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マッチの後のデスマッチ 第37回 かつお

わかめさん、こんばんは。かつおです。

ぼくは相変わらず実家で時間を腐らせる毎日を送っています。ここ2週間、身内以外の人間と一度も会っていません。毎日、朝昼晩、親の飯を食い、自転車で25分かかる本屋と家を往復するだけの最低ニート生活です。「俺ってこんなにクソな感じだったけ?」と思いながらも、身体に力がみなぎらず、夜が来て、「俺ってこんな……」と、繰り返しています。

最初から何てつまらない近況報告をしているのでしょう、ぼくは。そういえば唯一毎日、英語の勉強だけはしっかり続けているかもしれません。これだけが真っ当な人間らしき日々の営みですね。実は来週の土曜日から一ヶ月間のフィリピン留学に行くのです。

わかめさんもTinderを始めましたか。そして「アキヒコ」に心の穴を埋めてもらった、と。楽しそうでなによりです。でも単純に考えると、出会い系アプリをやるような人間って実生活の恋愛で夢破れた敗者か、実生活の恋愛では飽き足らない人格破綻者がほとんどじゃないですか? それにだいたいリスクを取らないで手軽に出会おうなんて、根本的に真摯さが欠けた虫のいいユーザーしかいませんよね。例えば堂々と偽名を使って登録するユーザーとか。こんなアプリばっかり使ってたら、義務は果たさないくせに権利ばっかり主張する傲慢な人間になっちゃいますよ。まったく。こんなバイアスかかりまくったことを書いてたら、四方八方から非難が飛んできそうですが。

というかそれはお前自身も否定することになるじゃないか、と思われるかもしれませんが、そうではありません。ぼくはTinderのアカウントを削除しましたから。


「It’s a Match! あなたと〇〇さんはお互いに気に入りました。」

つい1週間ちょっと前のことでしょうか。Tinderを開いていたら急に、女性と「マッチ」したことを知らせる通知が画面いっぱいに広がりました。ぼくはなかなかこの「マッチ」というものが起こらないゆえ、驚きで目を見開き、河川敷でエロ本を見つけた中学生のように、すぐさまその女性のプロフィール欄をむさぼり読みました。23歳、映画や音楽、アートが好きなお洒落カルチャー系、そしてなんと美しい女性なのか! 黒髪ロングで、真っ赤な口紅が似合うクールビューティー系。こんな人が本当に俺を「LIKE」したのか!? プロフィール写真は3〜4枚設定されてあり、編み物をしている外国のおばあちゃんとかが座ってそうなバカでかい椅子に座った写真、ぼくもたまたま知っていた外国の写真家の展覧会で撮った写真、ぼくもたまたま知っている映画のワンシーンの写真などで構成されていました。

「これは話題の切り口がたくさんあるな」と思い、心のなかでガッツポーズをしましたが、その人はなんとなくクールっぽい人だったので、明るすぎる挨拶だと逆に印象が悪くなるのでは、など考えたすえに「こんにちは。2枚目の写真って〇〇の展覧会ですか?」とシンプルに挨拶を送りました。

数十分後「こんにちは。そうですよ!! 気づいていただいたの始めてです。嬉しいです!」というような、期待以上に明るいお返事が返ってきました。(Tinderのアカウントを消してしまったので上手く再現できないのですが、もう少し、こちらがドキッとするようなお返事でした)。くほほほほほほ。心のなかで笑いました。ええ、僕はこれだけで、「恋愛特有の高揚感」を覚えていましたよ。女性から好意的な反応を得られることなんて、日常でそうそう無いんですから。

その後はプロフィール写真のなかにあった映画の話題なども振りました。そちらも「そうなんですよ! こっちもわかるんですね! あのヒロインの女の子がすごく可愛いですよね!」みたいなテンションの高い返事が来ました。もう、これだけでぼくの中では最高に気持ちのいいキャッチボールをしてる気分でした。自分がボールを投げたら、相手がキャッチして、胸元にストライクで返球してくれる感じ。実際はぼくが投げてたボールはへっぽこ大暴投なんですが。

映画の話などをするのも久々だったので、すっかりぼくは楽しくなっちゃって、始めてTinderの楽しさをちゃんと味わってる気がする! と思いました。しかし何回かやり取りしたあとに、問題がおきます。

一日半たっても返事が返ってこないんです。その前にも2回ほど、しばらくチャットしたあとに返事が返ってこなくて、独り「おっふ」とハートブレイクするケースがあったので、今回は「飽きられたか〜」と冷静に受け止めることができました。いや、ウソです。少し「おっふ」ってなりました。最後に送ったのは、ぼくの大好きな映画監督、アキ・カウリスマキのおすすめ作品を長文で紹介した文章でした。

で、ここから予想外にも相手からの返事が……という劇的な展開があるわけではなく、初めて自分でしっかり反省してみたんです。ぼくの話ってなんでこんなに人を引きつけないんだろう……と。自分のチャットを読み返してみました。

客観的に、離れた目で、自分の言葉を読んでみて、ふつふつと思いが湧いてきました。

つまんな! こんなやつと話してても、つまんな!
いや、お前が質問したんだから、
相手の答えにもっとテンション上がる返答しろよ!
つまんな!
好きな映画のくせに全然魅力伝えられてないやん!
全然知らない映画について、ぼやっとしたこと熱く語られても、引くわ!
つまんな! なんかとにかく全体的につまんな!

自分の言動に嫌気がさした途端、急に恥ずかしさがせきを切ったようにあふれ出して、衝動のままにTinderのアカウントを消してしまいました。

そうです。最初にTinderのユーザーはどうのこうのと書きましたけど、Tinderユーザーの女性に会話をブチられるのは、全てぼくのつまらなさのいたすところなんです。そして失敗に正面から向き合えず、アカウントを消し、逃げて逃げて逃げ回る。本当に情けない限りです。Tinderは何も悪くありません。

どうすれば楽しい「会話」ができるんでしょうね。

最後に前回のわかめさんからのご相談に簡潔にご返答させていただきます。

劇団の考えていることが全くわかりません。でも好きで好きでたまりません。かつおさん、劇団は何を考えているのでしょうか。これから私はどうすればいいですか。昨日も今日も多分明日も連絡がこない。

一度自分でフッた相手自分から「会いたい」と連絡して、それをはぐらかされそうになり、嫉妬で気が狂いそうになっている。

そんなあなたの考えていることが、

ぼくには全くわからない!


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