「紫色のアネモネ」
来週予定していた友人の挙式が延期になったのを残念に思いながら、今の季節と結婚式場をテーマに書いてみた。
シナリオの書き方に若干小説っぽさが混ざってるのは大目に見てください。
「紫色のアネモネ」
・人物
花本詩織(はなもと しおり)27歳
結婚式場専属フローリスト
三上千夏(みかみ ちなつ)29歳
詩織の上司
成相佑斗(なりあい ゆうと)28歳
結婚式場にきたお客
周藤治樹(すとう はるき)29歳
プロデューサー・千夏の友人
○工房・中(朝)
作業台を埋め尽くすように置かれた、色とりどりの花材。
花本詩織(27)と三上千夏(29)が、作業台を前にして並んで立っている。
詩織、左手にスイートピーの束を持ち、右手に持ったフローリストナイフで茎をカットする。
千夏、ラナンキュラスを手にとって呟く。
千夏「春…って感じねぇ」
詩織「まぁ、春の花ですからね」
千夏が眉を垂らして笑う。
千夏「それもそうなんだけどね。あたしが言ったのは別の意味で」
詩織「別の意味?」
詩織が千夏に視線を向ける。
工房に内線のコールが鳴り響く。
詩織と千夏が揃ってデスクの方に目をやる。
千夏「あたし出るよ」
千夏、工房内のデスクに近寄って、電話をとる。
千夏「はい、花工房の三上です。…これからですか?わかりました、すぐ行きます」
千夏、電話を切ると詩織の方を振り返る。
詩織「打ち合わせですか?」
詩織の頭が左に少し傾く。
千夏「うん。詩織ちゃんいける?婚礼じゃなくてプロポーズ用らしい」
詩織「プロポーズ???」
千夏「うん。詳しくは聞けてないけど、とりあえず花束希望だって。来客室入って正面の男性1人」
詩織「わかりました」
詩織、腰に巻きついているエプロンを外してロッカーにしまい、ジャケットを着る。
千夏、パンフレットと見積書を挟んだクリップボードを持った右手を詩織の方へ伸ばす。
詩織がクリップボードを受け取る。
千夏「プロデューサーは周藤だから」
詩織「はい、行ってきます」
千夏、工房を出て行く詩織の背中を笑顔で見送る。
○来客室
5つのテーブルのうち、4つのテーブルには、各テナントスタッフと打ち合わせ中の新郎新婦がいる。
その空間の中に、1人静かに座っている男性。
詩織、男性が座っているテーブルに近づく。
詩織「こんにちは。お花の担当をさせていただきます、花本詩織です」
詩織、名刺を差し出す。
成相佑斗(28)、座っていた椅子から立ち上がると、詩織の名刺を受け取り、お辞儀をする。
成相「よろしくお願いします」
成相、再び椅子に座る。
成相が座ったのを確認して、詩織も向かいの椅子に座る。
詩織「早速ですが、今回のことについてお話を聞かせてください」
テーブルに視線を落としていた成相が顔を上げる。
成相「あっ、はい!今度…サプライズで、式場見学だって言って、彼女をここへ連れてこようと思ってるんです」
成相が両手をテーブルに置き、少し前のめりになる。
成相「彼女には結婚したいって前から言われてたんですけど、そのうちって濁してて…」
成相の視線が一瞬下を向き、またすぐ詩織の方に戻る。
成相「それからまだちゃんとしたプロポーズができてなくて。だから、ここのチャペルでプロポーズしたくて」
詩織、成相に笑顔を向ける。
詩織「素敵ですね。きっと喜ばれますよ」
成相、少し照れたように微笑む。
成相「それで、その時に渡す花束をお願いしたいんです」
詩織「花束ですね。どのようなものをご希望ですか?」
成相「花ってよくわからなくて。ただ、やっぱり特別感のある薔薇だけの花束とか」
成相が腕を組んで考え込む。
詩織「薔薇だけの花束も贅沢でいいですよね。彼女さん何がお好きとかわかりますか?」
成相「それが全くで。…そういえば本で読んだことあったなぁ。好きな相手の好きな花の1つや2つ、覚えておけって。もっと前に彼女から聞き出しておけばよかった」
成相が苦笑する。
成相につられて詩織も小さく笑う。
詩織「どんなお花でも喜んでもらえますよ。気持ちがこもってるんですから」
成相「よく薔薇の本数で、気持ちを伝えるって言うじゃないですか。ベタかもしれないけど、それもありかなって」
詩織「いいですね。いろんな意味がありますよね。一目惚れとか、最愛とか」
成相「やっぱりここは、ストレートな意味で結婚してくださいかな?」
詩織「それだと、本数は…」
詩織、iPadを操作して、画面を成相に向ける。
○事務所・中
事務所の中央に、7人用のデスクが顔を合わせるように並んでいる。そのうち、事務所の入り口に背を向けるように置かれたデスクに、男性が1人座っている。
周藤治輝(29)、パソコンの画面を見つめながらキーボードを叩いている。
事務所のドアを3回叩く音がした後、続けてドアが開く音がする。
事務所に入ってきた詩織が、周藤の背中に向かって声をかける。
詩織「失礼します。周藤さん、打ち合わせ終わりました。…あれ、1人なんですね」
詩織、事務所の中を見回す。
周藤、パソコンから目を離し、後ろを振り返る。
周藤「…あぁ、花本か。どうだった?」
周藤がプロデューサー用の見積書を自分のデスクの横に置く。
詩織、周藤のデスクの横までくると、置かれた見積書に書き込みながら答える。
詩織「25000円の花束を頼まれました。薔薇だけの。108本です」
周藤「は、薔薇だけ?」
詩織「彼女さんの好きな花がわからないらしくて。なので、結婚してくださいって言葉の意味がある、108本の薔薇になりました」
周藤「へぇ。そんな意味があるんだな」
詩織「彼女さんの好きな花、聞いておけばよかったって嘆かれてました」
詩織がくすりと笑う。
周藤「………」
周藤、見積書に書き込む詩織を見つめる。
書き終わった詩織が顔をあげ、周藤を見た後眉を寄せる。
詩織「…どうかしました?」
周藤「いや、なんでもない」
周藤が詩織から目を逸らす。
詩織「そうですか。じゃあ書き終わりましたので工房に戻ります」
詩織が事務所のドアに向かって歩く。
周藤「花本」
周藤の声に、詩織が振り返る。
周藤が詩織から少し視線を外して言う。
周藤「お前の好きな花は?」
詩織「えっ…?」
驚いた表情の詩織。
周藤「いいから」
詩織、視線を斜め上に向けて少し考えた後答える。
詩織「…アネモネですかね。紫色の…」
周藤「…そうか」
そう言って背を向けた周藤が、デスクのパソコンに向き直る。
詩織に背を向けたまま周藤が言う。
周藤「ただ聞いてみたかっただけだから、気にするな」
詩織「そうですか…。では、失礼します」
詩織、事務所を出て行く。
○工房・中
千夏、お弁当が2つ置かれた作業台を前に、椅子に座ってスマホを操作している。
詩織、工房に入ってくる。
詩織「戻りましたー」
千夏、スマホから顔を上げる。
千夏「おかえり〜。どうだった?」
千夏がスマホを作業台に置き、笑顔で詩織を見つめる。
詩織「薔薇の花束を頼まれました」
千夏「あ〜そっちじゃなくて!事務所、周藤だけだったでしょ?」
千夏が楽しげに言う。
詩織「え、そうですけど」
千夏「何話したの?」
詩織「何って、お客様の事ですけど」
千夏「えー!?他には?」
詩織「…特には何も」
詩織が千夏から顔を隠すようにロッカーを開ける。
千夏が肩を下げて、わざと大きなため息をつく。
詩織「なんでそんなガッカリしてるんですか」
詩織、ジャケットを脱いでロッカーに入れると、エプロンを腰に巻き付ける。
千夏「別にぃ。つまんないなーって思って」
詩織「…そうですか」
詩織、ロッカーを閉めると千夏に近寄り、椅子に座る。
千夏が宙に向かって言う。
千夏「一体いつになるやら」
詩織「………」
詩織、目の前に置かれたお弁当を手に取った。fin
はーやばい。
自分で書いておいて、なんかめっちゃ恥ずかしい。
でも、わかる人には、きっとわかる。
詩織ちゃんに、よく付け足した!って言いたい。
まぁ言わせたの私だけど。
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