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【勝手に応援シリーズ】atama+

筆者は教育業界に勤めていまして、最近もっとも耳にするサービスが、atama+(アタマプラス)[atama plus株式会社、代表取締役 : 稲田大輔 氏)]というAIを用いた学習システムです。
今回は、atama+とはどんなサービスなのかをまとめながら、その良さを考えていきたいと思います。

1.atama+のサービス概要

atama+は、学習者の学習履歴と、これまでの膨大な学習データから、その人にあった学習カリキュラムをAIが作り出すという学習システムです。
学習者の学年に関係なく、苦手な箇所であれば学年を遡って学習単元がオススメされるようになっています。

<提供科目>
高校 :数学、英語、物理、化学
中学校:数学、英語、理科
小学校:算数(2021年2月5日よりリリース開始)

<他のe-ラーニングとの違い(1):カリキュラムのオススメ方法>
e-ラーニングと一言に言っても、様々な形のサービスがあります。特に「弱点を見極めてオススメします」という売り文句はどのサービスでもありますが、サービスによって弱点の導き出し方が異なります。

○弱点は誰が見極めるのか(AI vs 人の経験)
ここでは、算数・数学を念頭におきながらお話をします。算数・数学とは積み重ねの学習です。前にやった単元の考え方を元に次の単元が組み立てられていることが多い教科です。
ある単元で学習者がある問題を間違えたとします。考えられる原因は、大きく分けて3つあります。

A.単なる計算間違い
B.その単元自体が理解できていない
C.その単元を理解するための、下地となる他の単元が理解できていない

e-ラーニングでは、ある間違えに対して、次にどの単元をオススメするのかということについて、今まで多くの学習者を指導してきた方の経験を元に学習シナリオを作るパターンと、AIにその原因を判断させて次にやる単元をオススメするパターンに分かれます。atama+では、ここでAI分析を活用して学習者にとって最適な問題や学習方法をオススメするというシステムとなっているようです。AIに分析させるためには大量のデータを投入する必要がありますが、こちらについても既に多くの学習者のデータが蓄えられているようです。

○オススメするコンテンツは?
何かが原因で間違えてしまった場合において、すぐに修正できるような計算間違えであれば検算の仕方を覚えたり、注意しながら解いたりという方法で問題を解決することができます。
しかし、単元の内容を理解していない状態で、類似問題が出題されても同じように間違えてしまいます。
コンテンツに関しては、何を、どこまで遡って提供できるかということもe-ラーニングを設計する会社によって異なってきます。atama+では、間違えた問題の類似問題だけでなく、理解を促す動画コンテンツの提供や、間違えた問題に関連する単元の問題を学年に関係なく遡って学習できるようになっているようです。

<他のe-ラーニングとの違い(2):学習サポーターがいることが前提の設計>
atama+が予備校や塾、また学校という場面でも相性が良いのは、学習者がe-ラーニングに取り組んでいるときに学習サポーターが近くにいるということを前提に設計されている点にあります。
特に学習サポーターは、結果だけを見るのでなく、リアルタイムで学習者の状況が見られるような設計になっており、学習が進んでいない学習者に声をかけられるようになっています。まさに先週ご紹介した「令和の日本型学校教育」の目指すところにある「指導の個別化・学習の個性化」に相性の良いシステムだと言えると思います。

2.各業界とのタッグがすごい(塾・学・大学)

最近、atama+は、教育業界のさまざま場面で活用されてきているので、まとめてみました。

<塾業界>
日経新聞(21/1/19)の記事によれば、すでに駿台予備校など大手予備校・塾、約2,100教室でatama+が導入されているそうです。
2017年からの商品を本格的に提供してきたことを考えれば素晴らしい勢いで協力関係を広げていらっしゃると思います。

実は、atama+を導入するにあたっては、塾・教室側にしっかりとした研修が求められているそうで、受け入れる側にもそれなりの覚悟が求められます。
株式会社atama plus側としても「導入して終わり」とした方が楽なはずなのですが、「しっかりとatama+を使用してもらう」「学習者に役立ててもらおう」という気概が見えるため、ここを妥協しない姿勢というのは会社として素晴らしいと感じています。

<学校向けサービス>
予備校・塾とのタッグからの拡大として、学校市場にもサービスを提供している予備校や塾との新たなサービス展開は2020年度のトレンドだったように感じています。

▼ 駿台との『高2駿台atama+共通テスト模試』の実施

「駿台atama+共通テスト模試」とは
2020年7月よりatama plusと駿台 がはじめた「駿台atama+共通テスト模試」は、オンラインで自宅から受験できる模試です。オンラインの特性を活かし、従来になかった、きめ細かな弱点分析とフィードバックを試験終了直後から受けることができます。
模試を実力判定・志望校判定のツールで終わらせず、より効率よく、最短で弱点を克服し力を伸ばす学びのサイクルへつなげます。

2020年7月の受験者数は、会場で実施した「駿台共通テスト模試」の申込数は33,578人に対し、オンラインで実施する「駿台atama+共通テスト模試」の申込数は、約1.3倍の41,819人となったそうです。
共通テストが50万人ほど受験することを考えれば母集団はまだまだありますので、これからまだまだ伸びてくる可能性があるなと感じています。

▼TOMASとエデュケーショナルネットワークによる放課後講座実施
個別指導塾を手がけるスクールTOMASと、Z会グループのエデュケーショナルネットワーク(EN)は、学校内の放課後学習のサポートをする事業を担っています。

この2社は、atama+というAI学習システムと、自社の講師派遣や学習カウンセリングなどを組み合わせたサービスを学校に展開しています(ENは21年度から本格的なサービス提供)。
講師には、予備校や塾にお願いしている内容と同等の研修を行い、atama+が最大限活用される仕組みが作られているようです。

エデュケーショナルネットワークのプレスリリース(2021.2.4)

<立命館大学との連携〜実はなかった学習システムと入試の連携〜>
2020年12月22日に発表されたプレスリリースによれば、立命館大学に進学する附属校生を対象にatama+を活用した大学入学前基礎学力定着の実践研究を開始するそうです。2021年4月より学習歴を踏まえた新たな入試企画やオンライン入試プラットフォームの開発検討に入っていくことのことですが、これは拡大の仕方によっては大変面白い展開になりそうな予感を秘めている筆者は考えました。

2020年度は共通テストが大々的に取り上げられていますが、大学入試改革では共通テストだけでなく、2019年度から「高校生のための学びの基礎診断」という高校の基礎的な学力が身についてるかを測定するテストが実施されています。また、実行には至りませんでしたが、大学入試に「ポートフォリオ」を導入しようという展開もありました。
「学びの基礎診断」はある時点での学習成果を測定するもので、「ポートフォリオ」は学習歴などを追っていく性質を持っています(※必ずしも主要5教科の学習歴を追っていく訳ではないですが)。

今回の立命館大学とatama+の取り組みが、他大学へ展開したり、付属高校以外の学校でも適用されるということになれば、atama+で学習した履歴が大学の合格への足がかりになるというような構造が生まれていく可能性があります。
大学が入試で参考にするのが、「資格(級・スコア)から学習歴へ」となったら、様々な教育業界の構造が代わりそうな気がしています。

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