愛知県知事リコール活動 署名調査の法的根拠(一考察)

はじめに(経緯とお約束)

愛知県知事リコール活動、署名の疑義問題が出てきて、愛知県選挙管理委員会が調査の方針を打ち立てました。
本件に際し、真っ先に思ったのが、この調査の法的根拠
そこで今回は、愛知県選挙管理委員会が調査を行う事ができる理由、法的解釈について、自分なりに知らべ、考察した事項を記載していきます。

毎度のことですが、法律の素人が素人なりに調べた事項です。正確性を問うならば法曹関係者に相談してくださいね。

愛知県選挙管理委員会の事務資料

以下のnote記事で登場させた以下の資料があります。

書類名:愛知県知事解職に関する直接請求事務資料
令和2年8月 愛知県選挙管理委員会

以下「事務資料」と略します。まずは事務資料の記載内容から見ていきましょう。なお、以前の記事は以下です。

署名簿の提出及び受理@事務資料

P7からの記載になります

第3 署名簿の提出及び受理
1.署名簿の提出
 請求代用者は、署名収集が終了したときは、署名収集期間終了の日の翌日から起算して10日以内に署名簿を市町村選管に提出し、署名簿に署名し、印を押した者が選挙人名簿に登録されている者であることの証明を求めなければならない(法81②で準用する法74の2①、令116で読替準用する令94①)

元の法令はここでは引用しません(ほとんど記載内容と変わらない)。さて、この文面の次に記載してある内容がポイントです。

〇法廷署名数に足りない署名簿は提出できない(昭24.8.10実例)

私は、当初この記載を見て、「有効数に達していない署名簿を、選管が審査するのはいかがなものか?」と考えました。
しかし、記載の「昭24.8.10実例」が判らなくて、判断を保留していました。
今回の記事上程は、当該「実例」を確認したことによります。

昭和24.8.10実例とは

今回は以下文献を参考にしています。

地方自治関連実例判例集 普及版 第15次改訂版
地方自治制度研究会 編集

なお、国語辞典というか、広辞苑というか、非常に分厚くペラペラの紙の本でしたが、かなり読みごたえがありました。興味のない分野だと、ぐっすり眠れそうですが(苦笑)。

さて本論。等が記載はP241 第七十四条の二の部分にあります。

〇「署名し印をおした者」及び署名簿の提出
(昭和二四、八、一〇、全選発第三八一号 茨城県選挙管理委員長宛、全選事務局長回答)
 令第九四条の規定により選挙管理委員会に提出すべき署名簿について
 同条にいう「署名し印をおした者」のうちには、代表者において選挙権を有しないものであること又は代筆であることを知らなかった者等選挙管理委員会において証明の際無効とされるべきものを含むと解するがどうか。
 署名し印をおした者の数が法定数以上の数とならなければ署名簿は提出できないと解するがどうか
 提出できないとすれば、若し法定数に足りない署名簿が提出された場合に、選挙管理委員会はそれを理由としてこれを還付すべきであると思うがどうか。

 お見込みのとおり

問いに対して答えがあっさりしすぎ感ありますが、こんなものばかりでした(笑)。さておき、以上文面を読み返すと、以下の事とも考えられます。

・有効数に達しなければ、提出できない
・それでも提出されれば、数が足りない事を理由に還付する。

今回、途中選挙があったため、「仮提出」という形がとられています。仮提出が上記記載の「提出」に該当するかは解釈が難しいところではあります。仮に同一とすれば、現在署名簿は選管に「提出」された状態であり、いずれ「数が足りない」を理由に「還付」は必要ですが、それまで内容を業務として見る・確認することを「妨げる」法令・文言は見つけられませんでした。(ご存じの方いれば教えてください)

ゆえに、通常では数のみ確認したうえで「還付」となるものですが、あえて「確認」するという事はしてもよいと判断したと推測されます。

個人的には、選管の確認行為は賛成します。が、発表の仕方や確認方法(署名者の聞き取り確認はしない、等)はもう少し練る必要があるかと。事前にどういう調査をし、どういう発表をすると決めて発表しておいたほうが、今回は通常の署名審査ほど厳格な運用をしないのであれば尚更、後から「恣意的な調査だ」と言われかねませんよ…。

昭和三九、六、二 実例

ちょっと違った視点の実例です。P232から。

〇署名数が明確に法定数を欠く場合の事務手続
(昭和三九、六、ニ、自治選発一七号 東京都選挙管理委員長宛 選挙局長回答)
問一 署名収集委任状に請求代表者の印がなく、この種の署名収集委任状がつづりこまれた署名簿が、提出された署名簿中、大半をしめ、これら署名簿を地方自治法第七四条の三第一項第一号に該当するものとして無効とした場合、他の残りの署名簿の署名数では法廷署名数に達しないことが明らかであるとき、次のいずれによるべきか。
 委任状に請求代表者の印がない署名簿(以下「無効署名簿」という。)は、法定要件を欠いているから個々の署名の効力を審査するまでもなく直ちに却下し、他の残りの署名簿(以下「有効署名簿」という。)については署名簿が法廷署名数に達しないことを理由として、同様却下する。
 無効署名簿は直ちに却下し、有効署名簿の署名についてのみ個々の署名審査を行ない、有効無効の証明をなして関係人の縦覧に供する。
 無効署名簿及び有効署名簿のいずれも却下することなくそれぞれの有効無効の証明をし、関係人の縦覧に供する。
二および三 (以下中略。イないしロの場合の事務手続きについての質問)

答一 ハお見込みのとおり。
二及び三 一により承知されたい。

この実例は、たとえ「形式的要件」等でダメとわかるものでも、数がそろっていれば全部「有効」「無効」の審査をしなさい、という事になります。

昭和二四、八、一〇、全選発第三八一号の件があるので、有効数にそもそも達しなければ、上記昭和三九、六、ニ、自治選発一七号のステージには立てないとも解釈できます。が、受取り、数があったら、変なものでも審査しなさいという事は理解できました。

結局のところどうなのか

長くなり、もやっと感が増した方もいるかもしれません。以下は私の解釈です。

・仮提出であっても、一旦は署名簿は「提出」されている
・有効数に満たないことを理由として、請求代表者への還付が必要
・有効数に満たないため、有効の証明のための審査は行わない
・しかし、還付するまでの間、事務手続きの一環としての確認等は可能
・ただし、当該確認結果は、有効の証明の為の審査ではないので、縦覧に付すなどの地方自治法規定の審査手続きの対象外

この対応の課題

さて、愛知県選管は、一連の確認で、署名者に対する聞き取り調査等は行わないとしています。これも上記の「有効の証明の為の審査」ではない事から、手続き上は問題ありません。
しかし、以前上程の審査方法を見ても、すべてがすんなり「有効」「無効」とならず、「要調査」署名も出てくるはず。(過去記事参照)

これについて、選管はどのような発表をするかは明らかにしていません
ここの発表の仕方、あるいはそれを見ての報道の仕方には、注目していきたいと思います。

今回はこれぐらいで。


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