トップが「フェイク」と言っても、その通りだとは限らない

 メディアの「スクープ」に対し、ネタの対象組織のトップや幹部が「フェイクニュースだ」と否定することが近年ままあります。しかしその言葉は、本当に額面通りに受け取っていいものでしょうか?

 そもそもスクープとは、権力や組織の側が書かれたくないことを暴き立てる行為です。当然、書かれた側は激怒しますし、できればそのスクープを打ち消したいと思うでしょう。企業の合併では、正式発表より先に報道で漏れると機嫌を損ねられ、対応が面倒になるステークホルダーなんかもいるからなおさらです。

 例えば、経済ネタのスクープが出ると、その日のうちに東証の適示開示(https://www.jpx.co.jp/listing/disclosure/)に、「本日の一部報道で弊社が〇〇~とありますが、これは弊社として発表したものではありません」というプレスリリースが出ることがよくあります。

 これ、一見すると報道内容を否定しているようにも思えますが、文面がこれだけで終わっている場合、たいていは書かれたことが事実、もしくは近日発表予定だった内容というパターンです。なおホントに飛ばし記事だった場合は、後段である程度具体的な情報を以て報道内容を否定することがあります。

 企業だけでなく、政治、役所に関するニュースでも似たような現象はあります。スクープ→幹部「ノーコメント」→後々スクープの内容が実現・発表というパターンです。

 私は、エグゼクティブがスクープについて「はいその通りです」とコメントするわけにはいかない、という事情を抱えていることは分かるつもりです。特に外交や防衛に関する情報は「死んでも認めるわけにはいかない」「墓場まで持っていく」事実というものが存在するのでしょう。当事者の保身ではなく、それが真に公益のためなのだと胸を張って主張できるなら、その行為を納得はしませんが理解はできます。

 しかしその場合でも、すっぱ抜いたメディアを「フェイクニュースだ」などと感情的な言葉で罵倒することは避けるべきだと考えます。アメリカのトランプ大統領はなんでもかんでも「フェイク」を連発しますが、もはやその言葉を文字通りに受け止める人は一部の信者以外いないのではないでしょうか。強烈な言葉は濫用すると自分に返ってきます。

 もちろん、ほんとに「飛ばし」「フェイク」である場合もあり得るでしょうが、その場合は冷静に、示せる範囲のファクトを以て打ち消せばいいのであって、感情的な言葉をネットで巻き散らかすのはどうかと思います。

 受け手の側も「偉い人がフェイクと言っているんだからフェイクなんだろう」ではなくて、客観的・総合的に発言を受け止める(行間を読む)リテラシーを身に付けると、ニュースを一段深くウオッチできるでしょう。そんな難しいことではなく、「この人はこう言っている。そうかもしれないが、そうじゃないかもしれない」と引いた眼で記事を読むだけです。

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