構造BIMのこれからのために。ダイレクト連携「+Revit Op.」開発者の思い
国土交通省が新たな取り組みとして、2026年にBIMを活用した確認申請の試行を始めると発表しました。
構造設計分野において緩やかに普及しつつあるBIMは、大きな転換期を迎えるのではないでしょうか。
2018年、私たちは業界に先駆けて「Autodesk Revit®」と一貫構造計算ソフトのダイレクト連携を実現した「BUS-6 +Revit Op.」(「構造モデラー+Revit Op.」の前身)をリリースしました。
ダイレクト連携の構想につながる出来事、開発に込めた思いを、開発部門フェローの安田さん、開発部門マネージャーの田中さんに伺いました。
ダイレクト連携 構想の始まり
ーBIMを意識し始めた時期を教えてください。
安田:日本のBIM元年と呼ばれている2009年です。
それまでは、社内の雰囲気としてBIMの普及に懐疑的でしたが、何か新しいことを始めなければならないと考えました。
ー構造システムは早期からbSJ(building Smart Japan)に参加しています。当時、BUSシリーズで対応済みのIFC、ST-Bridge連携で十分だと思わなかったのですか?
安田:IFC、ST-Bridgeファイルは、BIMと一貫構造計算ソフトのデータ連携のための標準フォーマットとして有効なものです。しかし、違ったやり方が必要じゃないかと考えていました。
そんな中、2015年から構造システムもRUG(Revit User Group)に加わり、RUGメンバーとお話する機会を得ることができました。
「Revit」と一貫構造計算ソフトのデータ連携時にある悩みや困りごとを解決する手段を検討する内に、ダイレクト連携が必要なツールであると確信しました。
ミッシングリンクを解消したい
安田:RUGメンバーのお話を聞いていると、データ連携の主流となっているST-Bridgeファイルは、構造設計者にとっての理想形とは少し異なるのではないかと考えました。
一貫構造計算ソフトから出力されるST-BridgeファイルからRevitデータを作成した場合、一部のデータが欠落する問題があります。これをミッシングリンク(データ流通の血栓)と呼んで、構造BIMの重要課題と捉えていました。
ーRUGメンバーが理想とした連携は、どのようなものでしたか?
安田:会話の中での何気ない一言に表されていました。
「構造計算データを、ST-Bridgeのような中間ファイルを介さずにRevitに渡せるといいのに」
つまり、構造計算に必要なデータを、直接、丸ごと「Revit」に受け渡したいと言うのです。
これを形にしてみたいと思いました。
ーダイレクト連携の構想を練ってから開発を始めるまでの期間を教えてください。
安田:社内では2016年から製品化の議論を始めたので、すぐに着手したと言えます。
どのような技術が必要なのか分からない状態でしたので、周囲からは実現に向けて疑問の声が上がりました。
ですが、完成すれば構造BIMを普及させる近道になるでしょうし、構造システムの一貫構造計算ソフトの価値を高める存在になると考えて開発を決断しました。
たくさんのワクワクと少しのキリキリ
ー手本となる類似製品が無い中でのスタートは不安でしたか?
田中:私は「Revit」を触ったことがなかったので、操作の勉強から始めました。
それでも不安より、誰もやったことが無い挑戦をすることにワクワクする気持ちの方が大きかったです。
もちろん、時には胃がキリキリすることもありました。
ー困難なプロジェクトを楽しめた理由を教えてください。
田中:ダイレクト連携の構想がAutodesk社に伝わると、大変興味を持っていただき、協力してもらえることになりました。
「Revit」の開発者や関係者とミーティングを重ねることで、日本の構造BIMの先陣を切るのだと胸が高鳴りました。
安田:多くの人と関わって仕事の幅が広がることも、楽しさにつながりました。
ー胃が痛むほどの、大変な思いもされていますね。
田中:正解が無いということに、最も頭を悩ませました。
例えば構造計算だと、基準書などの指針があって答えがある状態です。プログラムはその正解を出すように作れば良いわけです。
ですが、ダイレクト連携は正解が無いというよりも、正解がたくさんあるのです。
ーどのように正解を決めるのでしょうか?
田中:例えば大ばりと小ばりで言うと、「Revit」では同じファミリを使って配置することができます。
そうすると「Revit」ではデータを扱いやすいのですが、構造計算のデータを持たせるためにはファミリを分けた方が後々良いかもしれません。
こういった場合は正解が無いので、よりベターな仕様を自分たちで決めます。
ただ、採用した仕様が本当に問題無いのか悩み続けています。
ー開発にあたり苦労したところを教えてください。
田中:プログラムを動く形にした後、協力してくださる企業から「Revit」の実物件データをお借りしてダイレクト連携のテストを行いました。
実物件は想像以上に多様な形状で、例えば途中で段差や開口があるスラブは一貫構造計算ソフトでは直接扱えないことなどが分かりました。
最終的には比較的整形な建物形状に対応する形となりましたが、これは今後につながる課題となっています。
安田:「+Revit Op.」を公開するとたくさんのお問い合わせが来ました。
ですが、見込みよりも販売数が少なくて残念に思いましたし、当時はBIMがまだ普及の途上であることを実感しました。
田中:実は、リリース後に部材の寄り寸法の仕様が実務と合わないことが分かり、急遽作り直したことがありました。
その後も、ユーザー様と対話しながら改良を重ねて進化しています。
AU 2018で見た海外のBIM
安田:2018年には、海外における当時のBIM利用状況などの調査を兼ねて、アメリカのラスベガスで開催されたAU(Autodesk University) 2018に参加することができました。
展示会と講演会を混ぜたような催しで、4日間かけてセミナーやクラスに参加しました。
ー印象に残ったことを教えてください。
安田:海外ではクラウドに入れたRevitプロジェクトファイルを使って共同作業することが当たり前になっていました。
建築現場の人も、設計事務所の人も、みんな同じクラウドを使っています。分かってはいましたが、日本は世界に遅れていることを実感しました。
「+Revit Op.」で提案したダイレクト連携が、構造BIMの普及の一助になることを願ってやみません。
BIMにこれから取り組む方へ
ー「+Revit Op.」を取り巻く状況は変化してきたと思いますか?
安田:公開当初より「+Revit Op.」は、「Revit」のプロジェクトファイルの建物データを一貫構造計算ソフト「+NBUS7/BUS-6」と共有し、双方向のデータ連携を実現する唯一のツールです。建物データを共有するので、構造計算書と図面の整合性確認の時間短縮を行えます。
同業メーカーの動きをみると「+Revit Op.」が与えたインパクトは小さくないと思います。
今後、同業メーカーが切磋琢磨していくことで、構造BIMの更なる発展にも寄与していけるのではないでしょうか。
田中:これまではゼネコンなどの大きな企業が中心となってBIMに取り組んでいましたが、個人の設計事務所でもBIMを意識し始めている印象です。すでに、BIMデータから施主に説明するための3Dモデルや、申請に使う構造図を作成して使いこなしている方もいらっしゃいます。
ーこれからBIMに取り組む方へアドバイスをお願いします
安田:まずは、ST-Bridge連携を試すことをお勧めします。
BIMツールと連携する多くのソフトと一貫構造計算ソフトでデータ連携できることを体験できます。
田中:「Revit」も「ST-Bridge Link」を使って、ST-Bridgeファイルをインポートできます。
構造計算のデータは入っていませんが、BIMモデルが出来上がります。
さらに差分インポートの機能を使えば、後から一貫構造計算ソフト「構造モデラー+NBUS7」でスパンを変更したST-Bridgeファイルを読込んでも、「Revit」で進めていた作業を壊すことなく形状が変更できます。
安田:慣れてきたらダイレクト連携に挑戦してください。
ST-Bridge連携とは違い、1つのRevitファイルで構造計算データを保持する快適さを体感できるはずです。