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ショートショート「娯楽」

缶を一杯飲み干した。ぼんやりとした視界。ぼんやりとした思考。悪いことが考えられない状態だ。頭がくらくらとする感じさえする。けれども癖になる感覚。不思議と気持ち悪さは感じない。



夏の今にも日が沈もうとしている夕方の河原。草の青々とした臭いに加えて昼の暑さが残った生暖かい空気に包まれている。 



音質のいいスピーカーから音楽を爆音でかける。アルコールを飲み普段より気が大きくなり大胆になった僕と友人たちはわけのわからない腰振りダンスをして下品に笑い合う。



酔いも回ってきた頃に近くの女の子たち複数人に声をかける。一緒にアルコールを飲み無秩序なダンスを踊る。気に入った女の子を口説いてみた。まんざらでもなさそうだ。ペアでダンスを踊り体をお互いに触り合う。顔が近づいたタイミングでキスをする。濃厚に唾液の交換をした。周りの友人と、女の子たちも似たようなことをしているから全く恥ずかしくない。お互い欲望が我慢できなくなり、僕たちは河原の土手に寝っ転がってひとつになる。この世で最も動物的な快楽だ。酔いと絶頂が合わさりこの上ない快感で脳内、いや、身体全体が満たされた.....



「調子はどうですか。」

医師の声で目を覚ました。目を開けると22世紀の世界。僕は技術の革新により学ばなければならない知識が以前より格段に増え20歳まで延ばされた義務教育の卒業試験を控え気がおかしくなり病院に来たのだった。



アルコールやタバコは麻薬の一部と見なされ非合法になって十年が経つ。この手の薬も自宅で飲むことは許されず、医師の監督のもと飲まなければならなかった。

「この間処方したお薬よりも作用が強いものをお出ししましたがご気分は悪くなってないですか?」

「大丈夫です。いい意味で精神的な苦痛の逃げ場になりそうです。」

「辛くなったときにまたいらしてください。身体的な負担上3日以上あけて来るようにしてくださいね。お大事に。」

「ありがとうございました。」



病院を出て自動操縦のカプセルに乗り込むと音も立てずに静かに加速し自宅まで送り届けられた。



地球の人口は100億人をゆうに越え、世界各国の居住可能地域では過密化が進んでいる。我が国は少子化によりピーク時の人口よりは本来減っているはずなのだが過密状態にある国や地域からの移民を積極的に受け入れた結果、人口は増え続け100年前の2倍近くまで増えているし増え続けている。



バカなことをやって騒いだりアルコールを飲んでめちゃくちゃになる場所もなく容認もされていない。苦しい時代に生まれてしまった。どうやら、この調子だと3日経ったらまた病院に行かないと気が済まなくなりそうだな....



部屋の小さい窓から下を見下ろす。ビルの50階なのだが眺めはよくない。所狭しと林立する100階建てのビルに囲まれているのだから....。

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