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NFTはバブルか?:世界がWeb3.0へ向かう理由

NFTはバブルでしょうか?

NFTの売上高は、2021年の第3四半期だけで107億ドル(約1兆2120億円)を記録しました。

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国内でもCoincheck(マネックスグループ)、Adam byGMO、LINEのNFT、Rakuten NFT、ヤフオクのNFT、SBINFT、FanTop(メディアドゥ)など、大手が続々と参入。NFTが有望な事業だという認識が広がっています。

世界最大のNFTマーケットプレイスである「OpenSea(オープンシー)」における販売金額は、2021年8月に約34億ドル(約3800億円)を記録し、その後も衰える気配がありません。

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人気のNFTには、どのようなものがあるでしょうか。イーサリアムブロックチェーンの取引額上位の3つを見てみましょう(※下図の赤線枠内)。

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CryptoPunks(クリプトパンクス)は、10,000個限定で販売された24✕24ピクセルのNFTコレクションです。平均価格は19万9069ドル(約2250万円、2021年8月時点)と家やクルマが買えるほど高額で、クレジットカード会社のVISA(ビザ)が購入して話題となりました。

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Art Blocks(アートブロック)は、コンピューターのアルゴリズムで生成される芸術作品「ジェネレーティブアート(Generative Art)」をテーマとしたプロジェクトです。定期的に新たなシリーズが発行されており、約3億円で取引される作品が登場するなど、1つの作品群を形成しています。

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Bored Ape Yacht Club(BAYC:ボアードエイプ・ヨットクラブ)は、のとおり"退屈なサル(Bored Ape)”をテーマにした作品群です。BAYCの保有者がコミュニティ化しており、Twitterのアイコンに使用する人が続出するなど人気が急上昇し、2021年9月にサザビーズのオークションで101点が2440万ドル(約27億円)で落札されたことが話題となりました。

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NFTは“転売目的”の市場なのか?

どのようなNFTが人気なのでしょうか?

統計によれば、コレクティブルが66%、アートが14%と全体の8割を占めています。CryptoPunks、Art Blocks、BAYCは、いずれも高額で取引されるコレクティブルNFTですので、実感にも近いと思います。(※イーサリアムチェーンの統計のためAxie Infinityなどはカウントされていません)

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NFT市場について、新規発行(青色)とマーケットプレイスでの二次流通(紺色)の取引の数量の推移を表したグラフです。2021年9月に二次流通がNFT新規発行を上回りました。こうした市場の変化から、「転売目的のNFT購入がずっと続くわけがない」という声も聞かれるようになりました。

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「NFTはバブルではないか?」と誰もが疑問に思いながら、現在もNFTブームは継続しています。

NFTブームの裏にある3つの変化

これからグローバルNFT市場はどうなるのでしょうか?

先の見通しがなければ、「どうなるか全然わからないから、NFTは買わない」という消極的な行動になります。せっかくNFTビジネスの種がまかれている時期に、「不安だから」という理由はもったいない。

そこで今回は、NFTブームの裏にある3つの変化に着目して、今後の”NFTビジネスの見通し”を考えてみたいと思います。

(1)ミーム化:クジラがNFTに向かう理由

(2)ソーシャルトークン化:なぜNFTは"記号的なデザイン"なのか?

(3)バース化:"コレクティブルNFT"から"独自の経済圏"へ

(1)ミーム化:クジラがNFTに向かう理由

NFTは高額で取引される度に、ニュースになっています。

「ただの画像データに、そんなに高値が付くのか」と人々は驚き、世間では「NFT市場は有望だ」と信じられるようになったのではないかと思います。

ただし、その数字にはマジックがあります。

第一に、実際にNFTを購入している人は、それほど多くはないようです。イーサリアムウォレットのみの集計ですが、NFTの管理に使われるアクティブなウォレット数は週に8万弱。2021年第3四半期で30万弱とられています。

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たとえば、日本国内で投資信託・株式を保有する投資家人口は約2700万人います。つまり、数十万人だけが投資する世界のNFTマーケットは、”クリプト投資家”という限られた人たちが中心となって取引する市場である可能性があります。

第二に、クリプト投資家が取引する単位は「イーサリアム(ETH)」など仮想通貨です。よくポイントカードで得たポイントは気前よく使ってしまうことがあると思いますが、同じように仮想通貨(クリプト)の”億り人”にとって「○○ ETH」は、通常の金銭感覚ではない可能性があります。

業界内では仮想通貨の大口投資家をクジラ(Whales)と表現しますが、つまりクジラにとってはNFTが何十ETHであっても「もともとクリプトで儲けたもの」なので、何とも思ってないかもしれないということです。

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おそらく一般投資家が仮想通貨取引所でドルや円をETHに換えた”お金の重み”とは、少し感覚が異なるのではないでしょうか。

では、なぜクジラはNFTを積極的に購入するのでしょうか?

クリプト(仮想通貨)界隈には「ミーム(Meme)」という文化があります。”Meme”は「gene(遺伝子)」とギリシャ語の「mimeme(模倣)」を組み合わせた造語で、「模倣によって人から人へと伝達し、増殖していく文化情報」を意味します。

代表的なミームに、Doge(ドージ)、Shiba(シバ)といった「ミームコイン(トークン)」があります。

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つまり、そもそもクリプト投資家には、常に流行りものへと乗り換えていく”ミーム的な(Memey)”投資の動き方があるため、クリプトコミュニティ内で「どんなNFTが流行っているか?」ということに敏感です。

要約すると、世界のクリプト投資家の人数は限られており、仮想通貨を単位とした金銭感覚も普通ではなく、”ミーム的な(Memey)”投資の動き方も相まってNFTが巨大市場に膨れ上がったのではないか、という仮説です。

これらをまとめて「ミーム化」と表現します。

(2)ソーシャルトークン化:なぜNFTは"記号的なデザイン"なのか?

この「ミーム化」と相性がバツグンに良かったのが、実は”ジェネレーティブアート”をモチーフにした記号的なデザインのコレクティブルNFTです。

すでに紹介したCryptoPunks、Art Blocks、BAYCはもちろん、4位の「Meebits(ミービッツ)」もCryptoPunksのクリエーターが創った3Dアバターのコレクションです。

6位の「CyberKongz(サイバーコング)」も、ゴリラをモチーフにしたコレクションです。

8位の「Hashmasks(ハッシュマスク)」も、Art Blocksに似たマスクをモチーフにしたデジタルアート作品群です。

人気のコレクティブルNFTがすべて”記号的なデザイン”となっており、「ひと目で、それとわかる」ことは、クリプト投資家コミュニティ内のミームと非常に相性が良かったのではないかと思います。

そこで登場したのが、同じシリーズのコレクティブルNFTを持つ保有者同士がコミュニティ化する動きです。

もともとメンバーしか入れないコミュニティ空間が用意されるなどコミュニティ感が強かったBored Ape Yacht Club(BAYC)は、オランウータン保護団体に寄付を行うなど、プロジェクトとしての活動が目立ちます。

3DアバターのMeebitsは、そもそも独自のDAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)である「MeebitsDAO」がDiscordサーバー内コミュニティに設置されており、「メンバーの名前は表示色が一般参加の人と違う」「チェックインするとコインがもらえてアイテムと交換できる」「独自のイベントを開催」など、さまざまな特典が用意されています。

このように、記号的なデザインのコレクティブルNFTを中心にして、クリプト投資家がコミュニティを形成し始めています。

こうしたトレンドに合わせて、従来からアーティストやミュージシャンなどのクリエーターや、スポーツのチームなどが、ファンとの強いつながり(エンゲージメント)を強めるために仮想通貨やトークンを発行してきたことをめて、「ソーシャルトークン(Social token)」と総称します。

以上をまとめて「ソーシャルトークン化」と表現します。

(3)バース化:"コレクティブルNFT"から"独自の経済圏"へ

しかし、ソーシャルトークン化には課題があります。それが「ソーシャルトークンの逆説(The Social Token Paradox)」です。ソーシャルトークンの発展には3段階があり、次ののようにまとめられています。

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①限定感のある”小規模”コミュニティの段階では、限定感はあるものの、メンバー数は少なくトークン価格も安い。

②やや限定感のある”中規模”コミュニティの段階では、限定感は薄れるものの、メンバー数は増加し、トークン価格も上昇します。

③限定感のない”大規模”コミュニティの段階では、限定感はなくなり、メンバー数は増加するものの、魅力を感じなくなってきたメンバーが脱退し始めるのでトークン価格が下落傾向に陥ります。

このように、ソーシャルトークンは「①→②→③→①→②・・・」を繰り返すのではないか? という問題提起が「ソーシャルトークンの逆説」です。

たしかに、ソーシャルトークンが「限定感(Exclusive)」だけをウリにすることだけでは、このパラドックスを覆すことはむずかしい。

そうした課題と呼応するように、コレクティブルNFTのコミュニティで新たな動きが始まっています。

Bored Ape Yacht Club(BAYC)は、新たなロードマップ2.0を発表しました。そこにはモバイルゲーム化やメタバースへの進出など、さまざまな活動を示唆する絵が地図に描かれています。

続けて明らかになったのは、BAYCプロジェクトとして2022年の第1四半期に仮想通貨の発行を予定しているという計画です。

この流れは、これまでNFTゲームやGameFiを専門にしていた私も衝撃を受けました。

つまりは、これまでnoteで書いてきた「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」は、NFTゲームから始まってAxie経済圏をつくる流れでしたが、BAYCはコレクティブルNFTから始まって独自の経済圏をつくる流れになっているのです。

こうした流れはBAYCだけではありません。Hashmasksもメタバースへの進出やゲーム化を検討していると伝えられています。

CyberKongzは、最初に発行された1000個のGenesis Kongzの1つを所有すると、10年間にわたって毎日10個の$BANANAトークン(約60ドル、2021年10月時点)が付与されます。Genesis KongzのNFTを1つでも持っていれば単純計算で年収が約2500万円ですから、ステーキングにも似たバラマキ手法とも言えます。

CyberKongzが会員コミュニティの存在、メタバースへの進出を宣言している点は、ほかのコレクティブルNFTと同様です。

NBA Top Shotが売上7億ドルを超えるなど、2021年前半のNFT市場を牽引してきたDapper Labs(ダッパーラボ)が開発する「Flow」ブロックチェーンは、開発者やクリエーターを巻き込む「Flowverse(フローバース)」というエコシステムを立ち上げています。

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以上のように、コレクティブルNFTから始まって独自の経済圏をつくる流れは、2022年から本格化してきそうです。

ところで、「Flowverse(フローバース)」の「verse」には、メタバースと同じような「ユニバース(universe:宇宙)」の意味が込められていますので、NFTが独自の経済圏をつくるイメージにぴったりだと感じました。

そもそも、これまでもNFT×メタバースを目指すプロジェクト「Decentraland(ディセントラランド)」「The Sandbox(サンドボックス)」などが存在しています。

たった8行のテキストで表現されたNFT「Loot(for Adventurers))」は、こうしたトレンドをふまえた新たな小宇宙(バース)なのかもしれません。

なので、以上のトレンドを「バース化」と表現することにします。

「モバイルファースト」から「ウォレットファースト」へ

ここまでNFTブームの背景として、(1)ミーム化、 (2)ソーシャルトークン化、(3)バース化、という3つの変化に着目して、トレンドを整理してきました。

最近、この流れを後押しするかのようなニュースがありました。Twitterがアカウントに「NFT認証を取り入れる」というニュースです。"SNSアイコンにNFTを使うユーザーが加速するのではないか"と期待が高まっています。

ここで重要なポイントが一つあります。

TwitterのNFT認証には、MetaMaskやCoinbase Walletなどのカストディ(資産管理)機能のないイーサリアム対応のウォレットなどが想定されている、と見られています。ウォレット接続により、所有するNFTをTwitterアカウントに連携するカタチです。

このウォレット接続こそ、ブロックチェーン技術によって実現する分散型ネットワーク(Decentralized Web)としての「web3.0」への入り口です。

分散型ブログプラットフォーム「Mirror(ミラー)」は、書き手のコンテンツをブロックチェーンで保管するため、クリエーター自身がオーナーシップを持ってコントロールすることが可能です。

仮想通貨の資産を一元管理できる「Zapper(ザッパー)」は、ウォレット接続するだけでチェーンごとの資産総額やDeFi(Decentralized Finance:分散型金融)の資産状況を一括で確認・管理することができます。

コミュニティ管理ツールの「Collab.Land(コラボランド)」は、メッセージアプリの「Telegram(テレグラム)」やコミュニケーションツールの「Discord(ディスコード)」と連携して、ウォレット接続により”ある特定のトークン保有者"しか入れないコミュニティを設定することができます。

こうしたツール群は、ウォレット接続によりトークンと連携することで、クリプト投資家のコミュニティ化を推し進め、「web3.0」の世界を切り拓いていきます。

ある著名なブロガーは記事で次のように表現していました。

Web3 starts with the wallet.(web3はウォレットから始まります。)

かつてスマートフォンが普及し、さまざまなアプリやビジネスが花開いた時期に、あらゆるビジネスで「モバイルファースト」が喧伝されました。

今、クリプトやNFTが普及し始めるタイミングに差しかかり、「ウォレットファースト(Wallet-First)」で考えることが重要となったのです。

やがて”web3.0の世界”が訪れる

結論です。これまでのNFT市場の盛り上がりは、ここまで解説してきたような"新たな潮流"を生み出す土台になっていくのだと考えられます。ゆえに、バブルと呼ぶのは適切ではありません。

インターネットにも、1990年代から2000年代初期にかけて”インターネット・バブル”と呼ばれた時代がありました。そして、その時期に培われた技術が、インターネット発展の土台となったことを否定する人はいないはずです。

NFTの普及と市場の盛り上がりによって生まれた (1)ミーム化、 (2)ソーシャルトークン化、(3)バース化という新たなトレンドにより、ウォレットファーストの重要性が認識されるようになり、やがて”Web3.0の世界”が訪れる。

私には、すべてが必然のように感じられました。

Web3 starts with the wallet.(web3はウォレットから始まります。)

最後に

毎回のことですが、いちおう初めて読む方にお伝えしておきますと、このnoteを書いているKOZO Yamadaは、NFTゲーム「JobTribes(ジョブトライブス)」やNFTプラットフォームを提供するシンガポール拠点のDigital Entertainment Asset Pte.LtdのCSO(最高戦略責任者)です。

これまで書いてきた代表的なnoteは以下になります。NFTゲーム、Play-to-Earn(ゲームして稼ぐ)、GameFiなどの分析を得意領域としております。

本来は、コレクティブルNFTを専門としておりませんが、調べているうちにコレクティブルNFTのほうがNFTゲームやGameFiに近づいていることに気づきました。「これは書かねば……」と強く感じたので、今回のnoteを書いたという流れです。

書き終わっての感想ですが、そもそも私たちは「国家通貨(Fiat)」に基づく通貨ネットワークで経済活動を行い、保有するドルや円などの通貨で”国”という所属を体現してきました。よく考えてみれば、それと今回のnoteで書いたような話は、さほど変わらない現象なのではないかと思った次第です。

「NFTがバブルかどうか」を議論しても、世界は変わりません。読んでいただいたみなさんに「NFTっておもしろい!」と感じてもらうことが、きっとweb3.0の入り口になるのではないかと思います。ぜひ、この文章を読んで未来にワクワクしていただければうれしいです!

最後の最後になりますが、常にNFT(特にNFTゲームやメタバース)の最新情報は追っていますので、よろしければTwitterをフォローください。合わせまして、ご質問などはTwitterにお寄せください。

相変わらず長文となりましたが、ここまでお読みいただき大変にありがとうございました!

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