The mask of sanity (正気の仮面):サイコパス研究の原典を翻訳。①

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ハーヴェイ・クレックリー著「正気の仮面」は、サイコパスの概念をはじめて世界に知らしめた本である。本書に登場するサイコパスは全員が”本物”だ。

現在、サイコパスの研究者達はPCL-Rといった”チェックリスト”を用いてサイコパスを判定している。本書のケーススタディを通して、サイコパスという概念がどのように構造化されてきたのかを知ることができるだろう。

結論として、クレックリーが提案する「サイコパスの特徴」は以下のようになっている。

1. 表面的な魅力・高い知能
2. 妄想・非合理的思考の欠如
3. ”神経質さ”の欠如
4. 信頼できない
5. 不誠実
6. 後悔・恥の欠如
7. 不適切に動機づけられた反社会的行動
8. 判断力の欠如・経験から学習できない
9. 病的な自己中心性・愛する能力の欠如
10. 広範な感情的反応の欠如
11. 特定の洞察力の欠如
12. 対人関係における無責任さ
13. 飲酒時、ときには非飲酒時の空想的で奇異な行動
14. 自殺を試みることは滅多にない
15. 非人格的、軽率、統制に欠けた性行為
16. 人生の計画性の欠如

今回は、それぞれの項目について順に詳しくみていくことにする。


1. 表面的な魅力・高い知能

一般に、サイコパスの第一印象はポジティブである。友好的で話しやすく、様々なことに純粋な興味をもっている活発な人物に見える。一見、彼に対して奇妙に感じるようなことはまったくない。あらゆる点において、彼は「適応的で幸福な人間」を体現している。何かを隠していたり、自分を偽ってあなたを操ろうとしているようにも見えない。怪しい徴候はなく、彼は”本物”のように見える。
そしてかなり多くの場合、彼には優れた良識と健全な推論能力が備わっていることにも気づくだろう。あなたは、彼が普通で愉快な人であるばかりか、優秀な人だとさえ感じる。実際、心理測定テストでも非常に優れた知性を示すことが多い。彼は普通の人よりも社会的・感情的な障害とは無縁であり、些細な違和感や特異性、不器用さすら感じさせない。このような表面的な特徴はサイコパスに普遍的ではないが、非常に一般的なものである。
典型的なサイコパスは、統合失調症の患者とは対照的である。たとえ統合失調症の人に妄想やその他の精神病の徴候がないときでさえ、彼は他人から見て分かるような明らかな特異性を示す。それは通常、緊張や引きこもり、態度や反応の奇妙さである。これらは隠れた才能、すなわち天才であるが故の奇抜さのように見えるかもしれないが、彼らは心地よい社会的関係を複雑で冷めたものにしてしまいやすい。サイコパスの感情的逸脱・欠如は統合失調症患者の内的状態と同等かもしれないが、上記のように外見的に明らかな異質性を示すことはない。サイコパスが他者に示すのは、彼の優れた人間的資質、堅牢な精神的健康さであろう。

2. 妄想・非合理的思考の欠如

サイコパスには精神病の兆候や症状はみられない。彼は幻聴を聴かない。病的な妄想を示すこともない。鬱や躁でもない。外界を正しく認識しており、少なくとも表面的には社会的価値や一般的な価値基準を受け容れている。論理的推論能力が高く、行為の結果を予測したり、称賛に値するような人生の計画について語ったり、過去の間違いを批判したりすることができる。もし彼が精神科医のもとを訪ねたとしたら、その結果は「異状なし」であろう。
サイコパスは合理的である。彼の思考は妄想的ではなく、普通の人のように感情的な反応をしているようにさえ見える。彼の語る野望は、健康的な向上心に動機づけられているようだ。懐疑的な人さえ、彼にはしっかりとした信念があるように思えるだろう。彼は他人の興味に対して十分に関心を示しており、妻や子供、両親について話すときには、彼は健全な献身と忠誠心のある暖かい人間的な人物であると判断されるだろう。

3. "神経質さ”の欠如

サイコパスには、神経質な人がもつような特徴がみられない。彼には過度な不安や緊張がみられないどころか、それらを強く喚起するような過酷な状況に対しても強い免疫があるようである。彼はしばしば、並外れた落ち着きをみせる。普通の人にとって恥や混乱、深刻な不安や動揺を引き起こすような状況下でさえ冷静さを保っている。とはいえ、刑務所や精神病院に高速されたときには彼は落ち着きがなくなるかもしれない。しかし、彼が示すこの種の不安や緊張は、罪悪感や後悔などからではなく、彼が拘束されることの必要性や正当性を自身に納得させることができないことに起因している。

4. 信頼できない

サイコパスは完全に信頼できるという印象を初期に与えるのだが、多くの場合、彼は一切の責任感を備えていないということにすぐ気づくだろう。彼は自身のミスや不忠に向き合わず、それについて説明を求めたところで態度を改める様子は殆どない。そのような不祥事が頻繁に発生するので、周囲の人は彼の言動に驚き呆れ、信頼の置けない人物だと感じるだろう。
サイコパスにとって、ある特定の期間”だけ”は規則的に出勤し、経済的義務を果たし、盗みの機会を無視すること、また、一週間か数か月あるいは一年以上はビジネスや研究で優れた能力を発揮し、それによって「潜在的な安全」を担保し、奨学金やトップセールス、社会集団におけるリーダーの座を獲得するといったことは珍しくない。彼は必ずしも毎日(または毎月)刑務所に送られるわけではないのだ。もしそうなら、サイコパスに対処することは簡単だったであろう。これらの一過的な(しかし説得力のある)成功を裏付ける客観的事実により、彼らの本当の素性は隠蔽され、事情をより複雑にしている。さらに、彼らの無責任な行為がいつ、どのようにして起こるのかは予測することができない。彼がビジネスのトップに君臨している時、裏では何をしているだろうか。家で小さな小切手を偽装しているかもしれないし、些細な泥棒にふけっているかもしれない。あるいは単にオフィスに来ないだけかもしれない。あるいは彼は一定の期間、家族と優雅で幸せな暮らしを送り、その後は妻と口論し、彼女を少しのあいだ椅子に縛り付け、ついには彼女を家から追い出し、それから3歳の息子の顔にアイスティーを投げる。こうした突発的な行動に大きな怒りは必要なく、たいていは中程度の不快感で十分である。
サイコパスの無責任な行動は、些細な出来事と重大な出来事の両方に現れ、一見して適応的な行動によって隠蔽され、世間一般の動機からは説明することができない。彼の失敗や不忠がこれからも続くと自信をもって予測できるものの、その時間や深刻さを予想したり対策することはできない。これはもはや、「一貫性のある一貫性のなさ」ではなく「一貫性のない一貫性のなさ」である。

5. 不誠実

サイコパスは事実に無関心であり、彼が語る過去は、彼の現在の意図や将来の約束と同じくらい信頼できない。
通常、彼はそれがあたかも当然のことのように、重要な約束を取り付けたり、その約束を破ったときには批判から免れるための合理化を行う。彼の単純明快な言い分には特別な説得力がある。過剰な強調、明らかな軽快さ、巧妙な嘘といった特徴は、普通、彼の言葉や態度からは察することができない。彼が欺瞞を働いているという確実な証拠が手元にあったとしても、彼は明らかに動揺したりすることはなく、平然としている。嘘を述べているときでさえ、彼は相手の目を見て話すといったことに対して何の気後れも感じていない。

6. 良心や恥の欠如

サイコパスは、他者に不幸を引き起こしたとしても責任を受け容れることができず、通常、全ての責任を強く否定し、他人に責任があると直接非難するが、多くの場合、そのトラブルは彼自身のせいである。
彼の問題について、彼の行動や態度、精神医学的検査で引き出された資料に基づいて指摘したとしても、彼はほとんど恥じることがない。

7. 不適切に動機づけられた反社会的行動

サイコパスは信頼に欠けるのみならず、不正や怠慢、欺瞞にも関与する。彼は驚くほど小さな利益のために、普通の悪党よりもはるかに大きなリスクを負って盗難や偽造、姦通、詐欺、その他の反社会的行為を犯す。事実、彼の人生に明白な目標が欠けているときには、彼はそのような行為に従事する。
サイコパスにみられるこれらの行動は、衝動的神経症として知られる障害のそれと類似している。彼の反社会的で自滅的な行為は(放火癖や窃盗癖の患者のように)制御されておらず、それらの行為について後悔を示すことがない。客観的刺激(窃盗の対象の価値や特定の意識的必要性)は、強迫的・衝動的な窃盗のように、サイコパスの行為を説明するには不十分である。

8. 判断力の欠如・経験から学習できない

サイコパスは優れた理性をもっており、自身の目的を達成するためには最も実行可能な判断を示し続ける。それにも関わらず、彼はお金を稼ぐ、妻と和解する、病院を退院するといった、他の目的を達成するための素晴らしい機会を放棄する。彼は経済的な成功についてほとんど関心がなく、妻を取り戻したいと思っているわけでもなさそうだが、他の患者と共に何か月も閉じ込められている精神病院から抜け出すことに対しては積極的である。

私の考えでは、どんな罰もサイコパスの行動を変えることはできないだろう。当然、罰は医療の適切な手段とはみなされない。ただし、多くの場合、罰は法務当局によって検討・管理されている。そして現在、法律はサイコパスを医者よりも頻繁に扱っていることを覚えておく必要がある。

行動について示された非常に貧弱な判断力にもかかわらず、サイコパスは実際の生活において理論的状況を評価する際には正常な(時には優れた)判断を示す。彼は、他人についてだけでなく、自身が何をするか、何をするべきかについても、尋ねられた限りでは賢明な判断を下すことができる。しかし実際の行動をテストしたとき、私達はすぐに彼の不十分な点についての証拠を見つけるでしょう。

(つづく)

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