【大食い番組の終焉と競技フードファイト】2023年5月8日

 「魔女菅原」の愛称でテレビ東京「TVチャンピオン」などの大食い番組で活躍してきた菅原初代さんが大腸がんで亡くなった。59歳という若さだった。自分はこのフードバトル系の番組が大好きだったので、ちょっとばかりその魅力を語り、菅原さんへの供養にしたいと思う。

 大食い番組の元祖は1989年に放送されたテレビ東京の「全国大食い選手権」と言われている。その後「TVチャンピオン」として様々な競技を行う番組の中に組み込まれ、定期的に「大食い選手権」を開催。赤阪尊子、中嶋広文、岸義行、そして第一世代の代表と言われた新井和響が活躍した。
 2000年には草彅剛主演で「フードファイト」というドラマが作られるほどのブームとなった。

 大食い人気が最高潮になったのは2001年にTBSが放送した「フードバトルクラブ第一回大会」のときだろう。第一世代を中心に、世界中のフードファイターがゲストで招かれたこの大会は、フードファイター第一世代の代表と言われた岸義行、赤阪尊子、新井和響が次々に破れるという大波乱。テレビ東京の大食い選手権とは違い、ピリピリしたリアルな競技然としたフードバトルとなった。そこで頭角を表したのが当時無名の小林尊。細身のイケメンである彼が、第一世代を次々と破るというドラマのような展開で決勝に進出。のちに第二世代と呼ばれる高橋信也、立石将弘とともに決勝戦に進出。圧倒的なスピードでリードを広げると高橋、立石がリタイヤ寸前にもかかわらず、自分との戦いと言わんばかりに勢いよく食べ続け、圧勝。最終決戦の食材であるラーメンは後のフードバトル系の番組での決勝での食材として定番化した。

 この番組の視聴率の高さに気を良くしたTBSは半年後に第2回大会、そのさらに3カ月後に第3回大会、さらにその3カ月後に第4回大会が開催され、ジャイアント白田こと白田信幸がすべての大会で優勝。小林尊は常に2位に甘んじたが、この2人を中心とした「新世代フードファイター」が席巻した。しかし、TBSはこの2人に対し他局番組への出演を禁じ、取り込みを計ったことで小林尊が反発。新世代(のちの第二世代)を中心としたFFA(フード・ファイター・アソシエイション)を設立。フードファイターの権利を守る動きを見せた。

 この動きは日本での本格的なフードファイトの始まりであり、小林、白田は職業フードファイターとして最初の成功者となるはずだった。しかしここで大事件が起こる。

 2002年に番組を真似して早食い競争を行った中学生が食材を喉に詰まらせて死亡。これをきっかけにすべてのテレビ局が大食い番組を自粛。それによってフードファイターたちはメディアに出ることもできなくなったのである。

 活動のいっさいが停止となったFFAは自然消滅となったため、小林尊は活躍の舞台を米国に移し「ネイサンズ国際ホットドッグ早食い選手権」に出場。初出場で優勝し、そこから6連覇という偉業を達成。アメリカで一番有名な日本人となる。ジャイアント白田はフードファイターをすっぱりと辞めてアルバイトをしながら生計を立てるが、あまりに大きくなった胃袋を満たすことができず悩める数年を過ごす。

 2005年に「元祖!大食い王決定戦」が復活。ジャイアント白田ら第二世代も参加するが、3年のブランクは大きく、優勝したもののキングと呼ばれた山本卓弥をはじめとした新世代の猛追を受ける。また現在もタレントとして有名なギャル曽根、そして最強の女性フードファイター魔女菅原が登場。さらに番組史上最強との呼び声高い木下智弘が大食い番組を席巻した。ギャル曽根や魔女菅原に触発された女性陣の活躍が著しくなった時期でもあり、ロシアン佐藤、アンジェラ佐藤、もえあず、木下ゆうか、三宅智子といった現在もYouTubeなどで活躍するメンバーが登場。さらには現在日本最強のフードファイターであるマックス鈴木もこの頃から活躍。もっとも多くのタレントが揃う第三世代を構成。

 TVチャンピオンは第三世代の勢いを世界に目を向けさせようと2014年からは「大食い世界一決定戦」を開催。しかし、米国最強の女性フードファイターであるモリー・スカイラーによってアンジェラ佐藤、キング山本、魔女菅原、マックス鈴木が次々に敗れ、日本のフードファイターのレベルの低さが露見。逆にモリー・スカイラーが一度も勝つことのできなかった小林尊の凄さが引き立つ結果となり、この頃から急速にフードファイト系の番組の視聴率が低下していく。

 そんな閉塞感のあったフードファイト系番組を復活させたのが2017年に登場した小野かこ、あこの「はらぺこツインズ」を中心とする女性フードファイター。特にYouTuberとしても活躍する海老原まよい、ますぶちさちよ、谷あさこ、三年食太郎などが頭角を表した。また現在「らすかる」の名前でネットで活動を行なっている、らすかる新井がこの世代の男性代表。「元祖!大食い王決定戦」を盛り上げるとともにYouTubeを中心に人気が爆発している。ただ、やはり競技フードファイトの色はどんどん薄くなってきているような状況だ。

 数年前より米国中心で日本の番組への出演を拒否してきた小林尊が戻ってきており、フードファイト番組へのゲスト出演や解説などをおこなっている。マックス鈴木を中心に、小林尊のような本格派のフードファイターへの憧れを持つ人も増えてきており、プロレス化したやらせ番組である「元祖!大食い王決定戦」だけでなく、「フードバトルクラブ」レベルの本格的なフードファイトを求める声も大きくなってきている。

 そして、いまネットを中心に第五世代が登場しつつあるが、人が変わっただけで同じことの繰り返しになっている。小林尊のような人物は出てきていない。このまま「大食い」は、テレビ東京だけの小さな世界を守っていくか、フードファイトの本場である米国への進出を視野に国内でも競技フードファイトを盛り上げていくか。注目だ。

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