初代ゾンビ誰が噛んだゾンビ

私は今、病院の待合室にいる。診断結果を待っているのだ。
最近体の調子がどうも良くない。と言うのも、ここ数ヶ月私の生活習慣が大きく変わった。
それは、SASUKEに出たことに始まる。

SASUKEとは自分の身体能力を活かし、さまざまなアスレチックのようなアトラクションをクリアしていくテレビ番組だ。
アトラクション自体の難易度が高く、成功した時の興奮はその場にいる人たちだけではなくテレビの視聴者にも伝播するため、大変人気のあるテレビ番組だ。
私は高校時代に甲子園の出場経験があるほど、運動には自信があった。
多くの挑戦者が1stあるいは2ndステージで脱落していく中最終ステージまで駒を進めた私は、最終ステージをクリアすることはならなかったものの、普段和尚さんをやっているという物珍しさもあってか、瞬く間に“アスリートすぎる和尚さん”としてテレビのバラエティに引っ張りだことなった。
テレビの仕事は楽しくもあったが、思った以上に周りの目が気になるようになり精神的に疲れがたまり、また、寝付けない日も多くなっていた。
そんなある日、以前CMに出演したお礼としてスポンサーからリポビタンDが箱で届いた。
CMに出演させていただいた側であるにもかかわらず、商品まで貰えるとはありがたいと思ったがその反面、競合他社品を消費するなと暗に脅されているようで怖くもあった。
しかしタウリン1000mg入っていることで有名なこの製品は、疲れのたまっている私にはうってつけのように思われ、毎日毎日何本も飲み続けた。
その結果、冒頭で述べたように体調が優れないのだ。

診察室から看護師に呼ばれた私は医者の前に座る。
「採血の結果、少し気になる点が。」先生が苦い顔をしながら言う。
「異常な数値が出ましたか。」私は気になる。
「赤血球などは特に異常は。」
「ではなにが。」緊張からか、体がまるで瓶のように硬直し始める。
「普通検出されるはずのないタウリンが1000mgほど。」

カラーン、パリン。と瓶が地面に落ちて割れたような音が診察室に鳴り響く。

病院の受付ではお昼のワイドショーが点いている。
元々お笑い芸人だった、今はただの偉そうなだけの番組MCがCM振りをする。
筋肉自慢の男性タレント二人が山肌をクライミングするCMが始まる。
一人のタレントが落ちそうになり、もう一人が彼を掴む。
ファイト一発の掛け声で二人は力を合わせ、なんとか登りきった。
そしていつものように栄養ドリンクの名前が男の声とともにテレビ画面に映し出される。
「タウリン1000mg配合、リポ和尚さんD」