売れる本の法則『ベストセラー・コード』
お世話になっております。素人以上作家未満の管野光人です。
あなたは「ベストセラーになる本には法則がある」と言ったら信じますか?
それがあるんですよ、あなただけに教えます。
売れる本には秘密があったんですよ。
「売れる文章」にはアルゴリズムがある
今回ご紹介するのが、『ベストセラー・コード』(日経BP社)です。
「売れる本には法則がある」
そう聞けば物書きを自認する人は、眉に唾をつけず見向きもしないでしょう。
自分もそうでした。そんなのがあるなら苦労はしません。
だがしかし、『ベストセラー・コード』は否定します(著者名がジョディ・アーチャー&マシュー・ジョッカーズ、と長いので著書名で紹介)。
例としていくつか見てみよう。
コンピューター・モデルが算出した、ダン・ブラウンの最新作『インフェルノ』がヒットする可能性は95.7%だった。
『火星の人』は、マット・ディモン主演という話が出るまえに、93.4%という数字が出ている。
いやいや、ベストセラーなんて計算できるわけがない。それなら出版社の編集者なんていらないじゃないかと思いますよね。
でも編集者だって、すべてが有能じゃない。
それが証拠に『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』を却下したアメリカの編集者がいたそうです(映画化までされた空前のヒット作です)。
それに『ハリー・ポッターシリーズ』のJ・K・ローリングは、出版社が決まるまで12社に断られているのですゾ。
それだから『ベストセラー・コード』は言い切ります。
わたしたちのモデルによれば、J・K・ローリングの作品がベストセラーになる確率は95%だった。
はたして、『ベストセラー・コード』とはいかなるものなのでしょうか?
わたしたちはチームを組んで、ベストセラーにはシグナル、すなわち“ベストセラー・コード”が埋もれているという仮説の検証に取り組んできた。
書き手の特徴を研究する「計量文献学」がある。それにコンピューターを利用することで、売れる本のアルゴリズム(計算方法)を発見した。
そのアルゴリズムとは、文体、テーマ、感情曲線、登場人物、舞台だけでなく、文体やプロットでは捉えきれない言語的なデータまで含まれているというのです。
ベストセラーには、隠された黄金の法則がある
ベストセラーには、共通した法則があるようです。
ベストセラーといえば、いわずとしれたダン・ブラウンの大ベストセラー『ダ・ヴィンチ・コード 』(角川文庫)があります。
ネット小説の大ヒット作で映画化もされた『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ 』もありますよね。
両者はジャンルやテーマまで違うのに、同じ流れを描いたプロットをもっているのです。
それを乙一さんは感情曲線と命名していて、両者は感情の浮き沈みを示すカーブまで酷似していました。
つまり『フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ』とは、緻密に計算されてヒットを狙った作品だというコトです。ちなみに作者は女性。
それでは、ベストセラーに隠された他の要素にも注目しましょう。
世の中には容姿が似た人が3人はいると言いますよね。けれども、文章が似るコトはそれほど多くはありません。
コンピューターが文章のパターンを見抜く決め手は、前置詞、代名詞、句読点などの使い方だというのです。
つまりベストセラーの隠された秘密は、売れる文体にあるというコトですね。
新たに読者をつかみたい新人作家にとって、文体は大きな武器になるのです。新人作家の腕の見せどころは、文体と語りで個性を生みだすところにあると、『ベストセラー・コード』では力説しているのです。
それでは、売れる文体を書くうえで気をつけるコトは何でしょうか?
まずは冒頭です。
ベストセラーでは最初の一文から声が聴こえるという。長さ、句読点、簡潔さも注目に値するというのです。
次に感嘆符です。
ベストセラーの登場人物はよく質問するので、疑問符(?)が多くなる。それも会話文で使われるコトが多いのです。
ところが、感嘆符(!)は逆でベストセラーにとってはマイナス要素になるようです。
また、省略符号もよく使われるようです。
「彼の手が背中に回された。ああ、もう……」
この「ああ、もう」が不満ではないコトがわかりますね。こういう省略された場面で、読者は語り手に寄りそう感覚を味わうのです。
こうした文体の特徴を分析するコトで、ベストセラー小説のパターンが浮かびあがります。
形容詞や副詞、特に形容詞は使われる頻度が低いと統計が出ています。
つまり売れる小説は、よけいな言葉を含まず、より短い簡潔な文で成りたっているのです。
登場人物は「動詞」で語れ
『ベストセラー・コード』では、登場人物は行動しなければならないと断言しています。
そのために書き手は、動詞を駆使して登場人物に生気を宿すのです。
「ダニエラは幸せだった」と「ダニエラは笑った」は異なります。
動詞は登場人物を表すのです。
『ゴーン・ガール』のエイミーは、浮気した夫に復讐すべく計画を立てる。
『ダ・ヴィンチ・コード』のロバート・ラングドンは、閉所を恐れる。
『暗殺者』のジェイソン・ボーンは、人を殺す。
また、会話文の前後にどんなセンテンスがあったか示すデータを見ると、読者は「彼女は叫んだ」というような表現を好まないコトがわかったそうです。
いわく、了承する、述べる、声をあげる、講義する、要求する、などは好まれないそうです。
たしかに自分も、多くの小説でセリフ後のセンテンスを書きだしたコトがありますが、簡潔でつよい言葉が多かった覚えがあります。そうするコトで、セリフが引き立つのでしょうね。
登場人物を活かすコトができるかどうかは、動詞の選択が鍵を握っているのですね。
AIはトルストイと村上春樹の夢を見るか?
ベストセラー・コードを解析したデータを利用して、AIが小説を書くというアイデアがあっても不思議ではありません。
アルゴリズムで書いた初めての小説として知られている『True Love.wrt』があります。2008年に発表されたもので、プログラムしたのはロシア人です。
その『True Love.wrt』とは、AIがトルストイと村上春樹の文章を土台にして制作しましたが、内容は凡庸な小説だったようです。結局のところ、「コンピューターが小説を書いた」というのが人々を惹きつけただけなのでしょうね。
それらを踏まえて、最後に『ベストセラー・コード』は述べています。
コンピューターが人間より賢くなるのは情報処理に限った話で、小説家に求められるのは創造性や批判的な思考能力であると。
ベストセラー・コードで小説を書く気はない。
それよりは、研究から得たことをもとに、ペンと紙とともに机に向かうほうを選びたい。
クリエイターな作業がコンピューターに奪われない未来にしましょう。
それには、あなたの書いた物語が必要なのです。
あなたの書いた小説が、ベストセラーになるように願っています。
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