藁とハードル

自分は人付き合いは苦手である、と思っている。
息子が幼稚園に入園してから、茶話会もランチ会も全てスルーしてきた。ママ友など要らぬ。きちんと挨拶出来てその場その場を笑顔でやり過ごせれば良い。
そんな考えだったし、今も根本にあるものは変わらない。

しかし年長さんになった年、事件は起こった。
それはクラス役員やバザー委員、行事のお手伝いなどの担当を決める保護者会。
事前にアンケートがあり、1度も経験が無く家庭の事情も許すという状況下にあった私は、真面目な性格ゆえ、誰もいなければなっても良いという項目にマルをつけていた。

案の定、バザー委員の立候補が無く担任の先生が『では…』とこちらを見た。選出される委員は2人、マルをつけていたのも2人だけ。

マルをつけた以上は責任がある。大人として、地べたでダダをこねて泣いて断るわけにもいかない。仕方ない、入園してから卒園するまでひっそり生息するのは難しくなったが、お世話になっている園へのささやかな恩返しにもなるであろう。お役に立てるかわかりませんがやるからには責任持って頑張らせていただきます。とバザー委員の集合&引き継ぎのお部屋へ向かう。

これまでのバザー委員には誰かしら経験者が居たらしく、では経験者に三役を…の流れがあったらしいが、私の行ったあの場にはお手伝い経験はある人はいても委員経験者はいなかった。私はその中でも最も経験値が少なく横の繋がりも無いという立場の上位に入れた筈だ。
自ら進んで長になりたい人も無く、では年長さんからお願いしますと前任者に言われ、もう平等にあみだくじで!という形になった。

何故こんなところで私は当たりをひいてしまうのか。

あみだのゴールに白黒で燦然と輝く『長』の文字。見えた瞬間から、ゲシュタルト崩壊を起こすのではないかというくらい『ヤバい』の3文字しか浮かんでこない。
胃の内側からはガリガリガリガリと胃壁を削る幻聴が聞こえ、痛いのか気分が悪いのか意識が行方不明なのかわからないくらいもやもやふわふわのおかしな状態になったが、前任者に言われるがままにコトを進め続け気付けば解散時刻、前年までの資料や記録のファイルがたっぷり9キロは入った袋を渡されていた。

ファイルが全て陸上のハードルにしか見えない幻覚と共に、ハードルの詰まったトートバッグをノーマルママチャリの子乗せシートに載せて脳内に溢れんばかりのヤバいの言葉と帰宅した。

人間、予想外の事が起こると少し逃避を始めるのか、帰宅してまず体重計にトートバックを載せた。うん、10キロはないけど、9キロはあるね。うん、すんごい多いけど、もしかしてこれ全部目を通すのかな?委員長って責任者だよね?経験値無しで委員長ヤバくない?1番使い物にならないよね?偉くないしね?雑用と責任の人だよね?委員長なんて初めて…初めて…?いや待って、私中学生の時、図書委員長やってたわ!やってたやってた!うん、委員長!頑張れ私!

今思えば謎の励ましである。
引き受けたからには全力で取り組まねばならないと思う気持ちを、何とかして上げていかなければならなかった。藁をも掴む気持ちを上げて、上げて、まず、敵を知らねば。ハードルをファイルに見直さなければ。そうだ私図書委員長の頃陸上部だった。いやハードル関係ない。ファイル、これはファイル、書類だから、飛ぶんじゃない、くぐってもダメ、読むの。

その日から約半年間、人付き合いも主婦業とのバランスの取り方も不器用な私の闘いが全力で続く。
人付き合いは苦手である、に前向きな続きが出来るまでの話を、ここではしていきたいと思っている。

#バザー
#委員長

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