第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」落選しちゃいましたw
先日第9回W選考委員版「小説でもどうぞ」に応募したんですが、落選しちゃいました。課題は「友だち」だったんですが、題を聞いた時、頭に浮かんだのは、大昔のお友達との記憶でした。ずっと心残りで、その時のことが未だに未消化でした。なのでそのことを書こうと思って書いちゃったんですが、こういうのも小説? っていうのかなあと、むしろエッセイ? でも私的にはその時のことを一つの場面として切り取って書いたつもりです。小説といえるか分からないけれど、書いたことによって昇華された気がしました。こういうのは、私小説ともいえるのかなあ?? よくわからないけれど、書くということは、自分の中で区切りをつけるということもあるんだなあと思いました。もちろん、結果は落選だったけれど、単にいい結果をもらうとかいうのとは違う別次元の作品となりました。よかったら読んでやってください~。
『小さな記憶』
幼稚園の頃、大の仲良しのお友達がいた。名前をさやかちゃんと言った。彼女は誰とでも仲良しになれる優しい子だった。でも私は小学一年生の時、家を引っ越して、さやかちゃんと会えなくなった。学校での最後の日、また会いに来るねと私はそう言った。さやかちゃんちは、その時住んでいた私の家から、少し離れた距離にあった。でもなぜか、電話番号も住所も知らなかったから、引っ越してからは、ずっと音信不通で一年が過ぎてしまった。
ある日、両親が何かの用でさやかちゃんの家の近くまで行く話をしていた。私は母に恐る恐る訊いてみた。
「お母さん達がそっちやってる間に、さやかちゃんちに行って来てもいい?」
すると母は、少し心配そうな顔をした。
「いいけど、一人でさやかちゃんちまで行ける? それに玄関先で挨拶するぐらいの時間しかないよ」
私はすぐさま返事をした。
「うん、いいよ」
引っ越してから、一度も連絡していないのだ。急に胸がどきどきしてきた。会ったらなんと言おうか。しばらく腕組みして考えてはみたけれど、何も出てこなかった。それでもさやかちゃんに会えると思うと嬉しかった。
それから一週間後の日曜日。私は両親の車に乗って、さやかちゃんちの近くまで出かけた。
「いい、すぐ戻って来るのよ」
もう辺りは夕暮れ時だった。外で遊んでいた子供達も、互いに手を振りながら帰って行こうとしていた。私はそんな中、さやかちゃんの家まで懸命に一人で走った。
『もし、さやかちゃんがいなかったら……』
それを考えると、ずれたバイオリンの音色が心臓の真ん中から聞こえてきそうだった。会えるんだという思いよりも、張りつめた緊張感が身体のすみずみまで行き渡った。そうこうしているうちに、さやかちゃんの家の前に辿り着いていた。
目の前には夕闇に紛れて黒ずんださやかちゃんの家のドアがあった。目をしばたたきながら、私は怖じ気づいた。あとはチャイムを押すだけなのに、それができなかった。走ってきたけど、このまま会わずに帰ってしまおうか。そう何度も思って、家の前の通りを行ったり来たりした。早くしないと、と焦れば焦るほど、どうしようという気持ちが膨らんでいった。それと同時に夕闇が足元まで忍び寄っていた。誰でもいいから私がここにいることに気づいてほしい、そう思った。
その時、どこかの犬の遠吠えが聞こえた。
そうだ、こんなことしている場合じゃない。お母さん達、私を待っているに違いない。そこでようやく小さな勇気に火がついた。さやかちゃんの家の玄関まで行くと、チャイムを押した。すると、中から階段を降りてくる音がした。さやかちゃんのおばさんが出てくるだろうか。私のこと覚えているだろうか。
いきなり、玄関のドアが開いた。
そこにいたのは、色白の少し頬がふっくらした女の子。彼女は誰だろうという顔をすると暗がりで目を細めた。次の瞬間、その女の子は、白い顔をさらに白くしてこう言った。
「ひょっとして……、みゆきちゃん?」
彼女の声はどことなく震えていた。私は自分の名前が呼ばれると、何か言おうとした。でも、舌がこわばって言葉にならなかった。それで、うんと頷くしかなかった。
「どうしたの?」
そう、さやかちゃんは訊いてきた。私は言葉少なげに答えた。
「近くまで来たから……」
「そう」
彼女の戸惑った声を聞きながら、私はとっさにこう呟いた。
「おかあさん達待ってるから、行くね」
それだけ言うと、さやかちゃんの顔をよく見もしないうちに、ぱっと走り出した。
「えっ?!」
驚いた彼女の声が風にのって、私の耳に届いた。でも私は振り返りもせずにその場から逃げ出していた。走って、走って、なぜか泣きたくなった。それは会ったら、さやかちゃんはすぐに私に駆け寄ってきて、元気だった? とにっこり微笑むものだと思っていたからだ。何か違って、そのまま母達の待つ車へと駆けて行った。そして彼女とは、それっきりとなってしまった。
今、考えるともちろん、さやかちゃんが悪いわけではないのだ。悪いのは私。一年もの間、何の連絡もしなかった私なのだ。彼女だってその一年いろんなことがあって、私のことなど忘れていたろうに。まさか私が会いに来るなんて思いもしなかったのだ。それでも、大人になった今でもその時のことが思い出される。あの時どうすればよかったのかと、戻れるものなら戻りたい。(了)
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