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ぶり返す記憶

記憶とは不思議なもので、過去の、取るに足りない微々たる出来事が、何かの拍子に、たびたび胸に去来する。

昨夜は、派手に痛飲してしまい、今日一日、ひどい二日酔いに苦しんだ。基本的に、あまり酒は強くないのだ。
二日酔いになると、決まって思い出すことがある。
二十代の頃、ある女性のアパートに転がり込んでいたことがある。その女性は、とてもエキセントリックな方で、酒は、ウイスキーのオンザロックしか飲まなかった。
ある日、銘柄は忘れてしまったが、彼女がとても大切にしていたウイスキーを、一人で空けてしまった。
「わざと問題を作って私を怒らせて、この家から出て行こうとしているんでしょう。」
彼女は、目に涙を浮かべて言い募った。
二日酔いで気分が悪く、言い返すのも煩わしかったので、俺はなにも言わずにアパートを去った。
以来、二日酔いになると、必ず彼女の涙を思い出す。
意図せず切り捨てようとしていることが、実は大切なことなのかもしれない。

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