代、私たちはブルックナーの交響曲8番という、前にも先にも決して演奏されることのないような大曲に挑んでいました。
この曲は交響曲の頂点に君臨する、エベレストのような存在でした。いくら登っても頂上が見えない...そんな圧倒的な高さ。
私はコンマスという立場もあり、孤独とプレッシャーで心が折れそうな時がありました。
そんな私にブタオ先生は、
ゾマホン(筆者のオケ名)あなたね、ブル8のコンマスができるなんて、オケ奏者にとってこの上ない幸せなのよ。
この世でこんなに美しい音楽があるなんて...
誰もが経験できることじゃないのよ。
大丈夫よ、あなたは立派なコンマスなんだから!
と背中を押してくださいました。
その時の言葉に私は大変勇気付けられました。
僕はこの席に座っていていいんだ、
こんな僕でも認めてくれるひとがいるんだ。
と嬉しい気持ちになりました。
公民館や、ボックス、今は無き(?)暗室で繰り広げられた、ブタオ先生レッスン。
オケの練習は大変厳しいものでしたが、ブタオ先生のレッスンはその全てが楽しいものでした。
ブタオ先生と一緒に演奏すると、普段は自信なさげに聞こえる団員の音が、まるで生命を吹き込まれたように生き生きと輝き始めるのです。まさにブタオマジックです。
そこには、音楽の歴史を深く洞察され多くの知識があること、プロ・アマ問わず一人一人のプレイヤーに対する尊敬の念があること、そして何よりも音楽・ヴァイオリンに対する深い愛情があること。ブタオマジックはそのような揺るぎない背景があるからこそ、実現可能なのだと思います。
どんな音楽に対しても、作曲家への尊敬の念を持っていること、そして一緒に演奏するプレイヤーへの尊敬の念を忘れないこと。アマチュア音楽家が忘れがちな、大切なことを教えてくださいました。
私が「ブルックナーはどんな気持ちで8番を書いたのでしょうか?」
とブタオ先生に質問すると、
ブルックナーはね、ロリコンだったのよ。
それもまだ〇〇前の少女が好きだったの。
そんな子達への憧れ、自分はバッハ先生のようになりたい、バッハ先生、バッハ先生...
でもバッハには一生叶わないという鬱屈した心があったのよ。
4楽章最後のユニゾンは“俺はブルックナーだ!”という魂の叫びなのよ!
とご指導くださいました。
音楽家の生きた歴史を知る、人柄に触れる、気持ちを投影してみる...そんな練習が毎回できれば幸せだなと思いました。
そして、時折見せる、ユーモアとお茶目さ。みんながブタオ先生を大好きになるもう一つの理由です。
ゾマホンが製本した楽譜はゾマ本、
ゾマホンのボロボロの携帯はゾマフォーンなのよ❤️
と後輩達に説明するブタオ先生。
そして、ブタオ先生は時々、放送禁止用語もお使いになられます。昔の古き良き時代?です。
私が「ブタオ先生、今度、ブリテンのシンプルシンフォニーを演奏します!」と申し上げると、
あら、素敵ね。
2楽章の愉快なピツィカートはね(耳元で)
”〇〇コ、〇〇コ好きよ! 私だって好きよ!”
と歌ったら良いわよ!
とご指導くださいました。
グルメでもいらっしゃったブタオ先生は、白(シロ・オケ名)さんが作ったパスタをお食べになった時、
あらおいしい!
白ちゃんね、パスタは茹で時間をもう少し短くすると、もっとマイウーだわよ!
とナイスアドバイス。
その後、白さんのパスタは絶妙なアルデンテになりました。
ブタオ先生は、最近、私の住んでいる沖縄にもオケのご指導でお越しくださるようになり、また音楽での対話が再開されました。なんて幸せなことでしょうか。
ショスタコ5番の3楽章のセカンドヴァイオリン
人間のこころが全く入っていない、寒気がするほどの冷たさで・・
氷のように冷たい、少し特殊な音楽です
ブタオさんの一言で、蒸し暑い沖縄からソビエトの極寒の地へテレポート。15年ぶりに味わうブタオマジックはやはり健在でした。
沖縄で、オケの本番にもご出演いただきました。
リハーサルでマーラーの5番4楽章の弦楽器のフーガが乱れオケが崩壊しそうになった時。
ブタオ先生は3プルト目からすっと立ち上がり一言
お互いをリスペクトすること。
少し冷静に、周りを見渡して80%くらいの力で...
弦楽器は管楽器のように、管楽器は弦楽器のような音を目指しましょう。
本番で弦楽器のフーガはほぼ完璧で、私たちはまたもブタオマジックに救われました。
「弦楽器は管楽器のように、管楽器は弦楽器のように...」
プロでもなかなか言える言葉ではないかと思います。
飲み会ではワイソ(ワイン)とクーニー(肉)をこよなく愛され、
レイーキーなチャンネーとシースーをクーイー、これがマイウーなのよ
ゾマホン、あなたね...白ちゃんを泣かせたらタダではおかないわよ!
といつもご機嫌なブタオ先生でした。
20年という歳月が流れ、私もすっかりおじさんになってしまいましたが、ブタオ先生はお会いするたびに若返っておられるような気がします。最近は健康面にも気をつけておられ、大好きな「クーニー」や「ワイソ」も制限されているご様子。どうかいつまでもお元気で、素敵なヴァイオリンとトークを私たちにお聞かせくださいね。
私は一生、ブタオ先生のシーデー(弟子)です。
これからもご指導よろしくお願いいたします!
長野 宏昭(ゾマホン、第50回卒)