名古屋市議会解散請求を振り返る

はじめに

愛知県知事リコール活動の、各種不可解な事象を理解するうえで、約10年前に実施された、名古屋市議会解散請求を振り返ることは重要と思います。
本件は確か政令市としては初の成功した議会解散請求だったかと。
ただ、ググってみたり、当時の当事者の現在発信ブログ等を見ても、情報は正直なところ玉石混交。人の記憶はあいまいだったりしますからね…。

というわけで、今回は本件関連裁判の判例から、署名活動の状況を振り返ってみたいと思います。

引用する裁判判例

特に断りなければ、以下判例を引用しています。

事件番号:平成22(行ウ)111
事件名: 市議会解散請求署名異議申出に関する棄却決定取消等請求事件
裁判年月日:平成23年2月4日
裁判所名:名古屋地方裁判所

どんな裁判だった?

ざくっと要約します。

原告:現職名古屋市議会議員(当時)

被告:名古屋市(正確には「市選挙管理委員会及びα区選挙管理委員会を含む合計16の区選挙管理委員会(以下総称して「各区選挙管理委員会」という。)が属する地方公共団体)

請求要旨:原告の市議さんが、被告である名古屋市選挙管理委員会に対して署名簿の有効性に対する異議申し立てを出したけど、却下したのはおかしい、却下を取り消すように、との求め

裁判結果:訴えを却下

この裁判判例の意義

今回のメイン議題とは違いますが、この裁判で原告(市議)が「署名簿の様式が無効だ!だから様式不備で署名を無効にすべきだ!」と訴え、裁判では「問題なし」とされたもの。
その様式というのが、両面刷りでの用紙のようです。
気になる方は詳しく判例読んでみてください。

署名の審査の経過

今回のメインです。玉石混合な署名の有効無効がどんなものかどういうプロセスで収束していったかを見ていきましょう。

3 前提事実(以下の事実は,当事者間に争いのない事実及び後掲の証拠から容易に認定できる事実である。)
<中略>
(2) 本件の解散請求の概要
<中略>
オ 請求代表者らは,10月4日,各区選挙管理委員会に対し署名簿を提出し,署名簿に署名し印を押した者が選挙人名簿に登録された者であることの証明を求めた。
各区選挙管理委員会に提出された署名簿の冊数(別紙1の様式の本件署名簿1枚を1冊と数える。以下同じ。)は合計6万5190冊,署名は合計46万5602筆であった(乙19)。
カ 各区選挙管理委員会は,請求代表者らからの署名簿の提出を受けて,審査を開始した。提出された署名簿には,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載がある署名簿と,これらの記載のない署名簿が混在していた。委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所が記載されていない署名簿の数は,合計2万0768冊(全体の31.86%),署名の数は,合計11万4805筆(全体の24.66%)に上った(乙20)。

まずここまでで、提出された署名(まだ有効無効の色がついていない)についての数字が出てきました。

合計署名数 :465,602筆
合計署名簿数:65,190冊
<内数>
 受任欄空欄署名 :114,805筆(全体の24.66%)
 受任欄空欄署名簿:20,768冊(全体の31.86%)
 (逆算)
 受任欄記載署名 :350,797筆(全体の75.34%)
 受任欄記載署名簿:44,422冊(全体の68.14%)

まだここまででは、有効無効や遵法不法の色はついていません。が、約30%ってなんか聞き覚えのある数字な気がします。
(一部の議員さんのブログ発信等)

引用続けます

キ 市選挙管理委員会は,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載のない署名簿に記載された署名について,全数調査を実施する必要があると判断して,10月21日に開催された市選挙管理委員会及び各区選挙管理委員会の合同会議において,審査期間を1か月程度延長し,委任状の受任者欄に受任者の氏名及び住所の記載のない署名簿の署名者全員に対し,調査票を送付して,署名を求められた状況の調査を行う方針を確認した(乙6,弁論の全趣旨)。

蛇足ですが、審査期間1か月延長に対し、請求代表者側は審査期間延長は不法として仮執行の訴えをしましたが棄却されてます。

また、署名を「求められた状況」としているところに注目。
前の記事でも書きましたが、署名は「有効」「無効」ですが、署名の収集活動が「適法・遵法」「不正・不法」ですからね。(一緒にする人おおいなぁ)

委任状の受任者欄空欄の「署名者」全員に調査票送付での調査を行ったようです。なお、審査過程でくと、「尋問」ではなく「調査」ですね。
このあたりのプロセスは過去記事参照。

続けて引用します

<中略>
コ 本件調査において,全市で9万9873件の調査票を発送したところ,回答の最終的な返送件数は,7万7080件であり,返送率は約77%であった。そのうち,回答に不備のなかったもの7万1788件の回答の内訳は,次のとおりであった(乙22)。

ここで「?」が。
数字を追っかけます。

 受任欄空欄署名 :114,805筆(全体の24.66%)
 調査票発送件数 :99,873件

単位が「筆」と「件」ですので、単純な比較は正しい行為か判断できません。仮に数字を比較したとき、約10%数字が減っています。
 114,805 - 99,873 =14,932
  14,932 / 114,805 =0.1301
お役所であり、解散請求という重要な取り扱い事案でしょうから、間引いた、サンプル抽出した、とは考えにくいかと。そうすると、差の要因として想像されるのは以下ぐらいかなぁ。
 ・世帯ないし住所毎の送付によるもの
 ・署名、住所不鮮明で判別できないものを除いた

さてさらに引用続けます

① 質問①
「1 署名しました(質問②へ)」 7万0866件
「2 署名していません(質問終わり)」 922件
② 質問②
「1 街頭で対面により求められた(質問③へ)」 5万0461件
「2 自宅,職場等で対面により求められた(質問③へ)」 1万8911件
「3 回覧板など対面でない方法で求められた(質問終わり)」 862件
「4 郵便等で署名簿が送られてきたので署名して返した(質問終わり)」632件
③ 質問③
「1 請求代表者」 9345件
「2 受任者」 2万1942件
「3 請求代表者か受任者かわからない」 3万5886件
「4 請求代表者でも受任者でもない方」 2199件

続けます。

サ 各区選挙管理委員会は,11月24日,請求代表者らから提出された署名簿の署名の効力を決定し,その旨を証明した。全市において有効と決定された署名数は,35万3791筆,無効と決定された署名数は11万1811筆であった。
<中略>
これらの署名の効力の決定において,各区選挙管理委員会は,本件調査の調査票の質問③で「2 受任者」又は「4 請求代表者でも受任者でもない方」と回答のあった署名については,当該署名のみを無効とし,その署名が記載されていた署名簿の全部の署名を無効とすることはしなかった(弁論の全趣旨)。

調査票で、「2.受任者」「4.請求代表者でも受任者でもない方」は無効とした。あとは署名してない、回覧版だ、等も無効にしたと推察。
11/24時点の判定では
 有効署名数:353,791筆
 無効署名数:111,811筆
??なんか数字が判らなくなってきたので、グラフにしてみましょう
なお、調査の「件」を、間違ってるかもですが「筆」に置き換えます。

名古屋市議会解職請求

調査により「無効」と確定されたものだけでは、11/24判定の数に足りませんので、以下も便宜上無効としています。
 ・発送せず分(無効2内数)
 ・回答無分(無効2内数)
 ・それでも足りない無効数(無効1)

課題感のある「無効」署名活動

裁判では、受任者空欄の署名簿の有効性についても争っていますが、その視点は裁判所に退けられています(詳細は判例読んでね)。
そこではなく、名古屋市選管の調査にもとづく署名の種類、ついては推定される署名活動について、課題感のあるものをピックしてみます。

1.書いてないのに書かれていた署名(922筆/全署名の0.20%)
2.郵送、回覧版等、対面によらない署名(1,494筆/全署名の0.32%)
3.受任者委任状無しに受任者が収集した署名(21,942筆/全署名の4.71%)
4.だれの収集か不明な署名(35,886筆/全署名の7.70%)

個別事案 1.書いてないのにあるじゃない(今回は無効)

922筆/0.20%の存在です。愛知県知事リコール活動では、首長さんや自民党県連議員の一部等が明らかになってますね(真実はどうかわかりませんが)。

これは、多少恣意的な部分もありますが以下が可能性として挙げられます。
 ①第三者が本人の了解を得ずに記載した
 ②家族、知人等が、本人の了解を得ずに記載した
 ③本人記載したものの忘れていた
 ④本人記載したものの、回答では「書いてない」とした
 ⑤その他…なにかあるかな?

ちなみに②は過去の判例などからも、実際にそういう事象はあったようです。③も人間ですからあるでしょう。問題は①と④の場合。
さて、今回の愛知県の首長議員さんのはどのケースでしょうかね?

個別事案 2.対面による署名じゃないよ(今回は無効)

これは、地方自治法に定められた署名収集の手法から外れた方法です。こちらも発生原因としては以下が可能性として挙げられます。
 ①署名収集者の知識不足でやってしまった
 ②ダメなことわかっていてやっていた
 ③その他...なにかあるかな?

これまた①も十分あり得る話です。一時、名古屋市議会解散請求では、この「回覧板で回ってきたとの情報がある!」と騒がれていました。
ロジックとしては、これまた主観が入ってしまいますが、以下のような論調だったかと。カッコ内は読んじゃだめです(笑)
 ・回覧板で回ってきたとの話が(一部で)ある
 ⇒実際に選管調査でそのような事実が(一部で)判明している
 ⇒だから、署名活動そのものが(すべて)怪しい!

確かに、調査対象外となっている受任者欄に受任者署名有の約350千件のなかに、回覧板等の対面によらない収集をしたのがどれだけあるかわかりませんが…
実際の数に基づくグラフを見て、皆さんは上記ロジックによる署名活動不正論をどう感じるでしょうかね?

個別事案 3.受任者が委任状無しに集めたよ(今回は無効)

これもまた、地方自治法に定められた署名収集手法から外れた方法です。ただ、署名収集者側は当然危険予知すべき事項ですが、署名をする側からすると、ここまでの知識を有する人も限られるのでは?
少なくとも私は、今回の一連の騒動で調べるまで知りませんでした。

また、今回は受任者用、請求代表者用の署名簿を兼用としたことが、今回混乱を招いたとも解釈できます。実際に原告側はその書式違いも争点にしています。結局は裁判所判断では、兼用可とされていますが。

それらふまえ、こちらも発生可能性として挙げさせていただきます。
 ①受任者の知識不足
 ②署名者の勘違い1(実際、その場に請求代表者が居たものの、受任者も居て勘違いした)
 ③署名者の勘違い2(そもそも、請求代表者と受任者の違いを判らず回答した)
 ④ダメなことわかっててやっていた
 ⑤その他。。。

①~③は十分あり得る話。ここは、署名収集たる受任者への教育、周知が必須となると思います。

個別事案 4.集めていた人知らないなぁ(今回は有効)

これもまた、地方自治法に定められた署名収集手法から外れた方法です。ただ、署名収集者側は当然危険予知すべき事項ですが、署名をする側からすると、ここまでの知識を有する人も限られますし、そもそも覚えていないというケースもあり得ます。
同じように理由を考察すると

 ①署名収集者の知識不足
 ②署名者の忘れ(覚えてないがね)
 ③ダメなことわかっててやっていた
 ④その他。。。

なんかこれは、②が大半な気がします。実際の所はわかりませんが。

その後

実はこの11/24時点の有効数では法定数に達せず、報道でも不成立か、との一報が流れています。が、その後の縦覧&異議申し立てで大どんでん返しの有効数達成&解散請求成立となってます。
そこの部分については、今回は触れません。ご興味あればみなさまお調べください。

最後に

今回は名古屋市議会解散請求の状況について記載してみました。
これを書こうと思ったきっかけは、「愛知県知事リコール活動での不正行為は、名古屋市議会解散請求の成功体験に基づく手法だ!」とか「名古屋市議会解散請求の時も、不正署名が30%あった!」等の文面を見かけまして、そうなのかなーと調べたのがきっかけ。

まあ人間は、記憶違い、書き間違いや、自分の願望に沿った記憶の変化なども十分起こりえます。勉強不足による表現違いもあるかもしれません。

ただ、ある種の情報操作を狙っての意図した部分切り取り、マスキングなどの行為は正直好きになれません
本記事が、各種情報に基づき皆様の自分で調べ、考えるきっかけになれば幸いです。

(参考 とある議員さんのブログ)

<魚拓版>

同様の手口は、河村市長が主導し10年前に行われた「名古屋市議会リコール」の際にもおこなわれ、署名活動をおこなった方々によると、30%程度は複数の方々による同一筆跡、いわゆる「偽造」だったという。しかし、当時、名古屋市選挙管理委員会によってこれら署名は「有効」とされ、「名古屋市議会リコール」が成立したという苦い過去がある。

「署名活動をおこなった方々」で本件を横井市議にお伝えしたのはどなたでしょうかね?
また、30%は、裁判資料を見ると、有効カウント内にも存在する「偽造」を含めた数字と推察します。計算あわんし。

<魚拓版>


名古屋市議会解散請求時点の記事です。

「あなたの署名が無効になっています!」と書かれた封書が郵送されてきたとお電話をいただいた。
「署名なんかしていないのに、なぜ?」
<中略>
この方には、選挙管理委員会から調査票が送られていない。したがって署名について調査のあった11万4,000人の中には入っていない方であり、残りの35万人の署名の中の1人であろうと推測できる。つまり35万人の中にも替え玉署名があったことが証明された。
以前にも、調査票が送られてきた方から、「署名をしていないのに!」という苦情を何件かいただいているが、リコール請求権を不当に行使するなど許されない行為。大変残念だ。

当時も、選管が有効した中に「替え玉署名」があったとおっしゃってます。
(ちなみに、この議員さんは被解散請求の当時者で議長さんでもありました。けど、その後本件に対して告訴告発等なにか動かれていたかは不明。議会質問等で政争っぽいのには活用されていました、というのは私の議事録の理解力不足かもしれませんが・・・)

今回はこれぐらいで

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