黒いテントの中の異世界

中学時代の最後の修学旅行は東京でした。

覚えているのは、まだ開園して数年の新しいディズニーランドを堪能したこと。ドナルドの帽子をお土産にし、ディズニーランドのかけらを持って帰ったようで嬉しかったこと。

もう一つ。当時まだ後楽園球場だったはずの現東京ドームに野球を見に行くか、ミュージカルを観に行くかの選択制のコースがあり、野球なんてわからない!とミュージカルにしたら、急遽何らかの事情でミュージカルが観劇不可になり劇団四季のキャッツに変更され、今のように即時に手に入れられる情報も少ない時代だった中の当時でも、何かすごいやつが観れるということには気付き、かなりわくわくしたこと。

大型バスから降り、制服姿で入り口にぞろぞろ向かう私達を見ながら、知らないお姉さんが二人『えー?修学旅行?』『まさか!修学旅行でキャッツ来るわけ無いじゃん!』と会話しているのを聞き、神妙な顔で横を通り過ぎながら、このお姉さんたちも特別な思いでここに来てるんだろうなあ、すみません、でもそのまさかの修学旅行です…と思ったのをよく覚えているのは、きっとこのお姉さん達には二度と会わないだろうし真実を伝える機会も無いのだろうなと印象付いたから。もちろんそのお姉さん達がここを読む確率は非常に低いわけですが、まさか30年以上たってこの些細な真実を伝える小さな小さな可能性が訪れるなどとは、なんて、大げさですけどね。

ストーリーはざっくりとした感じでしか覚えていないのですが、東北の田舎娘が生まれて初めて接するミュージカルとしては視覚から入る景色がかなり衝撃のハイレベルでした。作りこまれた舞台、暗さも光も活かした照明、猫の姿の役者さんが客席を風のように駆け抜けて行き、こんな近さでいいの?こんな凄い世界があるの?とドキドキしたこと、この光景は二度と観られないかもしれない、忘れたくない、と思った瞬間に見えていた視界に心のシャッターを切ったこと、素直な感動に動かされて、メモリーという曲が気に入り後に自分のお小遣いでオルゴールを買ったこと。


当時は自分の目の前にある感動にただただ浸りました。修学旅行でこんな凄いの観ていいの?知らなかった世界を観れて嬉しい!という気持ちはありましたが、裏に居る人に思いを馳せることなどありませんでした。

大人になって、どんな事にもそれを作り上げるために頑張った人の貢献があるんだなと気付いてから、心の中でありがとうと感謝するようになりましたが、改めてこの機会に浅利さんの熱い思いやどう頑張ってきたのかを知る機会を得て、この方とたくさんの方々がキャッツに関わってあれだけ素晴らしいものが出来上がったのだなあと、ありがたく思いながら私の思い出に新しい厚みができた気持ちです。


少し、思い出を語らせていただきました。

感謝と共に、ご冥福をお祈りいたします。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?