スペイン・ハプスブルク家、滅亡へのカウントダウン(多重近親婚と遺伝病)
1.はじめに
ヨーロッパ各国の王室では、高貴な血脈を維持するため、伝統的に近親婚が行われてきたが、時として遺伝病が多発し問題になった。最たる例は、ご存知の方も多いと思うが、16世紀にはヨーロッパ最大の繁栄を誇ったスペイン・ハプスブルク家の、下顎前突症による特徴的な顔貌と、未熟児の多発による滅亡である。
2.なぜ遺伝病が起こるのか
今回、近親婚で遺伝病が起こりやすい理由を調べたところ、メンデルの遺伝学がヒントになることが分かった。
ある遺伝子領域における、優性性質Aと劣性性質aは、ランダム条件下では1/4がAA(ホモ)、1/2がAa(ヘテロ)、1/4がaaで、表現型は3/4がA、1/4がaになる。
ホモ接合では、ヘテロ接合より、性質がより強く発現することがあるとされているが、近親婚においては、ヘテロ接合に対するホモ接合の割合が高くなることが知られている。つまり、遺伝形質がより強く発現するために重症化しやすいと考えられる。
3.近親婚の数学的評価法(近縁係数)
近親婚の数学的評価法として近縁係数がある。自分自身を1、父親、母親を1/2、祖父母を1/4という風に評価する方法である。以下、具体例で検証を行う。
4.例)スペイン・ハプスブルク家
最後の当主、滅亡の張本人であるカルロス2世から辿ることにする。
カルロス2世(①):1 ⇒本人
①の父フェリペ4世(②):1/2、①の母マリアナ(③):1/2 ⇒1代前
③の父フェルディナント3世(④):1/4、③の母マリア(⑤):1/4 ⇒2代前
②の父フェリペ3世=⑤の父(⑥):3/8、②の母マルガレーテ=⑤の母(⑦):3/8 ⇒2代前、3代前
④の父フェルディナント2世(⑧):1/8、④の母マリア(⑨):1/8 ⇒3代前
⑦の父カール2世=⑧の父(⑩):1/4、⑦の母マリア=⑧の母(⑪):1/4 ⇒3代前、4代前
⑥の父フェリペ2世(⑫):3/16、⑥の母アナ(⑬):3/16 ⇒3代前、4代前
⑬の父マクシミリアン2世(⑭):3/32、⑬の母マリア(⑮):3/32 ⇒4代前、5代前
⑫の父カール5世=⑮の父(⑯):9/64 ⇒4代前、5代前、6代前
⑨の父ヴィルヘルム5世(⑰):1/16 ⇒4代前
⑪の母アンナ=⑰の母(⑱):5/32 ⇒4代前、5代前
⑭の父フェルディナント1世=⑱の父(⑲):1/8 ⇒5代前、6代前
⑯の父フィリップ=⑲の父:17/128、⑯の母フアナ=⑲の母:17/128 ⇒5代前、6代前、7代前
つまり、スペイン・ハプスブルク家最後の国王カルロス2世から見て、初代国王カール5世の父フィリップは、5代前の先祖にして6代前、7代前の先祖でもあり、近縁係数は3代前の先祖(普通は1/8)よりも高い17/128であることが判明した。
5.まとめ
近親婚では、ホモ接合の増加、近縁係数の増加などにより遺伝病が増加する。ヨーロッパ王室では、しばしば近縁係数が非常に高い例を認めた。
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