私とハードル
バザー当日。
生憎の予感のする空模様で、園庭を利用するコーナーのプランBへの変更が余儀なくされた。
これも雨だった場合のプランなんて前年資料には無くて、そもそも雨というシチュエーションがこれまで余り起こらなかったためかやはり情報に乏しく、数日前になって副委員長と雨だったらまずくない?との話し合いで急ぎで設えたプランBだった。
中庭には特大のブルーシートで屋根が作られ…というのも当日知った。情報無さ過ぎ!と笑うしかなかった。
雨バージョンの設営を済ませ、時間になる少し前に園長先生に声を掛けられた。
開始の時間のアナウンス、挨拶、ご案内、マイクでお願いしますね、…って定型文とか無いんですかそういうサプライズ好きじゃないですー!!な気持ちで頭の中で文章を組み立てる。とりあえずここを乗り切れば、あとは接客畑育ちの私ですもの。呼び込み、フル笑顔対応、気配り、実は少し経験値があるので、きっちりこなしてみせましょう。
ご近所の常連さんが毎年楽しみにしているらしく、空模様が微妙でも門の前には少し待つ人の姿が見えた。道路で待ってもらうのは危険なため、線を引いた園庭の中に並んで待ってもらう。園長先生と仲良く表立って、入口の主みたいになる。時間になり震えそうな声でマイクアナウンスを始め、少しずつ入場してもらう。並んでいた列が途切れたところで、売り場回り開始。
委員が運営する売り場に重点を置きながら、お客様の案内をしたり、お食事部屋の環境を確認したり、園コーナーを軽く覗いたり、個人出店コーナーが滞りなく動いているか見に行ったり、トイレのスリッパの向きを直したり、手すきのスタッフに声を掛けたり。
半年このバザーに関わってきたけれど、これは出来るよ、得意だよっていうシーンが初めて来た。そう思った。集大成の日がこれで良かった。そう思った。
しかし、予想通り徐々に雨が降り始めた。どうしても客足は鈍る。昨年の売り上げを目標にしていたけれど、厳しそうだなぁ。そう思いながらも、割引のタイミングなどは園の担当の先生の許可を得なければならないので、思うようにはいかないな、と思いながら売り場案内の声を張り上げた。
終了予定時刻の頃には雨も本降りで、客足の引きは早かったし売れ残りも多かった。少し残念な気持ちを残したまま撤去作業に入る。全てを元通りにしなければならない。椅子がひとつ足りなくても問題になる。準備段階で椅子や机に全て手書きでナンバリングした名札をチェックしながら、事前に割り振っていた担当に確認と報告をしてもらう。
報告を受けチェックをしながら、明確に通達したつもりでも8割伝わってれば御の字だなぁという気持ちになる。情報が多過ぎれば要点が見えなくなるし、単純過ぎればそこしか伝わらない。この半年間、伝えることの難しさ、人を動かすことの奥深さをたくさん学んだ。
そんなことを急ぎ足で考えながら、椅子がひとつ足りないという報告を貰う。片付けが終わるまでお手伝いの方を帰せないので、急いでもう1度チェックをして貰ったが見つからず。これ以上引き延ばせないという時点で一旦後回しにして、後から動かした人がいるという報告が来た。動かしたこと、その動かした先のチェックの人、どちらかが気付けば明らかになることだったけれど、そう思うようにはいかないのだな、ともやもやは笑顔で自分の心におさめた。
あとの片付けは委員だけで良い、となった時点で、運営に関わった全ての人にホールで終了と感謝の言葉を述べ、では解散!と伝えこちらを向いていた視線がバラバラになった瞬間、涙が止まらなくなった。柱の陰に入り、一緒にいた人に謝りながら泣いた。ずっとずっと神経を研ぎ澄ませてキャパオーバーで走り続けた日々が終わる。寂しさではなく、プレッシャーからの解放で、無事に終えた、ホッとした、という感覚で満たされていた。
どうしようもなく泣けてしまったけれど、委員としての後片付けがまだ残っている。売れ残りの処理や売り上げの結果、今後について伝えること、よく作業するために借りたホールのステージの中で、連絡事項と感謝の気持ちを述べ、その日できる分を片付けて帰る頃には、天候は土砂降りだった。
バザーのために購入した自転車用雨合羽を着て、既に暗くなった道をこぐ。帽子が風圧で脱げて雨粒が直に顔に当たるけれど、途中からまた涙が溢れてどうしようもなかったのでちょうどいいな、と思った。
帰り道はずっと、頑張ったね、本当に頑張ったね、やれば出来たね、大変だったけどね、よくやったね、私。と、生まれて初めて自分のことを褒めちぎった。暗くて雨なのを良いことに声を出して泣いていた。
生まれて初めて自分を全力で褒め認めることが出来た日だった。
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