楽曲「daylight seeker」の解説

今回はいつものお気持ち表明交換ノートではなく、
アドベントカレンダー向けに書いた記事になります。

さて私はかつてボカロPとして活動していた時期があります。その時に「daylight seeker」という楽曲を作りました。
おかげさまで公開した楽曲群の中ではかなり高い評価をいただいた曲ですが、シンプルな中にもそれなりに趣向を凝らした部分があるのでここで解説してみようかなと思います。

ちなみにキーはDです。

この曲は「ピアノとドラムとベースのシンプルなアレンジの曲を作ろう」という考えのもと作り始めましま。制作期間はおおよそ一週間ほどです。一曲に数ヶ月かかることもざらな私としてはかなりスピーディーにできた一曲ですね。

では各セクションの解説をば。

イントロ

イントロは前半と後半の二つに分かれます。
イントロ前半は本当に導入ですね。8小節まるまる「ため」としての役割になってます。静かに入ってためて後半につなげる感じです。
夜明けがテーマなので、全体的に煌びやかな中に少し物悲しさもある曲なのですが、その物悲しさを出す為に繰り返しの2度目はV→VIの間でよく使われるpassing diminishを使いました。…VI度はその後にこないですが。働きとしてはドミナントなのでやはりタメとして働いてます。

イントロ後半は間奏と同じであり楽曲全体の雰囲気を提示しました。ここでもpassing diminishを使ってます。シンプルですが、ちょうど低音部記号あたりの音域でピアノ左手(5度とオクターブ)を鳴らすのに加えベースも入ってくるので一気に音の厚みが増します。コード感は薄めですが要所要所で右手メロディーの中で和音を鳴らして補完しています。
一般的に低音部分ではあまり密な和音を鳴らさずに根音と5度や7度程度に抑えておいたほうがすっきりします。
イントロ後半はドラムのフィルインから入ってますが、この「ダンドンダカダン」というフィルはドラムの入りとしてとても万能だと個人的に思っていて、この曲に限らず色んなところで使っています。
メロディは雰囲気通り歌うようなイメージで。
なおこの曲は人力演奏可能なように作ってありますが基本的に打ち込みです。しかもピアノが全面に出てくるので特にこういうピアノのメロディの部分は細かく調整したほうがいいですね。細かい装飾音とかダンパーペダルとか、タイミングずらしによるヒューマナイズとか、やるとやらないとでは段違いですね。
イントロ後半最後はIV度の準固有和音で哀愁を出しました。

Aメロ

Aメロ、特筆すべき何かがあるかというと微妙ですが、再び静かになる部分です。ただイントロ前半と異なり歌があるのと、ピアノ左手による中低音部を残してあるので雰囲気は大きく違うはずです。ピアノ右手はメロディ要素を抑え、シンプルなリズムで、ジングル的にしました。定番と言えば定番ですが、やはりこういう高音部分で鳴らす単音は良いですねえ。

Bメロ

部分的な転調が含まれてます。Aメロよりさらに静かになります。ドミナントモーションは万能なので簡単に元の調に戻ってこられます。
ピアノはAメロとは打って変わってコード感増し増しですね。申し訳程度のメロディです。
ベタなIV-V-Iという進行で終わってますが、その後3度の音が長3→完4→増4→完5と移動する上行クリシェを使ってもう1段階「緊張/弛緩」を回してます。
ちょうどこの部分(「増してゆくだろうけど」)でピアノ左手を低音部にシフトすることでもサビ前のタメを表現しています。

サビ前半

高音へ伸びるメロディを聴かせたいので伴奏はコードとリズムに全振りです。あとペンタトニックスケールはなんだかんだ言ってつよい。「なんでもかんでもペンタ」は曲が安っぽくなるのであんまり良くないと思いますがやっぱり日本人はこの音階好きなのでサビとかでガツンと持ってくるのはやはり効果的だと思います。基本ダイアトニックコードの繰り返しですが、passing diminishをここでも取り入れている箇所がありますね。ダンスミュージックでもない限りはこういう変化を多少面倒でも入れたほうが良くなることが多いです。

サビ後半

二段サビ、いいですよね。二段サビの後半で歌メロが速く細かくなるのも個人的に定番だと思います。
IVから始まる定番進行にも色々ありますがIV-V系の循環している感はやばい。一息つく間を与えない進行ですね。メロディは同じ繰り返しですが、実はコードは異なります。
あとはやはりラストのドミナントでのタメですね。ここまででも似たのは何回か出てきましたが、ここのVI度のV度(F#7)が一番露骨かつ最も盛り上がるポイントです。ここはコードを感じて欲しい部分なので、歌のメロディもコード構成音のアルペジオになってます。特に借用和音であることを決定づける音でありVI (Bm)への導音であるA#は絶対に入れたかった。
歌メロがリズム寄りなのでピアノの方に歌ってもらいました。結構前半と対比になってる部分が多いです。

転調について

2回目のサビではサビ前半部を2回繰り返しますが、ここで転調しています。キーとしては+2です。ここでは結構無理矢理ドミナントをねじ込んで転調しているので聴いてすぐにわかると思います
そして後半部も2回繰り返していますが、実は地味にここでも転調(+1)しています。よくあるラスサビで半音上がるタイプの転調ですが、後述の理由でコード進行がガラッと変わっていることと歌メロも速く細かいことから意外と気づかなかったという人もいたようですね。

ラスサビ後半部

コード進行ががっつり変わってます。ここだけIV-Vではなくカノン進行になっていますね。トニックであるIから始まる進行をサビに持ってくるのは開放感がある反面フックに乏しい印象がありますが、逆にラスサビに持ってくることでその開放感が際立つと考えてこうしてあります。サビ繰り返しなら「タメてからサビでツカむ」必要がないので出来ることだと思います。
カノン進行はルート下降進行なのでやはり二段サビの後半に持ってくることでそれまでの盛り上がりを活かす形になるのも大きいかも。

エンディング前の部分

「彗星のように〜」の部分ですが、ここのメロディは実はサビ前半と同じです。オクターブ違いの部分も含めると実はかなり同じなんですが気づいたでしょうか。ここもコード進行は違って下降進行(ダイアトニックパラレルモーション)になってるため結構印象は違いますが。

エンディング

ちょうどイントロを反転させた構成になっています。転調した後なのでキーが違います。それもあって印象が少し違うかも。特に違うのはラストですね。dimではなく綺麗にI度で終わります。イントロがdimで終止しなかったぶんの伏線を回収したということですね。

いかがでしたか?()

わりと理詰めで「ここはこうだからこうしよう」と作ってるタイプなので、意外と自分の曲の解説はできる方だと思います。
ああ、そうそう、サビメロ自体は「神が降りてきて」できたので解説はできません(秒で手のひら返し)。

ここで語り忘れてる部分もたぶんあるので他に気になる部分も聞いてくれれば答えられるかもしれません。

それでは。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?