ケプラー105系の2つのスーパーアースの質量測定

2つの太陽系外惑星が存在することが知られていた惑星系「ケプラー105」の惑星の質量を測定したという研究をマサチューセッツ工科大学のAaron Householder氏を筆頭とする研究チームが公表しました。

[2309.11494] Investigating the Atmospheric Mass Loss of the Kepler-105 Planets Straddling the Radius Gap (arxiv.org)

恒星ケプラー105と太陽の比較

ケプラー105系は太陽系から1520光年の距離にある太陽に似た恒星ケプラー105を中心とする惑星系です。2つの惑星は2009年から2013年の間に行われたケプラー宇宙望遠鏡の観測で検出され、2014年に発見が公表されていました


ケプラー105系の惑星 太字は今回の研究で新たに測定された項目。ケプラー105bの質量と密度は上限値。

ケプラー105系の2つの惑星はいずれも広義のスーパーアースに該当する惑星です。どちらも軌道半径が地球の10分の一以下という主星に近接した高温の惑星です。


ケプラー105系(上段)と太陽系地球型惑星(下段)のサイズの比較。

スーパーアースとは地球と海王星の中間のサイズの惑星のことで、地球と同様の岩石質の惑星(狭義のスーパーアース)と岩石質のコアの周囲をエンベロープ(※)が取り囲んだ惑星(ミニネプチューン)の二種類が混在していると考えられています。

※エンベロープとは、水素やヘリウムなどのガス成分からなる低密度で大きな体積を持つ外層部のことを指します。

スーパーアースのエンベロープは流失しやすく、2010年代前半以降スーパーアースのエンベロープ流失についての研究がさかんに行われてきました。

スーパーアースのエンベロープ流出メカニズムにはいくつかの仮説があり、その中でも特に有力な「光蒸発説」では主恒星が放射する高エネルギー電磁波(X線や紫外線)が惑星大気を加熱しエンベロープの散逸(光蒸発)を引き起こすと考えられています。光蒸発説では、スーパーアースの大半はエンベロープを持つミニネプチューンとして生まれた後に光蒸発を経て一部の惑星が「狭義のスーパーアース」に変化するとされています。

光蒸発説では主恒星に近い距離にある惑星の方が強い高エネルギー放射を受けるため、同じ惑星系内で見れば内側の軌道にある惑星ほどエンベロープを喪失した狭義のスーパーアースである可能性が高くなることが予測されます。そのような統計的傾向はケプラー宇宙望遠鏡の観測で裏付けられています。

ケプラー105系では惑星bは半径が地球の2.5倍、惑星cが地球の1.4倍であることが既に分かっていました。これらの半径はそれぞれミニネプチューンと狭義のスーパーアースの典型的なサイズ(※)に相当します。つまりこの惑星系は光蒸発説により予想される「内側が狭義のスーパーアース・外側がミニネプチューン」という一般的な傾向から逸脱しており、その点で光蒸発説の検証材料として近年関心を集めていました。

※狭義のスーパーアースは約1.3地球半径で頻度がピークに達します。ミニネプチューンは2.5地球半径付近がピークです。二つのピークの中間の1.5-2.0地球半径の惑星は頻度が異常に少ない頻度分布の谷間となっており「半径の谷 (Radius Vallley)」や「半径ギャップ(Radius Gap)」と呼ばれます。

このような例外的な惑星系を光蒸発説の枠内で説明する考え方の一つとして、「2つの惑星のコアの質量が異なることが原因だ」というものがあります。
同じミニネプチューンであってもコアの質量が大きいほどエンベロープを引き留めやすいため、内側の惑星が外側の惑星よりも大きなコア質量を持っていた場合外側の惑星の方が先に光蒸発が進行するという逆転現象が起きる可能性があります。
このような説明が正しいかどうかを検証するためには惑星のコア質量を測定(※)する必要があります。しかし、ケプラー宇宙望遠鏡は特別な状況を除いて惑星の質量を測定する能力を持たないため、惑星の質量はフォローアップ観測で測定する必要があります。これまでケプラー105cの質量は測定されていましたが、惑星bの質量は依然として不明でした。

※一般的にコア質量を直接測定することはできませんが、ミニネプチューンでは惑星質量の大半(9割以上)がコア質量に占められているため惑星全体の質量を測定すればコア質量もほぼ確定します。

そこで今回Householder氏らの研究チームはハワイマウナケア天文台群にあるケック10m望遠鏡とHIRES分光器を用いてケプラー105の観測を行いました。

この新しい観測データとケプラーの観測データの再分析を組み合わせることにより、内側の惑星bは質量が地球の10.8+/-2.3倍、外側の惑星cは地球の5.6+/-1.2倍以下(※)であることが判明しました。

※惑星cについては精度の限界のため質量の上限のみが得られています。この上限以内に収まる可能性は98%とされています。

この結果は、一般的傾向に反したケプラー105系の惑星の配置は内側の惑星のコア質量が外側の惑星の二倍以上大きかったことが原因であることが明らかになりました。また、シミュレーションを通じた検証によれば76%の確率でケプラー105系の状況を光蒸発説で説明可能という結果も得られました。


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