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NFTゲーム「Axie Infinity」は破綻するのか?──”GameFiとは何か?”を考える

NFTゲーム「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」のnote記事を書いてから、1ヶ月ちょっとが経ちました。

私自身もNFTゲームの提供会社CSOであり、「Axie Infinity」は世界No.1のNFTゲームとしてベンチマークしていることから、先日も2021年8月度の収益をツイートいたしました。

たくさんの反響をいただきましたが、何人かの方から「いつかAxieは破綻しませんか?」という意見をいただきました。

たしかに、岩のNFTが1億5000万円で売れるなど、NFTマーケット全般は「なぜ高額で売れる?」と首をかしげることが毎日のように起こっており、「バブルでは?」と思う方も多いと思います。

NFTマーケット全般のことはさておき、一つだけ言えることはゲームと金融(+DeFi:分散型金融)が合わさった「GameFi」には、その破綻を防ぐような仕組みが構造化されています。結論から言えば、破綻しにくいから「GameFi」なのだと思います。

みなさんは「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」が備わったNFTゲームのすべてを「GameFi」だと考えていないでしょうか? もし「Play-to-Earn」と「GameFi」の区別がついていないようならば、このnoteは読む価値があります

今回は、あらためて世界No.1のNFTゲーム「Axie Infinity」を題材に、「本当にAxieは破綻しないのか?」を考察しながら、その先にある「GameFiとは何か?」を詳しく解説しましょう。

「Axie経済圏」入門──どう循環しているのか?

「Axieは破綻するのではないか?」という意見を持つ人たちの間で、その根拠になっているのが「ポンジ・スキーム(Ponzi scheme)」です。

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ポンジ・スキーム(英: Ponzi scheme)とは、詐欺のなかでも特に、「出資してもらった資金を運用し、その利益を出資者に(配当金などとして)還元する」などと謳っておきながら、実際には資金運用を行わず、後から参加する出資者から新たに集めたお金を、以前からの出資者に“配当金”などと偽って渡すことで、あたかも資金運用によって利益が生まれ、その利益を出資者に配当しているかのように装うもののこと。(Wikipediaより)

以前のnoteにも詳しく書いたので詳細は省きますが、Axieはゲームを始める際にキャラクターのNFTを約10万円ほどの暗号通貨(イーサリアム:ETH)で購入しなければならない仕組みです。

つまり、Axieをポンジスキームだと考える人たちは「AxieキャラクターのNFTを売って最初に集めたお金を、ゲームで勝つともらえる暗号通貨(SLP)として配布しているだけなのではないか」と考えているのです。

本当にそんな仕組みなのでしょうか?

Axieの仕組みはプレイヤーには複雑に見えます。勝つと暗号通貨(SLP)がもらえる「バトル(Battle)」だけではなく、新たな強いキャラクターがつくれる「ブリード(Breed:繁殖)」や、キャラクターのNFTをユーザー同士で売買する「マーケットプレイス(Marketplace)」などの要素が組み込まれています。

さらに「ブリード」にも使用する「ガバナンストークン(Governance Token)」と呼ばれる暗号通貨(AXS)があるため、Axie経済の全体像がつかみにくいのかもしれません。しかし、実はすごくシンプルです。海外のブロガーが作成した次の図をご覧ください。

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青でハイライトされた部分が「Axieの生態系」です。Axieアカウントを中心にして、右側にマーケットプレイス、下側にバトルとブリードが配置されています。

ポンジ・スキームかどうかは、「外部」からAxie経済圏の「内部」へと流れる暗号通貨を見ればOKです。そうすると外部マネーは「①NFTキャラクターを購入する」「②暗号通貨(SLP / AXS)を売買する」という2つのルートしかないことがわかります。

ということは、NFTキャラクター・SLP・AXSを購入することによって流れ込んだマネーを「Axie経済圏」で循環させているだけということになるので、かなりポンジ・スキーム的に見えてきました。

つまり、現在のAxieのプレイヤーが「Play-to-Earnで稼げている」のは、NFTキャラクターの新規購入(=新規プレイヤーの増加)+ 暗号通貨(SLP / AXS)の販売&値上がりによってもたらされていると考えられるのです。

「なぜAxieは破綻しないのか?」3つの理由

「ポンジスキームならば破綻するはず。これ以上の議論はムダ」という意見もあるかと思いますが、ここからが「GameFi」考察の本番です。Axieには、それでも「破綻しにくい」と言えるだけの理由が3つあります。それぞれ解説します。

(1) 適切な「ミント」と「バーン」の管理

(2) 「ガバナンストークン(AXS)」の決定的な役割

(3) これから始まる「メタバース」での本質的価値の提供

(1) 適切な「ミント」と「バーン」の管理

Axie Infinityとポンジスキームとの違いは、AxieがSLP / AXSという暗号通貨を発行する主体である点にあります。

暗号通貨には「ミント(mint:鋳造)」「バーン(burn:焼却)」という操作があり、Axieにおいてミントは「バトルで勝った報酬をプレイヤーに渡す」ときに行われ、バーンは「ブリード(繁殖)でプレイヤーが消費する」ときに行われます。

Axieでは「バーン/ミント」の割合を管理しており、共同創業者であるJihoはその平均値は58%だと明らかにしています(2021年8月23日時点)。

プレイヤーにとっては暗号通貨の報酬(所得)が多いほど、嬉しくゲームの魅力が上がりますが、暗号通貨が「ミント(鋳造)」されることにより供給し過ぎれば暗号通貨の価格は下がります。暗号通貨の価格が下がれば、プレイヤーにとっての報酬の価値が下がり、ゲームの魅力が薄れるため「負のスパイラル」です。

一方で、さらにゲームに勝って報酬(所得)を上げるにはブリード(投資)が必要となり、暗号通貨が「バーン(焼却)」されるので暗号通貨の価格は上がります。暗号通貨の価格が上がれば、プレイヤーにとっての報酬の価値が上がり、ゲームの魅力が増すため「正のスパイラル」です。

こうしたゲーム経済圏の循環があることから、Axieはブリーディングのコスト(費用)を適切にコントロールし、成長のためのブリードをプレイヤーに促すことで、健全なAxie経済圏が維持できるという仕組みになっていることがわかります。

「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」のNFTゲームが一般的なゲームと違うのは、このように暗号通貨のコントロールが必要な点です。共同創業者のJihoの一連のツイートからは、そのコントロールの一端を垣間見ることができます。

(2) 「ガバナンストークン(AXS)」の決定的な役割

Axie Infinityには、ゲームの報酬に使われる「ペイメントトークン(SLP)」と、「ガバナンストークン(AXS)」の二種類があります。その直近3ヶ月の価格の推移をご覧ください。

Smooth Love Potion(SLP)価格・チャート | CoinMarketCap

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Axie Infinity(AXS)価格・チャート | CoinMarketCap

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ゲームに新規ユーザーが増えて盛り上がれば、暗号通貨の価格は上がるはず。しかし、AxieではSLP / AXSは同じゲームの暗号通貨(トークン)にもかかわらず、異なる値動きになっていることがわかります。なぜでしょうか?

実は、先ほどの「Axieの生態系」に描かれていなかった、「ガバナンストークン(AXS)」の役割を示したがこちらです。

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左側にいる「AXSの持ち主(AXS HOLDERS)」は、AXSを預ける(ステーキング:Stake AXS)することで、下側に位置する「コミュニティのトレジャリー(COMMUNITY TREASURY:公庫の位置づけ)」から報酬を得たり、コミュニティの意思決定に対する投票券を得ることができます(※なお実装はこれからの予定です)。

では、トレジャリーの資金はどこからやってくるのか? 右側の「ゲーム世界(GAME UNIVERSE)」から収益とAXSがトレジャリーに入る仕組みです。では、この収益とAXSは何かというと、AxieやLand(メタバースの土地)の販売、マーケットプレイスの手数料4.25%などです。

さらにガバナンストークンであるAXSは、Axieを「ブリード(繁殖)」するときにも必要となるため、ユーティリティ(使用)の価値もあります。つまり、Axieを強くして、より稼げるようになるためにブリードしようとすると、AXSを購入しなければならない仕組みです。

まだ未実装とはいえ「そうなるとAxieを開発・運営するSky Mavis社の収益はないのか?」と疑問に思われるかもしれません。ここが「DAO(Decentralized Autonomous Organization:自律分散型組織)」を目指すAxieの真骨頂です。

次の図・表はAxieのホワイトペーパーに記載された「ガバナンストークン(AXS)」を誰にどれだけ割り当てるかを示したものです。Sky Mavis社には21%の割り当てがあることがわかります。

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ほかプレイヤー(Play to Earn)に20%、AXSの持ち主が預けた報酬(Staking Rewards)に29%など、それぞれに上限の設定され、65ヶ月(5年5ヶ月)の長期にわたって段階的に配布されることがわかります。

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つまり、開発・運営するSky Mavis社が中心になるのではなく、ガバナンストークンに基づきユーザーが一体となった「DAO(自律分散型組織)」として、独立した経済圏をつくろうとしているのが「Axie Infinity(アクシー・インフィニティ)」なのです。

結論を言えば、「ペイメントトークン(SLP)」はゲーム内の仮想通貨であり、「ガバナンストークン(AXS)」はユーティリティ(使用)の価値がありつつも、トレジャリーからのステーキング報酬を得るための決定的な役割を果たしています。SLPの価格が上下しているのに対して、AXSの価格が(報酬への期待により)安定して上昇している理由はここにあるのではないかと推測できます。

Axie経済圏が破綻しにくい理由には、ブリードに使用するために消費されるAXSだけではなく、同経済圏が成長することへの期待をベースにした「ガバナンストークン(AXS)」の買い支えがあると思われます。

(3) これから始まる「メタバース」での本質的価値の提供

ここまでの理由に挙げた(1)(2)は、やはりAxie経済圏「内」の仕組みでした。いくら「ミント」と「バーン」を上手くコントロールして、「ガバナンストークン(AXS)」が買い支えられたとしても、Axieの域内経済が回るだけです。プレイヤーが減少に転ずれば、破綻の危機は免れません。

しかしながら、「破綻しにくい」というのがポイントで、こうした(1)(2)の仕組みで経済をコントロールしながらAxieが着手しているのが「ランド(Land:土地)」と呼ぶメタバース空間の開発です。

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「ランド」ではミニゲームなどが提供される予定で、ガバナンストークン(AXS)と同じように供給量が定められており、すでに値上がりを期待して購入しているユーザーも多く存在します。

なぜAxieが破綻しないために「ランド」が重要なのか?

ホワイトペーパーの「Axie人口と長期的な持続可能性について(Axie Population & Long-term Sustainability)」という項目に、次のような記載があります(日本語はわかりやすく意訳します)。

Long term Axie population management relies on: Adding additional utility to Axies through new experiences such as land, mini-games. (長期的なAxie人口のマネジメントには、ランドやミニゲームなどの体験を通じて新たなユーティリティ(有用性)を加えることです)  
Adding vertical, rather than purely horizontal progression. Right now in order to progress the main path that people take is by expanding the size of their collection. This dynamic is not optimal long term. In the long run there will be upgrades to both Axies AND Land that will require crafting ingredients. Axies themselves may be “released” to obtain these crafting ingredients. This creates a long term supply sink to the Axie population. Axie progression is coming in the future; and it promises to create a much stronger bond between trainers and the Axies they choose to upgrade.(Axieの価値を「水平方向」ではなく、「垂直方向」に追加することが必要です。現在は、Axieをコレクションすること(水平方向)しかありませんが、この方法は長期的なサステナビリティには最適ではありません。長期的にはAxieとランドの両方にクラフト材料を必要とするアップグレード(垂直方向)が考えられます。クラフト材料としてAxies自体が使用されるかもしれません。これがアクシーの人口を長期的に安定させる供給源となります。トレーナーとAxieとの間に、より強い絆が生まれることが期待されます)

Axieをコレクションする需要(水平方向)としては、現在560万体いるAxieのうち1288体(0.023%)のミスティック・アクシーおり、貴重なコレクションとして1体が数百万円で取引されています。Axie創業者のJihoさんもレアなAxieの紹介をしています。

一方で、メタバース空間である「ランド」を充実させる(垂直方向)ためにユーザーにAxieを消費させることを、ほのめかしているのが上記の文章です。続けて、こんな一節があります。

Also keep in mind that demand for Axies is ultimately what also drives demand for SLP (and AXS), so creating more reasons to own Axies and making it easier for us to grow are important in a a healthy economy.(Axieの需要が最終的にはSLP及びAXSの需要を動かしていることを念頭に置き、Axieを所有する理由を増やすことで成長しやすい環境を整えることは健全な経済のために重要です

最初に説明したとおり、Axie経済圏が外部からお金を得ているポイントは、プレイを始めるときにAxieのNFTを購入するところでした。つまり、「Axieを消費する=外貨を獲得する」という構造になっているため、ランドでユーザーがAxieを消費したくなる仕組みがつくれたのなら、それが「ゲーム・メタバースとしての面白さ」というAxieの本質的な価値提供を達成したことにつながるのです。

加えて、Axieは他ゲーム開発会社へシステムを開放するための「API(Application Programming Interface)」を準備しており、他ゲームでもAxieのNFTやSLPなどの暗号通貨を使えるようにしていくことを予定しています。またAxieが100万人超のユーザーを抱えていることもあり、広告やeスポーツの提供によるスポンサー収入の獲得などもホワイトペーパーに明記されています。

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そうした他ゲーム開発会社からのライセンス・広告料も「外貨を獲得する」ことにつながります。あくまで予想にはなりますが、メタバース空間という意味では、フォートナイトのスキンのように着飾るための「消費財(Cosmetics)」のようなものをつくるかもしれません。

すべては巨大なユーザーの母数があるからできることです。Axie経済圏の規模が拡大すれば、「外貨を獲得する」選択肢は無限大にありそうです。

あらためて”GameFiとは何か?”

Axieが「破綻しにくい」理由は、(1) 適切な「ミント」と「バーン」の管理、(2) 「ガバナンストークン(AXS)」の重要な役割、の2つから言えることでした。また、破綻しないと言い切れるようになるには、(3) これから始まる「メタバース」での本質的価値の提供、が必要だと説明しました。

「Axie経済圏」自体がやや複雑な構造のため、少し説明がむずかしくなったかもしれませんが、ご理解いただけたでしょうか?

ここで、あたらめて”GameFiとは何か?”をまとめたいと思います。

すでに解説したことから明らかですが「Play-to-Earn = GameFi」ではありません。GameFiはゲームと金融(+DeFi:分散型金融)が合わさった造語ですが、実は金融だけではなく、DeFiから得たエッセンスこそが重要です。

すなわち、GameFiとは、ペイメントとガバナンスの機能を持つトークンを用いて「ゲーム経済圏」を柔軟にコントロールし、ステーキングによりDAO(自律分散型組織)に代表されるような「ユーザーが自発的に動く経済圏」を創ることを意味する、と私は考えています。

だからこそ、GameFiは「ガバナンストークン」と「ステーキング」という概念を生み出したDeFiの系譜に位置づけられるのだ、と確信しています。そして現在、疑う余地もなく、GameFiとDeFiはクリプト経済圏を拡大するためのドライバーの役割に担っています。これが今回のnoteの結論です。

最後に

毎回のことですが、いちおう初めて読む方にお伝えしておきますと、このnoteを書いているKOZO(Kozo Yamada)は、NFTゲーム「JobTribes(ジョブトライブス)」やNFTプラットフォームを提供するシンガポール拠点のDigital Entertainment Asset Pte.LtdのCSO(最高戦略責任者)です。

NFTゲームの魅力をたくさんの方々に知っていただきたいという気持ちで、「NFTゲームの専門家」を名乗り、いつもがんばってTwitterで発信したり、たまにnoteを書いてます。

今回のnoteで伝えたかったのは、「ゲームして稼ぐ(Play-to-Earn)」というコンセプトがあまりにも強烈でひとり歩きしてしまい、「稼げるゲーム=GameFi」と認識されるようになってしまったことへの危機感からでした。

Play-to-Earnの仕組みはコピーできたとしても、GameFiはトークンを用いた高度な経済圏のコントロールが必要であるため、その運営は簡単ではありません。日々、NFTゲームと向き合う立場なので、心からそう思います。今回のnoteで「Play-to-Earn」と「GameFi」をきちんと分けて議論できるようになっていただければうれしいです。

最後の最後になりますが、常にNFTゲームの最新情報は追っていますので、よろしければTwitterをフォローください。合わせまして、質問などはTwitterにお寄せください。相変わらず長文となりましたが、ここまでお読みいただき大変にありがとうございました。

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