今日発見された系外惑星 TOI-3235b



発見論文のプレプリント(草稿)は昨日2023年2月20日にarXivに投稿され、今日2月21日午前11時前にオンラインで公表されました。

[2302.10008] TOI-3235 b: a transiting giant planet around an M4 dwarf star (arxiv.org)

今日では5000個以上の系外惑星が発見され、特筆すべき特徴が無い惑星は数十個や数百個単位で一つの論文+付属のデータカタログという形でまとめて発表されるということが増えてきました。そのような中でTOI-3235bは個別の天体として論文に取り上げられて発見が公表されました。それだけ特徴のある惑星だということです。

  • TOI-3235bは

  • 質量が木星の0.66倍、

  • 半径が木星の1.02倍 -- この質量と半径は巨大ガス惑星に一致。

  • 公転周期が2.59日


短い公転周期が目を引きますが、系外惑星としては珍しいというほどでもなく、これらの数字だけを見るならよくあるホットジュピターです。

ホットジュピターとは太陽系の巨大ガス惑星クラスの質量やサイズを持ちつつも公転周期が10日以下という非常に短周期の軌道を公転している惑星のことです。このような惑星は太陽系内に類がなく系外惑星としてのみ知られています。1995年に最初の太陽系外惑星として発見されたペガスス座51番星bをはじめとして多くのホットジュピターがこれまでに発見されています。

TOI-3235bの最大の特徴はその主星が赤色矮星であることにあります。というのも、赤色矮星にホットジュピターが見つかることは非常にまれだからです。

赤色矮星とは太陽より低温で小さい恒星のことで、その質量は太陽のおよそ0.08-0.60倍の範囲に分布します。TOI-3235bの主恒星であるTOI-3532の場合は質量が太陽の0.39倍、半径が0.37倍で、赤色矮星としては中の上ぐらいのサイズの恒星です。TOI-3235の表面温度は2920℃で太陽の5500℃と比べると2000℃以上低温です。

TOI-3235系を太陽系(ここでは太陽-木星を表示)と比べると、主恒星が小さいことで惑星/恒星のサイズの比率が異様に大きいことが分かります。

赤色矮星のホットジュピターの珍しさ


「ホットジュピターが珍しい」というのは意外に感じる方もいるかもしれません。

現在主流の系外惑星の観測方法では、ホットジュピターのような短周期かつ質量やサイズの大きい惑星を発見しやすいため1990年代には非常に高い頻度でホットジュピターが発見されていました。しかし21世紀に入って観測技術の進歩やデータの蓄積により、長周期の惑星や小さい惑星が発見され始めるとホットジュピターは相対的に珍しい惑星だと考えられるようになりました。

00年代以降は惑星の発見数の増加によりどのような惑星がどのぐらいの頻度で存在しているかを統計的に調査した研究が続々と発表される時代となりました。

2020年に発表された研究 (Wittenmyer et al., 2020)では、ホットジュピターは太陽類似星では1%以下の頻度でしか存在せず、クールジュピターと呼ばれる太陽系の木星のような長周期のガス惑星(数%の頻度で存在する)と比べて大幅に珍しいタイプの惑星だということが報告されています。

Cool Jupiters greatly outnumber their toasty siblings: occurrence rates from the Anglo-Australian Planet Search - NASA/ADS (harvard.edu)

また、近年ではNASAの系外惑星観測衛星TESSの観測データに基づく研究 (でも同様の結果が報告されています(Zhou et al., 2019)。

Two New HATNet Hot Jupiters around A Stars and the First Glimpse at the Occurrence Rate of Hot Jupiters from TESS - NASA/ADS (harvard.edu)

このように、1990年代の状況と変わって現在ではホットジュピターは珍しい天体であることが分かってきています。

この種の統計研究では主星の特性とホットジュピターの存在頻度の関連も調査されています。

ホットジュピターの存在頻度に最も大きな影響を与える主星の特性として、

  1. 主星の質量

  2. 主星の「金属量」

の2つが見つかっています。主星の質量が大きいとホットジュピターの存在頻度は高くなり質量が小さいと頻度が低くなる傾向があります(Butler et al., 2006; Gaidos et al., 2013)。ただし大きければ大きいほどいいというわけではなく、太陽より大きい主星では存在頻度はむしろ減少に転じることが報告されています (Zhou et al., 2019; Kunimoto&Matthews, 2020)。赤色矮星ではホットジュピターの存在頻度は太陽型星の3分の1にまで低下すると考えられています(Butler et al., 2006)。これは赤色矮星ではホットジュピターの存在頻度は0.5%未満、つまり数百個に1個というような頻度でしかホットジュピターを持たないことを意味します。

金属量とは恒星の組成中に含まれる水素・ヘリウム以外の元素の量のことです。太陽ではこの比率は1%程度ですが、恒星によっては比率が太陽より高く2%を超えるものや、太陽より大幅に少なく0.1%未満しかないものまで幅があります。この金属量が大きい恒星の周りにはホットジュピターやそのほかの巨大ガス惑星が発見されやすいことが分かっています (Fischer & Valenti 2005)。金属量の高い恒星の周りでは固体物質が豊富なため、巨大惑星の形成の最初のステップである原始惑星コアが形成されやすいことがその理由だと考えられています。

ちなみにTOI3235bの主星TOI-3235は質量が太陽の4割しかないということからホットジュピターの存在頻度は低いことが予想されます。
一方でTOI-3235は金属量が高い恒星であることも分かっており、金属量は太陽の1.8倍もあります。そのため質量から予想されるよりもホットジュピターが形成されやすい恒星だともいえます。







参考文献

  1. Butler e al., 2006 :  https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2006PASP..118.1685B/abstract

  2. Fischer & Valenti 2005 : https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2005ApJ...622.1102F/abstract

  3. Hobson et al., 2023: [2302.10008] TOI-3235 b: a transiting giant planet around an M4 dwarf star (arxiv.org)

  4. Kunimoto & Matthews, 2020 : https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2020AJ....159..248K/abstract

  5. Zhou et al., 2019 : https://ui.adsabs.harvard.edu/abs/2019AJ....158..141Z/abstract


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