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トレーナー1歩目

パーソナルトレーナーとしての初のお仕事は、受付のスタッフさん曰く「女性についてもらいたいそうです」とのことだった。

実際にお会いしてみると私より10歳ほど年上の女性で、初回入会者向けの低金額のサポートとはいえトレーナーがつくというシステムに大変恐縮なさっていて、私なんか本当は全然全くすごくないのに、出会い頭に「わわわわ、なんかすごい方についていただけるんですね」と口に出した。

カウンセリングを勧めていくうち、きっと長年ずっとずっとコンプレックスを抱えていて、何度もダイエットには挑戦してきたけれどいずれも満足の行く結果にはならなかったのだろうと推測できた。
会話の端々で「私なんかが本当に恥ずかしいんですが、」とか、言葉にはしないけれど「自分なんかに大層にトレーナーさんについてもらって申し訳ない」という自信のなさがあらわれていらっしゃった。

体重体型は確かに肥満気味で、正しい知識を用いたダイエットが必要ではある。
今回のセッションでは、主にウエイトマシンの使い方と利かせ方を中心にお伝えし、ひとりできたときにも何をどうしたらいいかわからないことがないようにインプットして頂いた。

ダイエットに本当は有酸素運動は必要ない、むしろすべきでないという話をどれだけ強く伝えるか迷い、最後はやる気の腰を追ってはいけないと判断して「運動量は十分足りていますが、明日お休みとのことですから疲れが残っていなければ少し汗をかいていってもいいと思います」と言った。

でも、帰ってきて考えると、やはり彼女のためを思えばその選択肢は親切であればこそ塞ぐべきだった、と思う。
仕事をしている忙しい女性が、週2、3で有酸素30分だのをダイエットのためにできるわけがないのだ。もうそれは趣味でしかできないし、目的がダイエットならばなおさら選ぶべきじゃないということを私は知っているはずだった。
そもそも、その失敗はもう何度もしてきているということを軽んじてしまった。

帰宅してから、彼女の自信なさげな猫背や(今思えば申告頂いた身長よりもずいぶん小さく感じた)言動、体組成計に乗るときの心から恥ずかしげな様子や、汗をかいても決して上着を脱がない姿、女性トレーナーを所望した理由、それだけのコンプレックスを抱えながら、ひと目を気にしながらもジムに来ようとした決意が思われて、私はなんて無責任なことをしてしまったんだろうと思った。
ここで今までのように挫折の道を進み背中が丸まったままになってしまうか、この先の人生を変われたという成功体験のもと、自身あふれる時間を持っていただけるかのターニング・ポイントだったかもしれないのに。
(そしてそのポイントは過去の私にも明確にあったので、どんな道を選ぶと行き止まりかは手に取るようにわかっている)

相手は年上で人生の先輩であるので、教えるということにおいて遠慮がまだあったけれど、ボディメイクという側面においては、彼女にとって私が先人であり、そのためにトレーナーという仕事を選んだということを肝に銘じる。

セッションはもう一度ある。
パーソナルトレーニングは金額だけを見ればやはり高額であるので、伝えれば伝えるほどダイレクトに営業になってしまうのがジレンマだけれど、お金のことは横において、
その限定的な側面においては私は彼女の師でなければいけない。

人の人生になにかをもたらそう、変化をつけようなんて考えは傲慢で恥知らずだと思っていたけれど、この仕事においてはそのメンタルを捨て、できる限りを尽くして彼女の人生を変える努力をしたいと思う。

そしてそのような覚悟を持って、これから出会う方々と真剣に向き合い積極的に彼ら彼女らの人生に介入していきたいと思う。

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