宙返りして見た虹
駆け降りていた。幅の狭い石段を、全速力で。
俺は高校でラグビー部に入り、毎日グラウンドで、楕円形のボールを抱えて走り回っていたので、今では考えられないことだが、歩くよりも、走るほうが自然な状態だった。
学校の裏には、細くて長い、急な石段があり、そこは、脇の茂みから蛇でも出てきそうな鬱蒼とした場所なのだが、駅へ向かうにはいい近道だったので、よく利用していた。そして決まって駆け降りていた。
ある日の雨上がりに、俺はその石段で宙返りをしたのだ。
リズミカルに一段とばしで走っていたら、雨に濡れた石段で足を滑らせ、そのままの勢いで壮大に空中へと体が投げ出されてしまった。恐怖心もなにもなかった。宙を漂いながら、前方方向にくるっと一回転すると、体育の授業で習った柔道の受け身で着地した。石段の中腹付近で、起き上がろうともせずに仰向けの姿勢で大の字になり、いまの不思議な体験を、呆然としながら無言で振り返った。
上空には、太い立派な虹が架かっていた。
あたりは、物音ひとつない。
俺はまるで放心してしまったかのように、石段に寝転んだまま、いつまでも飽かずに虹を眺めていた。
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