かつひこ君と夏

SUMMER HAS COME!!!!!!!!!!!!

かつひこ君は寝汗の洪水とともに絶叫しながら飛び起きた。
時刻は午前4時。もはや28時とでもいうべきか。太陽は早くも顔を出し夜の黒は薄くなっていく。

用があってこんなに早く起きたわけではない。
暑く、まとわりつくような湿気がかつひこ君を目覚めへと誘った。寝汗が出すぎて部屋は洪水状態、溺死すら考えられた。布団は当然びしゃびしゃになっていた。そして再び寝ようにも侵入してきた蚊の羽音に妨害され寝付けなかった。

6月とは、夏である。気付いたらかつひこ君は夏だった。夏は予告なくやってくる。
かつひこ君はこの世の森羅万象の中で何よりも暑いのが苦手であった。死すら暑さの前では勝てない。

込み上げる暑さへの怒りは冬の寒さに対するそれとは一線を画す程に激しく、その怒りのエネルギーを持ってさらに暑くなってしまうのではとなるほどだ。
この怒り、どうにか消化できないか。そう思ったかつひこ君は、紙とペンを取り出し、おもむろに詩を書き殴った

「30度を超えた日曜浮かび始めた汗がクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソクソサマーサマーサマーサマーサマーサマーサマーサマーサマーヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘルヘル」

会心の出来だ。かつひこ君は早速メロディをつけ、YouTubeに弾き語り動画をあげた。
この動画がなんとSNSで大バズりし、かつひこ君は一躍時の人となり、フォロワー数は50,000,000人を超え、全世界で注目される弾き語りストとなった。

次回作が待たれる中、かつひこ君はバンドを結成した。その名は「岐阜初期衝動」。かつひこ君の暑さに対するヘイトを初期衝動として結成されたこのバンドはあっという間に「岐阜キショ」という略称とともに広まっていった。なおメンバーはかつひこ君のみである。

岐阜ClubGでの初ワンマンを見事やり切り、1週間後にはZepp Hashimaでのライブを成功させると、岐阜キショは岐阜屈指の大舞台である羽島スタヂアムでのライブの開催へといたった。

10万人の聴衆が岐阜キショの登場を今か今かと待ちわびた。
ファンの熱気は凄まじく、スタヂアムの中には雲ができていた。そう、羽島スタヂアムは埼玉の欠陥ドーム球場と同じく、屋根はあるが壁と冷房が無かった。この時すでに羽島スタヂアム内の気温は50℃を越していた。

控室にいたかつひこ君は、この暑さのあまり、こんなに暑いのにライブなんかできるわけない、ライブをしたくない、帰ると言うとそのまま羽島スタジアムの隣を流れている長良川に飛び込み、行方をくらました。

その後のかつひこ君の行方を知る人はおらず、岐阜初期衝動は伝説のバンドとして日本の音楽界に名前を刻んだ。

おわり

加藤克彦著 「春夏夏夏秋冬冬冬」より


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