フリーゲーム「箱庭ドールメーカー」制作後記
はじめに
この記事は、第16回WOLF RPGエディターコンテストに出展したフリーゲーム「箱庭ドールメーカー」の制作後記です。
この記事を書いている今は6月の半ばで、ウディコンエントリーまで1か月ほどの暇があります。なんでこんなものを書いているかというとテストプレイに飽きたからというのが理由の半分なのですが、もう半分はこのゲームをプレイいただいた皆さんに背景を含めてゲームをより味わっていただけるようにというモチベーションのもとで綴っていきたいと思います。
「箱庭フロンティア」というゲームについて
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、私はフリーゲーム「箱庭フロンティア」の作者です。
このゲームは第8回ウディコンにて総合2位をいただきました。ついこの間のような気がしますが、気づいたらこのゲームから8年も経っていてビビります。
箱庭フロンティアは「ボードゲーム×ローグライクRPG」を標榜しており、箱庭ドールメーカーと同じく、すごろく風のマップ上をダイスを振って冒険していくゲームです。
残りターン数がゼロになるまでに最深層のクリスタルにたどり着けばクリアですが、頻繁に敵とエンカウントするため、敵を倒しながら進んでいかなくてはなりません。
攻略の鍵は、マップに配置される宝箱などで入手できるスキルです。スキルには全て使用可能回数が設定されており、使い切るとなくなってしまうため、いかに宝箱のマスに止まって強力なスキルを獲得するかがポイントとなります。
また、階層が進むたびに敵がどんどん強くなっていくため、積極的に敵と戦ってキャラクターを強化していかないと詰みます。
スキルの残り回数のカツカツさの中でうまく戦闘をこなして先に進んでいくところが、このゲームに「ローグライク」という看板をつけたゆえんであり、魅力のひとつです(これをローグライクとは言わないだろ!という突っ込みは何度かいただいているところですが…)。
そんな感じで、箱庭フロンティアでは最深層を目指して何度もゲームを繰り返すことになるのですが、このゲームの最大の特徴は、クリアしたキャラクターを記録として登録することができることです。
登録したキャラクターたちでパーティを組んで探索と呼ばれる戦闘をクリアすることで、新たなマップを入手することができます。
ローグライクパートの結果が探索パート=新しいマップの獲得につながることで、普通のローグライクゲームにはない「ただクリアするだけではなくて、より強いキャラクターを残す必要がある」という独特のプレイ感につながっています。
なお、キャラクターの能力値は数値だけでなく、アルファベットによる評価値によっても表現されています。これはもちろん某野球ゲーから着想を得ているところですが、「ローグライク」だけでなく「育成」を強く意識していることの表れです。
箱庭フロンティアでの積み残し
さて、そんな箱庭フロンティアは、ウディコンで熱中度1位・総合2位というありがたい評価をいただき、たくさんの方に遊んでいただくことができましたが、個人的には納得のいっていない箇所がいくつもありました。
シナリオの弱さ
もともと私のゲームはシナリオが適当という傾向が強いですが、箱庭フロンティアはそれに輪をかけて雑なシナリオでした。
というか、シナリオ自体存在しないので、世界観と雰囲気といった方が正しいかもしれません。ウディコンには物語性という評価項目があり、当然ながらこの項目ではあまり良い評価はいただけなかったのですが、プレイヤーのゲームプレイを牽引するドライバとして、やっぱりシナリオは必要だなと感じた次第です。
特殊能力の作り込みの甘さ
箱庭フロンティアにはいわゆるパッシブスキルである特殊能力という概念がありますが、獲得方法がイマイチだったり、スキルと同じ枠での管理なので、枠がオーバーすると真っ先に捨てられたりと、作り込みの甘さが目立ちました。
バランスの単純さ
箱庭フロンティアには職業という概念があり、職業ごとにパラメータの成長率が異なるという特徴がありました。一方で、職業は違えど利用できるスキルは変わらないなど、職業ごとの違いがあまり目立ちませんでした。また、パラメータのつくりも単純だったため、「素早さと攻撃を上げて殴られる前にワンパン!」みたいなプレイ感が常に最適解になってしまいがちでした。
「探索」パートのオマケ感
上述のとおり、箱庭フロンティアではローグライクパートで育成したキャラクターを使って探索パートを攻略していくことになります。
しかし、肝心の探索パートはいくつかあるステージで戦闘を何回か繰り返すだけという単純な内容で、育成したキャラクターの強さを試す場としては最低限機能してはいましたが、若干物足りなさが残るところではありました。
また、スキルが残り回数制というシステムを採っていた都合で、強力なスキルを温存したままクリアしたキャラを使って探索パートでブッパするだけみたいなバランスになってしまいがちだったのも悔いの残るところです。
新ジャンル「育成ローグライク」?
さて、前置きが長くなりすぎましたが、それでも私は箱庭フロンティアというゲームについて、すごろくとローグライクと育成という3つのジャンルを掛け合わせたベースシステムの部分はわりと気に入っていました。
私の過去作品をプレイした方はご存知かもしれませんが、私のゲームには「育成」と「ローグライク」の要素がかなりの確率で含まれています。それは私が単純にパワプロと不思議のダンジョンが好きだったからなのですが、パワプロをやっていると思うのですよね、「あれ、これってローグライクと相性良いんじゃない?」と。
あまりローグライクと連呼すると原理主義者に背後から刺されそうですが、私が思うに「ローグライク的なもの」には、最低でも以下の要素が必要だと思っています
※本来の語義からは外れた解釈であることは承知していますが、ご容赦ください。
パワプロのような終わりのある育成ゲームというのは意外とこれに近い性質を持っていて、「限られた行動回数の中で、いかに効率良く育成するか」というのと「基本的にやり直しはできない」というあたりに、ローグライクとの親和性の高さを感じていました。
そんなわけで、パワプロのような育成ゲームの面白さをローグライクRPGの舞台で表現したい!という想いから生まれたのが箱庭フロンティアというゲームでした。
「育成ローグライク」というのは、せっかく自分が好きなジャンル同士をかけ合わせて開拓したジャンルでもあり、かつ箱庭フロンティアには思い残しがある状態だったので、もう少し掘り下げてみたいという思いはあったものの、なかなかきっかけがないまま時間だけが経っていました。
ウマ娘との出会い
そんなふうにリメイクに対して二の足を踏んでいた私でしたが、2021年のゴールデンウィークにとあるゲームと出会います。
それが、社会現象にまでなった育成ゲーム「ウマ娘 プリティーダービー」でした。
結局パワプロやん!という感じですが、しばらくサクセスとはご無沙汰だった私は久々に出会ったこの手の育成ゲームにゴールデンウィークを溶かしてしまい、触発されるような形で「よし!やったろ!」という軽いノリで制作に着手しました。
制作にあたって、最初から決めていたことがいくつかありました。
これらの基本方針をもとに、システム構築に着手しました。
ちらつく箱庭フロンティアの影と迷走
ゲーム制作というものは初期のアイデアがそのまま形になるということはまずなくて、頭の中で「これ面白そう!」と思っていたシステムでもいざ形にしてみると「なんかイマイチ…」となって作り直しを余儀なくされることがざらにあります。
箱庭ドールメーカーも決して楽に作れたゲームということではなく、かなり迷走したゲームでした。
一番の苦労は、上で掲げた基本方針のうち「パーティを取り入れる」というものでした。
当初は、箱庭フロンティアのシステムを踏襲して、
という形で進めていたのですが、特に後者の「スキルは使用回数制限あり」という概念と、パーティ制を共存させるのは困難でした。
ドールの育成を行うフィールドマップでは、目的は「いかに強いドールを育成するか」というポイントに尽きるため、スキルを使用回数制にしてしまうと、育成しているドールのスキルは一切使わずに、他の(育成対象ではない)パーティメンバーがスキルを使って敵を倒すというプレイ感になってしまったのです。
前作の箱庭フロンティアでも、強いスキルは温存する傾向がありましたが、あちらはソロプレイだったので全くスキルを使わないというわけにもいかず、うまくバランスが取れていました。しかし、今作でパーティを取り入れたことにより、このバランスが完全に崩壊してしまったのです。
さらに、育成したドールで冒険を行うダンジョンマップでも、スキルの使用回数制は相性が良くありませんでした。
前作でも課題に感じていたことですが、使用回数制にしてしまうと、ダンジョンマップでは、強いスキルを温存していたキャラがそれをブッパして突破するだけというプレイ感になってしまいました。これでは戦闘に駆け引きも何もありません。
結局、スキルの使用回数制は廃止せざるを得ませんでした。
デッキ構築型ローグライクとの出会い
戦闘周りでパーティ制とローグライクのバランスを取るのに苦戦して迷走を繰り返しているとき、完全にたまたまなのですが、私はデッキ構築型ローグライクというものに出会いました。「Slay the Spire」が世に出た時期を考えるとだいぶ遅いタイミングの出会いですが、コレがなかったらたぶん箱庭ドールメーカーというゲームは座礁して終わっていたことでしょう。
デッキ構築型ローグライクは私が語るまでもありませんが、カードデッキを組み上げながら進んでいくタイプのローグライクです。
STSを面白いゲームたらしめている要素はいくつもありますが、中でも私が「これは!」と思って飛びついたのは、「カードデッキの中からカードがランダムに手札に並ぶ」というポイントでした。
スキルの使用回数制を廃止するのは良いとしても、スキルに何らかの使用制限がないと、ただ単に強いスキルを使い続けるだけのゲームになってしまいます。その使用制限というポイントに、デッキ構築型ローグライクの発想がハマると気づきました。
それまで私のイメージするローグライクと言えば、リソース管理要素はあっても、場面場面で持っているリソースの一部だけが手札に並ぶなんてことは考えたことがありませんでした。
しかし考えてみれば、ローグライクというのは常に「示された選択肢の中から最善と思われるものを選ぶ」ことの繰り返しです。カードゲームと相性が良いのは当たり前でした。
手札のランダム化というのは本当に面白い仕組みで、どんなに素晴らしいスキルを入手したしても、回ってくる手札はランダムなので、その時々で最適な選択肢が変わります。
ゲームをつまらなくしてしまう「単一の最適解」(=RPGでたくさんスキルはあるけど、強力なひとつのスキルをブッパしていれば良くて他のスキルはいらない)という問題を、手札のランダム化によって解決できてしまうのですね。欲しいときにスキルが都合よく手札に回ってくるとも限らないので、そんな状況の中で少しでもマシな選択肢を取るよう考え続けることが要求されます。
そんなわけで、最初から自分で考えて組み込んだ要素ではなかったというのが若干残念ですが、迷走の後、巨人の肩に乗るような形で、箱庭ドールメーカーはデッキ構築型ローグライクの要素を取り入れて再出発することになりました。
ちなみに、スキルの使用回数制を取っていた頃の箱庭ドールメーカーではCTB方式の戦闘を採用していましたが、デッキ構築要素の導入にあわせて、今のAPによるSTSライクな戦闘システムに変更しました。
AP方式はターン方式とCTB方式の間の子といった感じで、スキル使用にはAPを消費する一方で、APがある限り1ターンの間に何度でも行動できます。STSをはじめとする多くのデッキ構築型ローグライクでは、このAPに相当する「行動回数」は基本的に固定値となっていますが、箱庭ドールメーカーではRPG要素と両立させるため、行動力=素早さのパラメータに応じてAPが貯まる方式としました。
手札のランダム化という要素には必ずしもAP方式が必須というわけではないので、いま思えばCTB方式でも成立はしたと思いますが、やはりパーティ戦闘になってくるとタイムラインが見づらくなって状況判断に時間がかかるので、そういう意味でもAP方式の方がシンプルで良かったかなと思っています。
世界観の決め方
システムの話ばかりしていると頭が痛くなってしまうので、ここで箱庭ドールメーカーの世界観について触れたいと思います。
箱庭ドールメーカーの世界観の中で、真っ先に決めたのは「ドール」の概念でした。
「何か」を育成するというコアコンセプトの都合で、その「何か」が人間なのか魔物なのかを決める必要がありました。ただ、人間にしてしまうと「今作はシナリオをちゃんとやる!」と決めた以上、パーティメンバーたちの会話がないのは不自然なので相当量のテキストを用意せざるを得なくなり、それは開発量的に不可能(シナリオやると言っておいて早速矛盾してますが…)と判断したため、何か喋らないヤツにしよう!ということになりました。
魔物でも良かったのですが、ゆるドラシルさんが素晴らしい立ち絵素材を大量に提供してくれていることを覚えていて、使ってみたかったので、今回は人型のドールで!ということになりました。
そんなわけで、「ドールを育成する」というコンセプトや「ドールが喋らない」という設定は、そういったシナリオや世界観がベースにあったというより、開発量や素材の都合で決まっていったのですね。
フィールドマップとダンジョンマップの両立の難しさ
ところで、箱庭ドールメーカーをマクロな視点で見たときのコアシステムは、「フィールドマップでの育成」と「育成したドールを使ったダンジョンマップの攻略」のループです。
さらに、ダンジョンマップを単に「新たなフィールドマップを入手するための場所」として位置付けてしまうと、繰り返し潜る理由がなくなってしまって面白くないので、フィールドマップでより強いドールを育成するための「衣装」と「リル(お金)」を獲得できる場所という性格をダンジョンマップに持たせました。
この2つの要素が互いにループすることでゲームプレイが進んでいくのが箱庭ドールメーカーの独特なところですが、いかんせん独特なシステムであるだけに、フィールドマップとダンジョンマップのバランスを取るのには苦戦しました。
今でこそ、育成前のドールのカスタマイズは「衣装」という要素に、育成前のドールの強化は「素質を磨く」という要素にシンプルにまとめられていますが、制作途中ではいくつもの案が浮上しては消えてきました。
たとえば、装備は今はドールごと固定で、「剣」「短剣」「銃」など種類のみの概念となっていますが、初期案では「○○の剣」「△△の剣」など着脱可能なアイテムという概念でしたし、ダンジョンで素材を収集して装備を作成するという要素が存在していたりしました。
もともと、「育成したドールでダンジョンマップを攻略する」というのは、フィールドマップと違ってドールが成長するわけでもなくモチベーションが薄くなりがちという問題意識があったので、素材集めと装備作りという要素がダンジョン探索の目標として機能するんじゃないかという狙いがあったのですね。
しかしこれは、装備自体にパラメータを持たせてしまうと、装備の強化とドールの育成という要素が競合してしまい、本来目立たせたい「育成」の要素の邪魔になってしまうということで、結局削除することになりました。
着脱可能な装備の廃止に伴い、その代わりを務めることになったのが、今の「衣装」の概念です。
衣装は普通のRPGにおける装備と比べると若干薄味な要素になっていますが、フィールドマップでの育成が主体のゲームとしては、このくらいでちょうどいいのかもしれません。
このように、フィールドマップとダンジョンマップという2つの異なるゲームプレイをひとつのゲームの中に内包しつつ、どちらの要素も破綻しないようにシステムを構築するというのは案外難しいものでした。
状態スロットの誕生
少し視点を変えて、戦闘の話をします。
箱庭ドールメーカーの戦闘システムを支える重要な要素のひとつが、状態スロットの概念です。
デッキ構築型ローグライクの要素を取り込んだ際、困ったのは状態異常の取扱いでした。
STSをはじめとするデッキ構築型ローグライクでは、バフ・デバフは無制限に重ねがけができるシステムとなっており、たとえばダメージを軽減するバフである「ブロック」を2倍にするカードと、そのブロック値の分だけダメージを与えるカードを組み合わせて戦えるなど、カード同士のシナジーを高めるための要素として機能していました。
箱庭ドールメーカーでは、デッキ構築型ローグライクの要素に加えて、RPGの要素(=攻撃力や防御力などパラメータの概念)やパーティシステムが存在するため、状態異常を無制限に重ねがけ可能としてしまうと、数値がインフレして破綻するのは目に見えていました。一方で、重ねがけを全く無効にしてしまうと、デバフやバフの価値が損なわれてしまうとも思っていました。
そこで取り入れたのが状態スロットの概念です。
状態異常ひとつあたり1スロットという扱いにし、「重ねがけはできるけど、全部の状態をあわせて5個までしか付与できない」という仕組みにしました。
これにより、状態異常の重ねがけによる戦闘のダイナミックさと、無限重ねがけによるインフレの防止を両立しています。
さらに、バフ・デバフでスロットを共有することで、たとえば味方に付与されたデバフの状態スロットをバフの状態スロットで押し出して解除したり、敵に付与された強力なバフの状態スロットをデバフの状態スロットで押し出して解除したりできるなど、状態スロットの奪い合いという別の方面での戦略性も生まれました。
状態スロットはこのゲームの中でも特に気に入っているシステムのひとつです。
ステータスとダメージ計算式
地味な話が続きますがご容赦ください。
箱庭ドールメーカーでのこだわりポイントのひとつとして、ステータスとダメージ計算式があります。
基礎パラメータと算出パラメータ
ステータスについては、私の制作したゲームの中で初めて、「生命力」や「力」などの育成中に直接上昇させられる「基礎パラメータ」と、戦闘中に実際にダメージ計算に利用される攻撃力や防御力などの「算出パラメータ」を分離することにしました。
攻撃力は、たとえば剣の場合は、
で算出されていますが、銃の場合は
で算出されるといったように、装備によって算出パラメータに利用される基礎パラメータが異なるようになっています。
箱庭フロンティアでは基礎パラメータ=算出パラメータとなっていたため、どの職業でもだいたい攻撃力と素早さを上げて~みたいなプレイ感になってしまっていましたが、箱庭ドールメーカーでは装備によって上げるべきパラメータが変わるため、「とりあえず攻撃力をあげておけばいいよね~」というプレイ感からの脱出を図っています。結局素早さが最優先になるのは箱庭フロンティアと一緒でしたけど。
ダメージがゼロにならないダメージ計算式
次にダメージ計算式について。
これもまた、今までの私のゲームでは、いわゆるドラクエ式のダメージ計算式
を採用することが多かったのですが、このダメージ計算式でやはり、防御力が一定以上のときにダメージがゼロになってしまうという問題意識がありました。
RPGの戦闘においてダメージゼロというのは、
という緊張感がなくなってつまらなくなる要因ですので、次こそ避けたいという思いがありました。
結論から言うと、今作では除算型のダメージ計算式を採用しています。
すなわち、
という数式です(実際にはもっと色んな細かい変数が組み込まれています)。
除算型のダメージ計算式の特徴は、防御力が上昇してもダメージがゼロにならない(防御力上昇によるダメージの減少幅が緩やかなカーブを描く)ことです。
一方で、除算型のダメージ計算式というのは、要は「一定以上防御力を上げてもほとんどダメージ減らないよ!」という、防御力の価値を下げる計算式です。この場合、「何発まで攻撃を耐えられるか」という観点で考えると、「一定以上は防御力よりもHPの方が価値が高い」ということになりがちです。
これは、箱庭ドールメーカーのような自由にパラメータを割り振れる育成ゲームでは深刻な問題です。
一般的なプレイヤーはダメージ計算式のことまで考えてパラメータを上げたりしませんから、
となってしまうのは避けたいところです(それなら最初から頑丈さなんてパラメータいらないじゃん!という話になってしまいます)。
そのため、箱庭ドールメーカーでは、最大HPの算出式に生命力だけでなく頑丈さも組み込んでおり、耐久力という意味では、生命力と頑丈さという2つのパラメータがともに同じくらいの効果を持つように調整しています。
つまり、生命力を上げた場合と、頑丈さを上げた場合とで、「同じ攻撃を受けたときに何発まで耐えられるか」という耐久回数に大きな差が出ないようにしてあります。
初期のウマ娘では「根性」が半分死にステになってしまっていましたが、育成ゲームにおいては、相当ゲームに詳しくないと判別できない死にステというのは避けなくてはならないと思っています。
育成にリスクとリターンをもたらす仕掛け
今作のフィールドマップでの育成にリスク・リターンの大きな波をもたらしているのは、戦闘における「キャリーオーバー」の仕組みです。
実はこれもたまたま「ルフランの地下迷宮と魔女ノ旅団」をプレイしているときに、「これいいじゃん!」と思って輸入した仕掛けだったりするのですが、通常であれば戦闘で得た経験値をそのままドールのパラメータ成長に使うところ、最大で3回まで、キャリーオーバーすることで得られる経験値にボーナスがつくという仕組みです。
箱庭フロンティア・箱庭ドールメーカーにはもともと「強い代わりに倒すとたくさん経験値がもらえる」という敵シンボルの概念が存在していましたが、キャリーオーバーと組み合わさることで、「できるだけ最大回数までキャリーオーバーした状態で敵シンボルを倒して大量のボーナスを獲得したい!」という誘引が働くようになり、ゲームプレイの味わいが増しました。
今作で一番アドレナリンが出るのは、強力かつ滅多に出現しないフィールドエネミーをキャリーオーバーMAXの状態でギリギリで倒しきって、大量の経験値を入手したときでしょう。
また、キャリーオーバー中は経験値が得られないので、一時的にドールの成長が遅れることに加えて、フィールドマップでは休憩ができないという仕組みになっているため、戦闘で不利になるリスクが高まります。そういったリスク・リターンの駆け引きを生むことができた点も良かったと思います。
武器とスキルの設計
さて、今作の戦闘の駆け引きの中核を担っているのが、武器とスキルの設計です。
武器については、剣・短剣・銃・杖・扇・盾の6種類を用意し、武器の種類ごとに使えるスキルが変わるようにしました。武器ごとにスキルが変わるのは開発量的には覚悟が必要でしたが、ドールごとの個性をはっきりさせるためには絶対に必要だと判断しました。
味方が使えるスキルのボリュームは、ver1.0.0時点で、全体で144個です。共通スキルなどの重複も含めると、ひとつの武器でだいたい40~50個くらいのスキルが使えるようになっています。実装はかなりしんどかったですが、スキルの効果も結構ていねいに作ったので、やっただけの価値はあったかなと思います。
なお、それぞれの武器の位置付けは次のとおりです。
「銃」というファンタジーにしてはやや変わった武器が入ったのは、私がパワポケ12の裏サクセス「秘密結社編」が大好きだったからです。状態スロットとの相性も良く、今作で特徴的な武器のひとつになったのではないでしょうか。
逆にスキル作りに苦労したのは剣と杖でした。
剣はオーソドックスすぎて逆に短剣や扇や盾のようにトリッキーなスキルが仕込みづらく、ボリュームを増やすのに苦労しました。
また、杖は「魔法が使える」というふわっとしたコンセプトしかなかったため、スキルの種類に軸がなくて最後まで悩みました。最終的には属性エレメントのスロットを消費して強力なスキルを発動できるという銃とやや似た位置付けの武器となりましたが、いかがだったでしょうか。
武器とスキルによる個性付けは、完璧とはいかずとも割と満足の行く仕上がりにはなりました。
今作ではドールが18体登場しますが、基本的にどのドールを使ってもめちゃくちゃ不利になるということはありません。
また、武器ごと組み合わせの相性はあるにしても、特定の武器が飛び抜けて強すぎる・弱すぎるといった性能差もありません。
かといって、どのドール・どの武器を使ってもプレイ感が似たりよったりかというと決してそんなことはなく、アタッカー・バフ・デバフ・タンクと構成はベーシックながら役割はかなりはっきりと分かれているので、戦術を試行錯誤する楽しみも創出できたかと思います。
このゲーム、システムのコアはフィールドでのドール育成と、育成したドールを使ったダンジョンの攻略ですが、中身は「フィールドでもダンジョンでもとにかく戦闘して戦闘して戦闘!」みたいなプレイ感なので、戦闘の出来栄えがそのままゲームとしての評価に大きく影響します。
結果、個々のスキルのバランス調整が甘くて破綻してしまったようなケースはいくつかありましたが、全体としては満足の行く出来となりました。
ウディコンでのリリースを経て…
ここから先はウディコンにて公開後、プレイいただいた皆さんの反応をもとに綴っています。
今作は公開するまで、進捗はおろか作っているということさえ伏せており、テストプレイも自分でしかやっていなくて、かつ久々のリリースだったのでなかなか不安ではあったのですが、ありがたいことに公開直後から面白いといった感想をたくさんいただきました。
私のゲームはだいたいクリアまで10時間+α程度に収まることが多いのですが、今作では20時間〜遊んでくださる方が非常に多くて恐縮しています。
ウディコンという多くの作品が並ぶお祭りにおいて、限られた審査期間の中で、貴重な時間を割いてプレイいただいた皆様には感謝しています!
ウディコン優勝!!
さて、そんな箱庭ドールメーカーは、ありがたいことになんと第16回ウディコンで第1位という評価をいただきました。
コンテストでの評価とゲームの価値は別物だと思っていますが、それでもウディコンというのは(恐らく多くのウディタユーザーにとってそうであるように)私にとって特別な意味を持つコンテストであり、その場でこれだけ評価をいただけたというのは本当に嬉しいことです。
また、個人的にとても嬉しかったのが、プレイ時間が公称で10時間以上、遊んでいただいた方の感想からは20時間・30時間といった長丁場のプレイが想定される長編でありながら、多くの方に手にとっていただき、1位という評価をいただけたことです。
調べてみたところ、公称10時間以上の長編がウディコンで優勝したのは、第4回の「悠遠物語」以来、12年ぶりの出来事のようです。
ウディコンは、平均点や中央値に加えて、投票者の合計点もポイント化されて順位に影響することから、多くの作品が並ぶ中、手に取るためのハードルが高い長編は相対的に不利と思われていました。
私自身、ウディタを使い始めた学生時代とは異なり、社会人となった今ではゲームを作るにも遊ぶにも、時間の貴重さを感じているところです。
さらに、ゲームでも・ゲーム以外でも多くのコンテンツが世の中に溢れる時代でありながら、私の作ったゲームに多くの方が大切な時間を注ぎ込んでくださり、高い評価をいただいたのは、本当にありがたく、嬉しいことです。
箱庭フロンティアとの比較
さて、ここからはウディコンでの箱庭フロンティアと箱庭ドールメーカーの評価点の比較になります。
得点は箱庭ドールメーカーが上位となりました。とはいえ、箱庭フロンティアは物語性に大きな穴が空いていて、それを除くとどっこいどっこいなので、ウディコンでは評価項目全てでバランス良く得点できるゲームが強いということがよく分かりますね。
平均点では、遊びやすさを除いて箱庭ドールメーカーが上位となりました。
箱庭ドールメーカーがその他の加点を多めにいただいたのは長編補正でしょうかね…。ありがとうございます。
合計点では物語性とその他以外は箱庭フロンティアが上位となっています。
当時も呟きましたが、箱庭フロンティア、穴の空いていた物語性も含めて全評価項目で合計点1位を獲得しているのですよね…。ものすごくたくさんの人に遊んでいただいた証左だと思います。
以上のように、合計点で稼いでいた箱庭フロンティアを、平均点と中央値で稼いだ箱庭ドールメーカーが上回る格好となりました。
とはいえ、箱庭ドールメーカーも合計点のランクが全て上位5位には入っているわけで、これだけの長編を遊んでくださる方がたくさんいるというあたり、ウディコンはプレイヤーの熟練度も半端じゃなく高いということをよく思い知らされますね。
今後の展開は…どうしようか
さて、ありがたいことに大変評価いただいた箱庭ドールメーカーでしたが、長編を作ってみて、改めて難しさを痛感しました。
哲学みたいな話になってしまいますが、RPGという「ひとつの物語が進んでいって、いつか終わりにたどり着く」というタイプのゲームでは、「終わりまでたどり着けないと不満が残る」「かといって終わりにたどり着いたら、そこでゲームが終わってしまう(もっと遊びたかったのに…)」といったように、終わったときのプレイ体験に問題が出てしまいがちなのですよね。
一方で、デッキ構築型ローグライクは「プレイするたびに状況が変わって、満足の行くまで何度でも繰り返しプレイできる」というタイプのゲームです。
RPGとデッキ構築要素を両立させるためには、「何度も繰り返しプレイできる」要素(今作ではフィールドマップ)が活かせるように、RPG的なコンテンツ(今作ではダンジョンマップ)を相当のボリュームで用意せざるを得ず、結果として全体のボリュームが増えてしまったという問題がありました(本来このあたりはエンドコンテンツで調整するところだったかもしれません)。
歳を重ねて時間の大切さを重く感じるようになるにつれ、長編RPGというコンテンツでプレイヤーに有無を言わさず時間消費の圧力をかけてしまうのは、時代の流れ的にも、私自身の考え方的にも、厳しいなと感じてきているところです。
その点、箱庭フロンティアというゲームは「1プレイだけなら30分くらいでできるよ! もっとやりたければご自由に!」というスタンスを取っており、色々荒削りではありましたが、箱庭ドールメーカーよりはユーザフレンドリーだったように思います。そのあたりの評価が、ウディコンの「遊びやすさ」の得点にも出ていたのかもしれません。
そんな思いもあり、もし次に何か作るとしたら、「どこまで遊べば終わりなのか」という遊び方をプレイヤー自身の満足感に委ねることができるような、周回型のゲームにしたいなと漠然と思っています。
また、デッキ構築型ローグライクは今回が初めての挑戦だったこともあり、「手札のランダム化」というシンプルな要素だけでこれだけゲームを面白くできるんだという気づきもあったことから、もう少し深堀りしてみたいなという思いもあるところです。
気まぐれ制作なのでこの先の進路は不明ですが、またしれっと新作を出したりするかもしれませんので、引き続きよろしくお願いします。
最後に、このゲームを制作するにあたって素晴らしい素材を提供してくださった素材制作者の皆様と、そして私がゲーム制作をはじめたきっかけでもあるゲーム制作ツール「WOLF RPGエディター」を開発・提供いただくとともに、フリーゲーム制作者・プレイヤー双方にとって特別な素晴らしいゲームコンテストである「WOLF RPGエディターコンテスト」を主催してくださっているSmokingWOLF様に最大限の感謝をいたします。
ありがとうございました!!