建築士の設計責任(官庁工事の場合)

建築基準法は建築物だけを対象としていると(一般的には)思われていますが、違います

建築基準法にて、建築設備設計についても言及している(「建築設備」という用語が、建築基準法第2条第三号で定義されていることを指す)ことは意外に知られておりません。



とりあえず、以下のケースを参考に「官庁工事」として設置されたガスヒートポンプにて発生した騒音公害の設計責任について調べてみます。



官庁工事なので、当然、国土交通省「建築設備設計基準」を遵守することとなります。
本基準の紹介文には、「建築設備設計基準は、基本計画により設定された内容に基づき、官庁施設の建築設備の実施設計を行う場合に適用する」とあります。

官庁工事にて設計業務が外注となり、設計事務所判断でガスヒートポンプ採用する場合、基本設計段階で、レイアウト設計、ガスヒートポンプの機種選定、防音壁設置等検討するはずです。

「建築設備設計基準」においては、「第5編給排水衛生設備」にて、ヒートポンプ給湯器の基本仕様についての記述があります。また、「第8編共通編」にて、(ガスヒートポンプ採用を想定した)防音及び防振の記述があります。

https://www.mlit.go.jp/gobuild/content/001390961.pdf

第 5 編 給排水衛生設備
第 3 章 給湯設備
第 4 節 ヒートポンプ給湯機
(1) ヒートポンプユニットの加熱能力及び貯湯ユニットの容量は、施設の給湯負荷特性、日給湯
負荷及び運転時間に基づき算定する。
(2) ヒートポンプユニットの運転時間は、給湯負荷特性を考慮して算定する。

第 8 編 共通編
第 4 章 防音及び防振
第 1 節 防 音
(1) 設備機器類の運転音が、放射、透過及び伝搬により居室等に影響を与えることのないように、
適切な防音措置を検討する。
(2) 騒音の発生が予想される設備機器等は、低騒音形を採用するとともに、適切な遮音装置又は
消音装置を検討する。
(3) 屋外の防音は、発生騒音値が距離、遮音壁等により減衰する値を確認し、敷地境界上又は受
音点での騒音規制法等の関係法令の許容騒音値以下とするように措置を検討する。
第 2 節 防 振
設備機器等の振動が、伝搬により居室等に影響を与えることのないように、振動の振幅を抑制
する等、適切な防振措置を検討する。

官庁施設のガスヒートポンプにて騒音公害発生する事態となった場合、設計上「建築設備設計基準」に適合していないと言えそうです。

次に、建築士法の懲戒に関する記述を参照します。


官庁工事「建築設備設計基準」に適合していない状態は、上記二項の字句から、とりあえず、不誠実な設計と解釈できそうです。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC1000000202
(懲戒)
第十条 国土交通大臣又は都道府県知事は、その免許を受けた一級建築士又は二級建築士若しくは木造建築士が次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該一級建築士又は二級建築士若しくは木造建築士に対し、戒告し、若しくは一年以内の期間を定めて業務の停止を命じ、又はその免許を取り消すことができる。
一 この法律若しくは建築物の建築に関する他の法律又はこれらに基づく命令若しくは条例の規定に違反したとき。
二 業務に関して不誠実な行為をしたとき。

(違反行為の指示等の禁止)
第二十一条の三 建築士は、建築基準法の定める建築物に関する基準に適合しない建築物の建築その他のこの法律若しくは建築物の建築に関する他の法律又はこれらに基づく命令若しくは条例の規定に違反する行為について指示をし、相談に応じ、その他これらに類する行為をしてはならない。

(信用失墜行為の禁止)
第二十一条の四 建築士は、建築士の信用又は品位を害するような行為をしてはならない。

(知識及び技能の維持向上)
第二十二条 建築士は、設計及び工事監理に必要な知識及び技能の維持向上に努めなければならない。

以上から、官庁施設で官庁工事の設計基準が存在する以上、ガスヒートポンプを採用する際の基本設計業務はかなり慎重にやらざるを得ないこととなります。

官庁工事以外で、建築設備設計マターで設計責任を追及できるかどうかは、国土交通省に問合せしないとはっきりしません。が、官庁工事による騒音被害で設計業務に瑕疵があったと主張することは、再発防止のうえで効果が期待できるかもしれません。

なお、会計検査院は受注企業からみて、かなり嫌がられる存在です。知っておいた方がいいでしょう。




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