建築基準法「既存不適格建築物」について

過去に対応した中で、「建築基準法上の検査に合格した建築物なので問題ない」と主張される自治体職員がおられました。本当にそうなのか調べ直したので、以下に説明します。

建築基準法では、「保安上危険、衛生上有害となる既存建築物の取扱い」について定めています。
衛生上有害という意味として、字句解釈的には「環境衛生上有害な公害事案」も含めると読み取れます。

https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=325AC0000000201

建築基準法

(保安上危険な建築物等の所有者等に対する指導及び助言)
第九条の四 特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により次章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)について、損傷、腐食その他の劣化が生じ、そのまま放置すれば保安上危険となり、又は衛生上有害となるおそれがあると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、修繕、防腐措置その他当該建築物又はその敷地の維持保全に関し必要な指導及び助言をすることができる。

(著しく保安上危険な建築物等の所有者等に対する勧告及び命令)
第十条 特定行政庁は、第六条第一項第一号に掲げる建築物その他政令で定める建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により次章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)について、損傷、腐食その他の劣化が進み、そのまま放置すれば著しく保安上危険となり、又は著しく衛生上有害となるおそれがあると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用中止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを勧告することができる。
2 特定行政庁は、前項の勧告を受けた者が正当な理由がなくてその勧告に係る措置をとらなかつた場合において、特に必要があると認めるときは、その者に対し、相当の猶予期限を付けて、その勧告に係る措置をとることを命ずることができる。
3 前項の規定による場合のほか、特定行政庁は、建築物の敷地、構造又は建築設備(いずれも第三条第二項の規定により次章の規定又はこれに基づく命令若しくは条例の規定の適用を受けないものに限る。)が著しく保安上危険であり、又は著しく衛生上有害であると認める場合においては、当該建築物又はその敷地の所有者、管理者又は占有者に対して、相当の猶予期限を付けて、当該建築物の除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用禁止、使用制限その他保安上又は衛生上必要な措置をとることを命ずることができる。
4 第九条第二項から第九項まで及び第十一項から第十五項までの規定は、前二項の場合に準用する。

https://www.mlit.go.jp/common/001205298.pdf


具体例の解釈集として、「既存不適格建築物に係る指導・助言・勧告・是正命令制度に関するガイドライン」(国土交通省住宅局建築指導課)があります。

その中で、
「著しく保安上危険となる既存建築物として、(1)建築物において、劣化や自然災害等が原因で倒壊等する可能性が高いもの(2)建築物が倒壊等した場合、通行人等に被害が及ぶ可能性が高いもの」と定義しているほか、
「衛生上有害となる既存建築物」について、「建築物又は設備等の破損等が原因で、通行人等に被害が及ぶ可能性が高いもの」と定義、踏み込んだ事例紹介があります。
衛生上有害対象となる事象については、第三者への被害を予見しているため、建築物と同時期に竣工した、新築時に問題なくても、その後騒音被害が拡大した場合は、当該設備機器に適用可能と思われます。
「既存不適格建築物」の条項は、建築物と一体ものとして設置された設備機器の場合、特に、屋上や建屋内組み込み設置されたケースは適用しやすいと解釈できそうです。

既存不適格建築物に係る指導・助言・勧告・是正命令制度に関するガイドライン
https://www.mlit.go.jp/common/001294995.pdf


https://www.mlit.go.jp/common/001294995.pdf

既存不適格建築物の一般的な適用範囲として
「完成当時適法であった建築物が、一部朽廃することなどによって、外
観からの目視等によって、例えば、
・主要なはりの中央部付近の下側に構造耐力上支障のある欠込みが生じている場合
・避難階段の一部が欠損している場合
・排水のための配管設備が破損し、配管設備の末端が公共下水道等に有効に連結さ
れていない場合
には、建築基準法令への「違反」に該当する可能性がある」
と建築物以外の付属設備についての言及がある。

https://www.mlit.go.jp/common/001294995.pdf

第3章 法第9条の4又は法第 10 条に基づく措置の対象と考え方

法第9条の4に基づく指導・助言制度及び法第 10 条各項に基づく勧告・是正命令
制度は、対象となる建築物が、法第3条第2項の規定により法の規定中「第2章の規
定又は同章の規定に基づく命令若しくは条例の規定」の適用を受けない既存不適格建
築物に対して行われるものであることから、建築基準法令に違反する建築物に対して
行われるものではない。
したがって、完成当時適法であった建築物が、一部朽廃することなどによって、外
観からの目視等によって、例えば、
・主要なはりの中央部付近の下側に構造耐力上支障のある欠込みが生じている場合
・避難階段の一部が欠損している場合
・排水のための配管設備が破損し、配管設備の末端が公共下水道等に有効に連結さ
れていない場合
といったことが明らかな場合には、既に建築基準法令への「違反」に該当する可能性
があるため、その場合は法第9条に基づき是正命令を行うことが考えられる。
このように、法第9条に基づく是正命令を行うか否かは、実体違反の有無によって
判断することができる。
一方で、法第9条の4及び法第 10 条各項に基づく措置の実施に際しては、特定行
政庁の実績等をもとに整理した以下の第1節~第4節に示す考え方を参考に、特定行
政庁による運用において判断を行うことが必要である。

第1節 「著しく保安上危険」及び法第 10 条に基づく措置の考え方
1. 「著しく保安上危険」の考え方
「著しく保安上危険」の判断にあたっては、以下(1)及び(2)に示す事項を勘
案することが考えられる。
(1)建築物において、劣化や自然災害等が原因で倒壊等する可能性が高い
(2)建築物が倒壊等した場合、通行人等に被害が及ぶ可能性が高い

第2節 「そのまま放置すれば保安上危険」及び法第9条の4に基づく措置の考え方
1. 法第9条の4に基づく措置の対象について
建築物の現状として第1節1.に示す状態に至っていないものであっても、「そのま
ま放置することで保安上危険」となるおそれがある場合は、法第9条の4に基づく指
導・助言を行うことができる。具体的には、
○建築物の傾斜について1/20 を超えない等、第1節1.(1)ⅰ)(イ)に示す状
況とはなっていない
○軒や庇の一部について、落下するおそれがあるが、第1節1.(1)ⅱ)(イ)に
示す状況にはなっていない
○外壁のタイルに浮きがあるが狭い範囲である、外壁にひび割れがある等、第1節
1.(1)ⅱ)(ロ)に示す状況に比べて軽微である
○鉄筋コンクリート造で、柱の帯筋間隔の不足等に起因するひび割れがある
○木造で、構造耐力上主要な部分の継手・仕口のかすがい等の劣化等に起因する緊
結不足がある
等の状態が考えられる。
3. 法第9条の4に基づく措置の内容について
法第9条の4における「そのまま放置」の期間については、建築物の個別の状況に
応じて判断する必要がある。
なお、法第9条の4に基づく指導・助言を行う際には、特定行政庁として、既存不
適格建築物に対して措置を行う意味を鑑みて、社会的必要性の観点から第1節2.に
示す①~⑤等を総合的に分析・検討し行うことが考えられることに留意されたい。

第3節 「著しく衛生上有害」及び法第 10 条に基づく措置の考え方
1.「著しく衛生上有害」の考え方
「著しく衛生上有害」の判断にあたっては、以下に示す事項を勘案することが考え
られる。
建築物又は設備等の破損等が原因で、通行人等に被害が及ぶ可能性が高い
本事項の考え方については、以下のとおりである。
○建築物又は設備等の破損等が原因で、通行人等に被害が及ぶ可能性が高いか否
かについて
建築物又は設備等の破損等が原因で、通行人等に被害が及ぶおそれがあるか否
かについては、例えば、吹付け石綿等が飛散し暴露する可能性が高い状況などが
確認され、通行人等へ被害をもたらす状況であるか否か等により判断する。また、
建築物を利用する者については、不特定又は多数の者が利用する場合には、特に
判断にあたり考慮することが考えられる。ここに列挙したものは例示であること
から、個別の事案に応じてこれによらない場合も適切に判断していく必要がある。
2. 法第 10 条各項に基づく措置の内容について
1.に示す「著しく衛生上有害」の考え方を参考に、そのまま放置すれば「著しく
衛生上有害」となるおそれがある定期報告対象の既存不適格建築物については、法第
10 条第1項に基づく勧告を、既に「著しく衛生上有害」である既存不適格建築物につ
いては、法第 10 条第3項に基づく是正命令を行うことができるが、その内容につい
ては、建築物の状態・状況に応じて、除却、移転、改築、増築、修繕、模様替、使用
中止又は使用禁止、使用制限等の措置を使い分ける必要がある。例えば、吹付け石綿
等に対する措置としては、吹付け石綿の除去、封じ込め、囲い込み等の措置が考えら
れる。
なお、法第 10 条第1項における「そのまま放置」の期間については、建築物の個
別の状況に応じて判断する必要があるが、特に、1年以内程度の近い将来において著
しく衛生上有害な状態となるおそれがある場合には、早急な措置が必要と考える。
加えて、法第 10 条各項に基づく措置を行う際には、特定行政庁として、既存不適
格建築物に対して措置を行う意味を鑑みて、社会的必要性の観点から下記①~⑤等を
総合的に分析・検討し行うことが必要であることに留意されたい。
①既存不適格であることを許容せず是正させる必要性
②これまでの行政指導等の経過と所有者等の対応
③危険の切迫性(地域の実情を含む。)
④他の手段によってその履行を確保することの可否
⑤所有者・占有者等の特別な事情


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