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SF的小噺「一話 トランスレーター」

 私の職業は「トランスレーター」。トランスレーターである私の仕事は、遺伝子操作とサイボーグ技術により拡張・強化されたミラーニューロンを使って、相手の感情・意思を読み取り、AIに対してより適切な翻訳内容をアドバイスをすることである。

 前世紀、通訳という仕事があったという。二つまたはそれ以上の言語をマスターし、外国人同士のコミュニケーションをつなぐ大切な仕事だったと聞いている。今では通訳の仕事はリアルタイム翻訳できるAIに置き換えられた。まるで、目の間にいる北アメリカ帝国人が日本語を喋っているかのように見える。もっとも、目の前にいるといってもマトリックス内でのこと。本物の彼は数千キロ離れたいるはずで姿形も異なるのだろうが。

 強化されたミラーニューロンの支援により、私には相手の魂とでも呼ぶべきものが見え、それとコミュニケーションできる。この技術が開発された現在もなぜそのようなものが認識できるのかは未解明である。昔は幽霊や守護霊と呼ばれたものだろう。


 今日は月面と地球上のクライアントのコミュニケーションをトランスレーションした。月面とのコミュニケーションはディレイがあるため、地球上で行うのとはちょっと変わっている。月面の相手の考え方をコピーしたAIが地球側にいる。代理人格である。地球側のメンバーはこの代理人格と対話する。代理人格と本人は裏で非同期にコミュニケーションする。昔もエージェントという仕事があったという。その進化版みたいなものだろう。

 AIの代理人格に私の能力を使っても仕方ないのでは?そう。でも、私の持っている能力は光の速度を超えて月面の相手の感情・意思を知ることができるのだ。代理人格にたいしても月面の本人の感情・意思が正しく伝わっているのかをアドバイスする事ができる。


 マトリックスの本体は地球の低軌道を無数に飛び交うAI衛星コンステレーションだ。様々な反政府組織がAI衛星に大してひっきりなしに攻撃を加えている。衛星が不足してくると、月面もしくは地上のマスドライバーからAI衛星が追加される。衛星は、月および小惑星から集めた資源を、太陽の膨大なエネルギーを利用して宇宙空間もしくは月面でほとんど無限に生産できるようになっている。


つづく


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