愛知県選挙管理委員会資料に見る、直接請求における署名有効無効判定

はじめに

2020/12/21の報道で、愛知県知事解職請求に係る署名について、愛知県選挙管理委員会(以下選管)にて署名の確認を行うとありました。そこで、仮に本提出された際に行われるはずだった、署名の有効・無効判定について、選管資料に基づき、どのような判定をしていくのかを読み解き、記載してみたいと思います。

なお、手元にある資料は以下。この資料そのものが偽造・捏造だったらごめんなさい。気になる方は、直接ご自身で資料を入手ください。
また、ハードコピー資料で電子データは入手できておらず、手打ちで書き写しなので、誤字脱字があるかも。その点ご容赦ください。

書類名:愛知県知事解職に関する直接請求事務資料
令和2年8月 愛知県選挙管理委員会

資料冒頭記載

この事務資料は、愛知県知事の解職に関する直接請求について、主として市区町村の選挙管理委員会に処理していただく事務の概要を記したものです。この資料のほか、判例集や参考書等を参考にされ、適切な事務処理をお願いします

ようは、概要書くけど個々には自分達で調べてね、考えてね、という事。それだけ想定外の事象や微妙な事象があるってことと推察しています。

署名の審査 形式的と実質的

今回のテーマは、有効・無効の審査に関する部分なので、頭をすっ飛ばして審査の所にいきます。
ちなみに今回飛ばした部分は、請求要件、署名収集、提出及び受理になります。

第4.署名の審査 部分を引用していきます
1.署名の証明:法令引用(地方自治法74条の2①)
2.審査期間:法令引用(地方自治法74条の2①)
これらは飛ばして
3.審査の内容から

市区町村選管における署名簿の審査は、署名簿自体の審査(形式的審査)と個々の署名が選挙権を有する者の自著によるものであるかどうかの審査(実質的審査)に分けて実施し、効力判定を行う。

つまり、様式や請求代表者証明書の添付、委任状有無などの形式的審査、本当に本人が書いたか?の実質的審査の2つがあるという事ですね。

ちなみに、私の調べでですが、形式的審査に係る事項で、以前の名古屋市議会解散請求の際に争われた判例がありました。要約すると以下の2つがポイントと私は解釈してます。
①請求要旨、請求代表者証、委任状と署名簿は、両面印刷でOKである
委任欄が空欄もので、請求代表者が署名収集してもOKである
詳しくは高裁判例読んでください。
河村名古屋市長が「ノウハウがある」と発言されていたのはこれじゃないかなぁとおもいました。
実際、横浜市長リコール活動では、請求要旨や委任状、署名簿等々がホチキス止めされてます。これを開いてしまうと、それだけで「請求要旨を示さずに署名を集めたのではないか?」とされ無効にされる恐れがある。両面印刷なら、そのリスクが減りますね。

形式的審査の内容

順番に行きます

ア 署名簿の提出:法定期間内に提出されたものか?
これは、仮提出も含め期間内に提出されたものであること。期間外提出は審査せず却下です。(ここでいう却下も重要な用語なので注意。受け取らないという事です。)

イ 署名簿の審査:正規の形式的要件を備えたものか?
ここでの審査事項は以下の5項がポイントです。
 ①受任者が選挙人名簿に登録された人か?
 ②請求書があるか?
 ③証明書があるか?
 ④委任状があるか?
 ⑤その他(ってなんだよ?)

ここで判定基準の記載事項の中に、これまた直接請求のノウハウ的なポイントを発見!(直接請求のベテランには常識?)
「委任状に記載されている委任年月日が代表者証明書交付前であっても、当該委任年月日が代表者証明書交付申請の受理後であれば、当該委任状を添付して当該受任者が収集した署名は有効である(昭33.1.29 実例)。
つまり、請求代表者の申請をしてから証明書が発行されるまでの間に、委任状をバンバン作ってよい、という事ですね。署名期間が限られますから、スタートダッシュとしては必要なテクニックかも。

ウ 署名の有効 無効判定:形式的判定で一旦有効、無効を判定。
有効なものは実質的審査のステージへ、無効なものは実質的審査をせずに無効として取り扱い。効力判定に必要な時は、実地調査及び証人尋問を行う。
(実地調査と証人尋問については後述)

まぁ、書類不備有無が一次試験。合格者は実質的審査という二次試験に。不合格者はそこで終わり。微妙なものは調査継続、ってことですね。

実質的調査の内容 まずは記載事項

ここから、個々の署名の有効・無効判定になります。署名簿から署名になっていることに留意です。

判定においては、署名を「署名審査カード(様式第5号)」(以下カード)というものに書き写して判定するそうです。このカードの①~⑤の項目を書き写すとあります。その項目を見てみましょう。

①署名簿番号
②署名番号
③住所
④生年月日
⑤氏名

ここでの注意事項で特に気になるものを抜粋します

(ア)転記の際は、誤字脱字等があってもそのまま転記し、判読できない署名については、その旨を付記して転記すること。
(イ~ウ 省略)
(エ)③~⑤までの欄におおて、「゛」、「同」等と書いて前の記載と同じである旨を表示しているものは、「゛」、「同」等と転記しないで、前に記載してある住所、氏名等を転記すること。
(オ)転記の際に明らかにその署名が無効であるようなもの(ゴム印等による署名、印のない署名)については、カードの⑨及び⑫欄の該当箇所に〇印を付し、選挙人名簿との照合は必要がないこと。

ここでカードの⑨と⑫の項目は

⑨審査の結果:有効・無効・再調査
⑫無効となる事由:
 1 選挙人名簿に登録されていない
 2 重複署名(該当整理番号   )
 3 必要記載事項の記載を書く
 4 氏名が自著でない(活字・ゴム印等)
 5 印がない
 6 何人であるか確認できない
 7 その他(    )

つまり、前述の(オ)で示している事由は、⑫でいうと4ないし5に〇をつけることになりますね。

そして作成したカードを、全部整理番号を付けて、選挙人名簿照合しやすいように投票区毎に整理して、カード③住所またはカード⑤氏名の順に整理するようです。
そこまできて、いよいよ選挙人名簿とカードの称号になります。

実質的調査の内容 選挙人名簿との照合

まずは名前の確認です。

カードを選挙人名簿と照合し、見つけたらカード⑥項:選挙人名簿登録の「あり」に〇つけ、選挙人名簿に「照合」印を押す。
名簿に記載ないものはカード⑥項「なし」に〇つけ、⑨項「無効」に〇付け、⑫項「1 選挙人名簿に登録されていない」に〇つけ
すでに選挙人名簿に「照合」があった場合、カード⑥項「重複」に〇付け。

つぎに、③~⑤、すなわち住所、生年月日、氏名記載の確認です。

カード③から⑤までの欄の記載事項と選挙人名簿の記載とが一部は符合し、一部が符合しない時(明らかに誤記と認められる程度のものを除く。)は、選挙人名簿に「レ」印を付し、カード⑦の欄に選挙人名簿に記載されている事項を転記すること。(※⑥の欄にはなにも記載しない)

ここでカード⑥とは、「選挙人名簿にあり・なし・重複」でした。すなわち、記載事項が微妙な場合その時点では「名簿にない」とは判定しないという事ですね。
カード⑦項は「選挙人名簿の記載と異なる場合には選挙人名簿の住所等」とあります。選挙人名簿側を転記するということですね。

ここまでで、署名としての記載事項についての確認が終わりました。

ついでに、大変だなーと思うのが以下記述

選挙人名簿と照合の結果、選挙人名簿にそのものの氏名が発見できない場合でも、ほかの投票区の選挙人名簿に登録されていることもあるので、住民基本台帳を調べ、前住所地の調査を擦る等緻密な照合が必要である。

選管の方、お疲れ様です。。。電子化とかできないかなぁ。。。余談でした。

実質的調査の内容 署名簿による署名の審査

ようやくここから、多くの人が興味をもつ「署名簿記載についての審査」です。ここでも判定の難しさを表していると思うのが以下記述。

署名の有効、無効事由を14頁以下の【判定基準】(実質的審査)を参考にして十分理解した後、署名簿とカードとにより個々の署名の有効、無効を審査する。

重ね重ね、選管の方お疲れ様です。。。

以下、審査の判定事由や事例がありますが、先にカードに記載する内容を出しておきます。⑫項と⑬項。⑫項は前に出していますが、比較のためにもう一度記載します。

⑫無効となる事由:
 1 選挙人名簿に登録されていない
 2 重複署名(該当整理番号   )
 3 必要記載事項の記載を書く
 4 氏名が自著でない(活字・ゴム印等)
 5 印がない
 6 何人であるか確認できない
 7 その他(    )

⑬再調査を要する事由:
 1 氏名が自著でないと思われる。
 2 第三者が収集したと思われる
 3 記載事項が不明であったり、誤りであると思われる
 4 印影が不鮮明であったり、他人の印であると思われる
 5 その他(   )

勘のいい人は気づきましたでしょうか?

他人が記載したと思われる署名は、即「無効」ではなく「再調査」になるのですね。

実質的調査の内容 再調査の方法

記述を抜粋

(前略)次に再調査の方法をどれにするかを考えて⑩の欄の該当事項を〇印で囲むこと

⑩の欄を見てみると、

⑩再調査の方法 ・実地調査
        ・証人尋問(本人・本人以外(  ))

次に、「実地調査」「証人尋問」について、ざくっと書きます。

実地調査とは、本人等に「あなたの署名?」「お名前書いてみて」とお願いすることのようです。
 ・証人尋問の手続きと違い、法律に根拠がない
 ・本人に協力義務がなく、強制できない
 ・簡単にできる

証人尋問は、裁判の証人みたいなものでしょうかね?
 ・関係人に出頭要請をして、証言してもらう
 ・宣誓書に署名、押印、宣誓してもらう
 ・正当な理由なく証言を拒絶したときは、6か月以下の禁錮または10万円以下の罰金に処せられる(地方自治法100条③)

結構かちっとしてるなーとの印象です。

一部報道に見る課題感

上記より、有効無効の判定は、
 ・形式的調査⇒実質的調査の順番に行う
 ・実質的調査は、氏名・押印等がそろっているかから調べる
 ・次に、選挙人名簿の記載事項との相違を調べる
 ・本人が記載したか不明確なものは、調査して判定する

東海テレビ報道
「調査では、同一の筆跡など明らかに有効と認められない署名の件数を確認し、署名簿に書かれた人などへの聞き取りは行わないとしています。」
では、
 明らかになる事:存在しない人の名前が書かれたか否か
 結局判らない事:あやしい署名が結局どうだったか
な気がするのは私だけでしょうか?

補足事項

・結局、今後の制度見直しや正しい直接請求をするためには、署名収集活動における「違法」行為があったかどうか、だと思います。
今回選管は、上記の再調査を実施するのでしょうか?
(あるいは警察・検察が行う?)
・再調査における判定事例については別途まとめてみたいと思います。
仮提出の状況下での名簿の選管審査についての、法との対比もどこかでまとめてみたいと思います。

今回はこのくらいで。

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